初めてのモンスター退治
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「風が心地いいですわねー!」
世界樹の元を離れた二人と一羽は、再び大森林の上を飛んでいた。
相変わらず天児はマリアロイゼにお姫様抱っこされているのだが、小さくなったフレスヴェルグは、何故かマリアロイゼの肩甲骨辺り、翼と翼の間に収まっている。
身体の大きさは自在に変えられるらしいが、どうやら魔力を消耗するらしく、いざと言う時に動けなくては意味がないということで、今は小さいままだ。
クルル…と小さく喉を鳴らして座っている姿はなかなか愛らしい。フレスヴェルグは毛量が多いので、小さい姿の時は特に丸い。
まるで、嘴のついた小振りな雪だるまのようなフォルムだ、可愛くないわけがない。
ただ、割と凄いスピードで飛んでいるはずなのに、あれでどうして落ちないのかが不思議だった。
世界樹の元では大変な事があったものの、世界樹の雫を飲んだおかげか、天児もマリアロイゼも体調は絶好調である。
特にマリアロイゼは身体に力が漲っていると言わんばかりに、かなりのスピードで飛んでみせている。その割に天児にはほとんど風が来ないし、寒さも感じられないのは、彼女が防御をしてくれているのだろう。
いくらなんでもしてもらってばかりなのは心苦しいなと、天児は頬を掻きながら考えていた。
「あら、もうすぐ大森林を抜けますわね?気分が良くて飛ばし過ぎてしまいましたわ」
「え?もうですか?早いですね」
天児も空の眺めは楽しんでいたので、もうすぐ終わってしまうと思うと少し寂しい。とはいえ、うっかりそんな事を言おうものなら、マリアロイゼはひたすら自分を抱えて移動しかねない。
天児は滅多な事を言わないようにと自分に言い聞かせている。
森を抜け、広い草原の真ん中で、マリアロイゼは静かに着地した。同時に天児を降ろすと、フレスヴェルグは天児の肩に移動し、また丸まってしまった。
見た目にはしっかり重量がありそうなのに、まったく重さを感じられないのは凄いなと天児は感心している。
「さて、ここから少し北へ歩くと小さな街があるのですわ。まずはそこを目指しましょうか」
ニコニコと笑みを浮かべながらマリアロイゼが村の方向を指す。草原の傍には、きちんと舗装された道があり、それが村へと繋がっているようだ。
天児がそうですねと返事をすると、マリアロイゼは微笑みながら左手を差し出した。まさか…
「んもう!テンジ様ったら恥ずかしがり屋さんですわね!」
躊躇う天児の手をマリアロイゼは強引に取って、ギュッと指を絡めた。所謂、恋人繋ぎというものだ。
今は人目がないからいいものの、年齢的なものもあって、天児はかなり恥ずかしい。
「あ、あの、ロゼさん。これ…」
「うふふ、何か問題でも?」
「…イイエ、ナニモ」
無言のプレッシャーが天児を襲う。それは天児の肩で丸まって寝ていたはずのフレスヴェルグが、ビクっと驚いて目を覚ます程の重圧だった。天児は思わず片言で受け入れてしまうほどに。
さすがに街に入ったら離してほしいなぁと思いつつも、強く言えない天児であった。
しばらく歩けば、道の先は小高い丘になっていて、そこを登ると素晴らしい景色が目に飛び込んできた。
遠くには険しそうな山と、雄大な湖が見え、それに沿って整備された道は人の通りも多いようだ。
目的の街らしくものは見つかったが、高い壁に囲まれていて、中の様子を伺い知ることは出来そうにない。
こうして現代日本とはまるで違う風景を見ると、まるで海外旅行にでも来たかのような錯覚に陥ってしまうが、ここは海外どころか異世界なのである。
そう強く思わせる光景が、そう遠くない場所で繰り広げられていた。
「キャアアアアアア!」
甲高い女性の悲鳴が聞こえる。悲鳴の方をよく見ると、少し先を移動していた一台の馬車が、巨大な芋虫のような怪物に襲われているようだった。
「ロゼさん!あれ!」
「ええ、参りましょう!」
二人が丘の上から一気に駆け出すと、瞬く間に馬車に近づいていく。
「え、あれ!?なんか足が速い!」
天児は驚きながら走り、自分の身体とは思えない身軽さに舌を巻いた。TVで見たオリンピック選手もかくやというスピードだ。
どうやら、世界樹の雫を飲んで身体能力が向上したらしい。
ただ、足は速くなっても、元々天児は運動不足のサラリーマンである。あんな怪物と戦った事などないし、そもそも喧嘩の経験すらほとんどない。
近づいてその後どうしよう…という考えがまとまる前に、5m以上はあろうかという巨大芋虫の元へ辿り着いてしまったのだった。
「で、デカイ。これは…」
「ヘヴィクロウラーですわ!」
「ゴルルルルル…!」
唸り声を上げて、ヘヴィクロウラーは今にも馬車を押し潰そうとしている。馬車の荷台には逃げ遅れた女性の姿が見えた。
