似た者同士な二人
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「えっ?!」
―えっ?!
驚愕する二人の声が、シンクロして周囲に響き渡る。
フレスヴェルグが天児を吐き出したわけではない。突然、何もない空間から現れたように見える。
またフレスヴェルグの腹を突き破ったのでもないのは、その身体を見れば明らかだ。天児の身体は多少胃液か唾液に塗れてはいるが、見た目には大きな怪我もないようだった。
「テンジ様!?テンジ様!!しっかりなさってくださいまし!」
慌てて抱きかかえ、フレスヴェルグの身体の上で必死に呼びかけるマリアロイゼ。
先程までの怒りはすっかり消えて、翼も角も元の美しい形へと変わっている。
「はっ!?じ、人工呼吸…今こそ人工呼吸の出番では?!そうですわ、お母様の蔵書で読みましたわ!お、王子様はキスで目覚めるという…!あの!」
王子様のキスで目覚めるのはお姫様の方で、そもそも人工呼吸はキスではないのだが、やはり相当パニックに陥っている。
「そう、これは緊急事態ですから、やむを得ないのですわ!合法、合法なのです…!うふふふふ…」
…意外と冷静に頭を働かせる余裕はあるようだ。
「テンジ様、お覚悟よろしいですわね?!む、無防備な寝顔を晒す方が悪いのです…!えっと、キスをして…ひっひっふー!ですわよね」
物言いが完全に性犯罪者のソレであるし、方法も根本的に間違っているだろう。
マリアロイゼは涎を垂らしながらゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねようとした所で、彼女の頭にエメラルド色の実が落ちた。
「痛っ!?な、なにしやがるんですの?!」
―龍の娘よ、おやめなさい。…そもそもそんな不規則な息を入れてどうするのですか。
いつの間にか近づいてきたのか、謎の女性が呆れた顔をして隣に立っていた。女性は「むぅぅ!」とむくれるマリアロイゼを無視して、天児の呼吸を確認する。
―息はあるようですね。ならば、これを飲ませなさい。
そう言うと、小さな飴玉のようなものを差し出した。ビー玉より小振りで、見た目は堅そうだが、触るとぷよぷよとしてとても柔らかい。
―世界樹の雫を凝縮したものです、生きてさえいれば、どんな傷もたちどころに癒せるでしょう。
…口移しなどしないで下さいよ?口に入れたら、たちまち溶けてしまいますからね。
マリアロイゼは、逡巡しながらもそれを受け取り、渋々天児の口を開いてその玉を放り込んだ。言葉通り、口に入ったその玉は見る間に溶けて喉の奥へと消えていく。
「あ…ロゼ、さん…?」
瞬く間に意識を取り戻した天児が、マリアロイゼの名を呼んだ。
「ああ、テンジ様っ!…よかった、よかったですわーーーーー!!」
さっきまで唇を狙っていたとは思えないほど、マリアロイゼは純粋に天児の回復を喜び、抱き着いて大泣きしている。
天児は子どものように泣きじゃくる彼女の肩を抱いて、頭を撫でる事しか出来なかった。
しばらくして、マリアロイゼの涙が治まった所で、ようやく天児は状況を察する余裕が出てきた。よく見れば、さっきから自分が敷物にしているのはフレスヴェルグの身体だ。
あれほどの怪物だったというのに、嘴は砕け、泡を吹いて横たわっているのだから、とてつもない戦いだったのだろう。
その証拠に、あんなに綺麗だったマリアロイゼのドレスや翼もボロボロになっている。
「ロゼさん、そんなにボロボロになって…ありがとうございます、本当に」
「そんな!?私の方こそ、申し訳ございません!あれほどテンジ様をお守りすると言っていたのに…情けないですわ」
「いや、僕が役立たずだったせいで、ロゼさんのせいじゃないですから!」
「いいえ!私がもっとしっかりしていれば良かったのです!テンジ様に非などありませんわ!」
「いやいや!それを言うなら僕が…!」
「私が!」
―あの…よろしいでしょうか?
頭を下げ合ってヒートアップする二人の横から、謎の女性が声をかけた。彼女の存在をすっかり忘れていた二人は、少し慌てて、そちらへ向き直る。
―まずは竜の娘と、異世界からの旅人よ。手荒い真似をして申し訳ありませんでした。
ですが、どうしても二人の力を試したかったのです…この世界を、滅びから救うために。
女性は悲し気に遠い目をして、何かを憂いでいるようだ。そんな彼女の様子に、天児もマリアロイゼも毒気を抜かれてしまって、怒る気にはならなかった。
「いえ、別にそんな…怖い目には遭いましたけど、何か事情があったんですよね?こうして僕は無事でしたし…あ、せめてロゼさんがボロボロなのは、どうにかしてあげられませんか?」
「テンジ様…!」
天児は女性の悲し気な様子が、何故か愛娘の姿と重なってみえて、優しく諭す気にしかならなかった。片やマリアロイゼは、天児の気遣いが嬉しいのか、その横で両手で口元を抑えながら瞳にハートを浮かべている。
女性は改めて頭を下げると、先程天児に飲ませた世界樹の雫を作り、マリアロイゼに手渡す。
―ありがとうございます。では、竜の娘よ、これを…それでは、改めて名乗りましょう。
私の名はアクシス。貴方達が世界樹と呼ぶモノ、その意志です。
私の願いはただ一つ、貴方達に失踪したこの世界の女神『エリクシア』を探し出して欲しいのです。
そう言って、女性…アクシスの化身は、強い意志を持った瞳で、二人を見据えるのだった。
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