ドラグ家のお出迎え
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「や、やった…のか、な?」
息絶えたヘヴィクロウラーの死体の横で、肩で息を切らせる天児。三十八年間生きてきて、怪物との戦いはおろか、喧嘩もろくにした事がない彼にとって、この勝利は信じ難いものであった。
本当に自分がこんな大きな怪物を倒せたのか、半信半疑になりながらも、胸の中ではどこか達成感のようなものを感じている。
「テンジ様ぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!」
「ぐぇっ!?」
ヘヴィクロウラーの死体を覗き込んでいた天児に、マリアロイゼが物凄いスピードで飛びついた。そのまま力一杯抱き締めるその姿は、抱擁というよりも絞め技を仕掛けているようだ。
「お見事ですわ!さすがです!やっぱり私の目に狂いはありませんでした!惚れ直しましたわーーー!!」
「ロ、ロゼさ…!ぐ、苦しっ!?」
肋骨辺りからめきめきと骨が軋む音がする。だが、その前に呼吸困難になりそうだ。せっかく怪物に勝ったというのに、こんな形で天国行きではあまりにも悲惨過ぎる。
だが、どんなに天児が暴れた所で、マリアロイゼのパワーには勝てそうにない。…万事休すか。
(テンジ様のこの能力、上手く扱えばお父様やお兄様…いえ、お母様にすら勝てるかもしれませんわ。これで実戦経験さえ積めば、実力の方はバッチリです!後は女神様の失踪問題を解決したという実績で…うふふふふ!)
「あ、あら?テンジ様?テンジ様ーーー!?」
マリアロイゼが気付いた時には、天児は泡を吹き、その顔は紫色に染まった窒息寸前の状態であった。
「はぁ…し、死ぬかと思った…」
「も、申し訳ございません…つい嬉しくなってしまって」
「キュルル…」
しょげ返るマリアロイゼと一緒に、何故かフレスヴェルグも元気をなくしていた。
一行は現在、先程助けた女性の馬車に乗り、街へ向かっている。
幸い、馬車も中にいた女性も無事で、馭者や護衛の者達も命に別状はなかった。
助けた女性はミアリといい、これから向かう街の名士の令嬢であり、マリアロイゼのファンだという。本人たっての希望で乗せて貰ったのだが、死にかけた天児とマリアロイゼを見て、どういう関係なのかを気にしている様子でもあった。
「あの、マリアロイゼ様…そちらの方は一体?」
「ああ、この方は私の新しいフィアンセ、クカミテンジ様ですわ。前の粗大ゴミ…いえ、ミッシェル王子は、王子の方から婚約破棄されましたの。何でも真実の愛を見つけたとか…まぁ、それについては全く問題ございません。私も今はこうして真実の愛を見つけたのですから!」
声高に叫びながら、またも天児を抱き締めるマリアロイゼだが、さすがに今度は手加減している。
とはいえ、見知らぬ若い女性の前で激しいスキンシップを取られるのは、本気で恥ずかしい。
どうにかして放してもらえないかと思う天児だったが、狭い馬車の中では逃げ場などあるはずもなく、結局、顔を赤らめながら成すがままにされているのだった。
「まぁ…!?あのバk…王子様はなんてことを!きっとドロア様との関係ですね。あの方には私達も社交界でずいぶん苦労させられたのです。あの方、元は一般庶民の出ですから…」
「なるほど…それでですか」
一瞬、あのミッシェル王子の事をバカと呼びかけたのは、天児の聞き間違いではなさそうだ。
どうやら、王子は普段から国民に敬意を払われてはいないらしい。普段から何をしでかしているのやら、王侯貴族というものに馴染みがない天児には、理解が追い付かないようだ。
マリアロイゼとミアリがしばらく雑談をしていると、馬車は大きな門の前に到着した。街に入るには身分証などのチェックが必要らしく、門の前には順番待ちをする人々の列が出来ている。
ミアリが街の名士の娘ということもあり、馬車は顔パスで街の中に入ることが出来た。
二人はミアリに礼を言うと、馬車を降り、ミアリと別れた。
「さて、ここが最初の目的地バーソロミューの街ですわ!ここには私の叔母が住まいを構えておりますので、まずはそちらへ参りましょう」
「ロゼさんの叔母様ですか、立派な方なんでしょうね」
この世界の男性は脳筋ばかりと聞いているので、正直、力に自信のない天児には抵抗がある。その点で言えば、叔母ならばそこまで過激ではなかろうと、天児は内心ホッとしていた。
有無も言わさずまたも恋人繋ぎをされて、恥ずかしさを堪えながら二人で街を歩く。
通りにはいくつものお店が並んでいて、見ているだけでもなかなか飽きない街並みだ。
雑貨店の店先を見ると、用途は解らないが珍しい物がたくさん置いてある。ここに娘の美琴を連れて来れたら、どんなに喜ぶだろうかと、天児は少し胸が苦しくなった。
大通りを抜けると、その先は住宅街で、大小様々な家屋が建ち並ぶエリアであった。
その中でも一際大きな屋敷の前で、マリアロイゼは立ち止まり、ゆっくりと門の横にあるベルを鳴らす。
すると、大きな音を立てて門が開き、中から土煙を上げながら走ってくる人の姿が見えた。
「マリアロイゼェェェェェ!!!」
「うわっ、な、なんです?!」
「テンジ様、心配要りませんわ。少し手を離しますわね」
マリアロイゼはそういうと、天児の手を放し、腰を落として深く構えを取った。
そんな彼女に向かって、突進してきた謎の人物は、その勢いのまま右の正拳を放つ。マリアロイゼがそれを片手で打ち払うと、そこからは目にも留まらぬ連打の応酬であった。
空を切る音、拳を払う音、蹴りを防ぎ骨の軋む音…驚くべきスピードで繰り出される技の数々を、天児は全く目で追えていない。
数分間それが続いただろうか?やがて、再び繰り出された拳をマリアロイゼが掴み取ると、腰を入れ、逆の手で相手の胸倉を掴み、身体ごと回転させるように投げた。
地面に叩きつけられそうになった相手は、その瞬間に翼を開き、飛び退って投げを躱す。
そのまま向かい合い、数呼吸の後、相手はニッコリと微笑んで構えを解いた。
「お見事!腕を上げましたね。さすがお姉様の娘、ドラグ家の公爵令嬢です」
「お久し振りでございます、叔母様。故あって、連絡も無しに参りました事、お詫び致しますわ」
マリアロイゼもまた、微笑みながらカーテシーをして挨拶をすると、二人は大きな声で笑い合うのだった。
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