その周りには、糸で絡められた馭者や護衛らしき人の姿もあった。
「このぉっ!馬車をお放しなさい!」
マリアロイゼは叫びながら、ヘヴィクロウラーの胴体へ飛び蹴りを入れた。しかし、岩のような皮膚にヒビは入ったものの、あまりの重量からか、身体はビクともしない。それどころか、弾き返されてしまった格好だ。
いかにマリアロイゼが剛力の持ち主でも、この体格差はかなり厳しい相手であった。
「くっ!なんて頑丈な…!」
「ロゼさん!大丈夫ですか?!」
天児はマリアロイゼに駆け寄り、身体を看た。特に怪我はないようだが、彼女のパワーが通じない相手となると、どうすればよいのだろう。
肝心のフレスヴェルグは、我関せずといった様子で、丸くなって眠っている。
幸い、ヘヴィクロウラーはマリアロイゼに攻撃された事で意識がこちらに向いたのか、馬車を潰そうとする動きは止まっていた。
「ヘヴィクロウラーは火に弱い魔物ですから、通常は火の魔法を使って撃退するのですが…」
そう言って、マリアロイゼはちらりと馬車を見る。そう、この状況で火の魔法を使えば、馬車を巻き込んでしまう可能性が極めて高い。
二人が迷いあぐねいでいると、ヘヴィクロウラーはその大きな尾を持ちあげて、二人を潰そうと叩き下ろしてきた。
その動きが遅かった事もあり、咄嗟に駆け出したことで簡単に回避できたが、それだけではどうしようもない。
天児は息を整えながら呟いた。
「何か、弱点とかないんですかね?」
「弱点…あ、ヘヴィクロウラーは心臓がとても大きいのですわ。剣の腕が優れていれば、身体の隙間から心臓が狙えるとか…そうですわ!」
マリアロイゼは何かを閃いたようで、天児の肩を抱き、そのまま飛んで空中へ避難した。そして天児の耳元で囁く。
「テンジ様、今こそメートル・ゼロの出番です!私あの能力を聞いた時からずっと考えていたのですわ…その力、暗殺向きです!」
「え!?」
よりによって暗殺とは、自分とは全く無縁な言葉に、思わず天児は驚きの声を上げた。一体どういう事なのか。
「対象物との距離がゼロになるということは、どんな防御も無効ということですわ。であれば、あの鎧のように硬い皮膚に守られていても、テンジ様なら剝き出しの心臓を狙うも同然です!さぁ、イメージしてください!」
「ええええ…」
さらっとエグい活用法を思いつくあたり、やはり彼女は武家のお嬢様ということなのだろう。
「そ、そう言われても、無茶ですよ、心臓なんて見た事もないのに…!」
「アクシスさん!ヘヴィクロウラーの心臓を見せて下さいまし!」
マリアロイゼが叫ぶと、天児が小脇に抱えていたタブレット(木板)の画面に詳細な画像が現れた。
なまじ画質がいい分、とてもリアルで、人によっては気分が悪くなりそうな画像である。
「さぁこれです!」
「いやいや、これですじゃないですよ!?」
天児はそれを見せつけられてバッチリ記憶は出来たが、どうやって能力を使えばいいのかが解らないのだ。
一方、二人が宙に浮いて降りてこない事に腹を立てたのか、ヘヴィクロウラーは口をモゴモゴと動かしたかと思えば口から大量の糸を吐き出した。
その瞬間、フレスヴェルグは目を見開き、ピィィィィィッ!と警告の鳴き声をあげた。
それが合図になって、マリアロイゼは高速で移動して糸を交わし、そのまま地面スレスレを飛びながら、護衛が落としたであろう剣を拾い上げていた。
「テンジ様、大丈夫ですわ。私がついています…!さぁ、手を」
「ロゼさん…」
優しい声色で囁きながら、マリアロイゼは天児に剣を手渡し、その上から手を重ねた。
ぶっつけ本番を強要するのは、スパルタで育ってきた彼女らしさなのだろうが、ここまで天児に期待してくれる彼女に応えたいという気持ちも天児の中にはある。
(そうだ。いつまでも何かしてもらってばかりじゃダメなんだ!しっかりしろ、天児!)
自分を叱咤するその思いに呼応するように、天児の両手がぼんやりと光り出す。
やがてそれは手にした剣を覆い、見えているのに見えないような、不思議な靄に包まれていった。
「ロゼさん、もう少しアイツの近くに…!合図をしたら僕を離してください!」
「はい!」
再び、地面スレスレを飛びながら、二人はヘヴィクロウラーに接近する。
迎え撃つように吐き出される糸を巧みに避けながら、天児は感覚を研ぎ澄ませていった。
「ここだっ!」
頭の中のイメージと何かがピタリと合致する瞬間、天児はマリアロイゼから離れ、何もない空間にその剣を突き立てた。
同時に、ヘヴィクロウラーはビクンと大きく身体を跳ねて、ゆっくりとその場に崩れ落ちていった。
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