お嬢様、お怒りです。
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
ゴクンと音を立てて、天児の身体はフレスヴェルグの体内に収められた。
フレスヴェルグからすれば人間の身体など大した大きさでもないからか、つかえる事も無く、すんなりと飲み込まれてしまった。
「あ…ああ、あああああああ…!」
―フレスヴェルグに飲み込まれた者は、魂を浄化され、また新たな生命へと生まれ変わる…嘆くことなどありません。
謎の女性が説くように語り掛けるが、マリアロイゼの耳には全く届いていなかった。天児を守り切れなかった絶望と悲しみ、そして、ここに来てからずっと渦巻いていた怒りの感情が爆発するように、マリアロイゼの全身を駆け巡る。それらの感情に飲み込まれ、彼女は我を失った。
「許さない…!許さない許さない!許さない!!!よくも、よくもよくもォォォォ!!!」
憤激するマリアロイゼの身体から赤黒い炎のような光が放たれると、彼女を拘束していたウッドゴーレムの左手は、ミシミシと音を立て始め、次第にそれはひび割れとなって表面化し無惨にも砕け散った。
ウッドゴーレムは残った右手で、再びマリアロイゼを掴もうとする。しかし、逆にその手を抑えられると、強引に、力任せに肩まで捻り上げられて、そのままねじ切られた。
ウッドゴーレムの手から解放されたマリアロイゼ。しかし、美しく艶めいていた黒い翼は、恐ろしい力が漲る歪で硬質な形に変化し、ティアラのようだった角は一回りも巨大化して、鋭く無骨なモノになり替わっていた。
「ガアアアアアアアアアアアァッッ!!!」
龍の猛りともいうべき咆哮と共に、蹴り飛ばされたウッドゴーレムは洞の壁に激突すると、今度は全身までもが割れて砕けた。先程までとはまるで別人のような剛力を見せつけられて、謎の女性は思わず舌を巻く。
―なるほど、あの人間は彼女の弱点ではなく『逆鱗』でしたか…
「フレスヴェルグゥゥゥッッッ!!!!」
千切り取ったウッドゴーレムの腕を担ぎ、フレスヴェルグへ飛び掛かるマリアロイゼ。その腕を全力で振りかぶり、叩きつけようとするが、フレスヴェルグは間一髪で空へ飛び避けた。
轟音が空間一杯に広がり、衝撃は波となって空中のフレスヴェルグにも届く。わずかに姿勢を崩しながらも、フレスヴェルグがお返しとばかりに全力で羽ばたくと、強烈な突風はいくつもの竜巻になって、マリアロイゼに襲い掛かった。
―フレスヴェルグ!やり過ぎです!
謎の女性が初めて声を荒げたものの、フレスヴェルグは意に介さず挑戦的な眼でマリアロイゼを睨みつけている。
『躱せるものなら、躱してみろ』
そう言いたげな雰囲気だ。
もし、フレスヴェルグが人間のような顔をしていれば、それは嗜虐心に満ちた、世にも恐ろしい表情をしているように見えただろう。
そして複数の巨大な竜巻は、散乱したウッドゴーレムの欠片を巻き込み、ガリガリと削りながら近づいてくる。だが、怒りに我を失い、フレスヴェルグへの憎悪しか頭にない今のマリアロイゼに、逃げるという選択肢は無かった。
それどころか、竜巻目がけて、手にしたウッドゴーレムの腕を思い切り投げつけた。それが竜巻にぶつかるか否かのところで、マリアロイゼ自身も、翼を小さく畳んで突撃をした。
誰が見ても捨て鉢の特攻だ。
巨大なゴーレムの腕をも跡形もなく粉砕する竜巻に、生身で飛び込んだのだから当然だ。竜巻の中は凄まじい音と砕かれた欠片が煙のようになって、外からの視界を塞いでいる。
あれでは無事でいられるはずがない。それはフレスヴェルグも、謎の女性もそう思った事だろう。だが、次の瞬間、竜巻の中から黒い影が飛び出し、目にも止まらない速さでフレスヴェルグの眼前に迫った。
―なっ!?
飛び出した影…マリアロイゼは、全ての力を拳に込めてフレスヴェルグの嘴へと叩きこんだ。
あまりにも一瞬の出来事であった為か、躱す事も、防御する事も出来ずにフレスヴェルグは嘴を粉々に打ち砕かれ、見るも無惨な姿で地面に落下していった。
横たわるフレスヴェルグの身体の上へ、マリアロイゼは息も絶え絶えとしながら降り立ち、尚も、謎の女性へと激しい憎悪の視線を向けている。
―なんという娘…ウッドゴーレムの腕が竜巻に当たる瞬間
関節部分を抉り込んでそこに潜み、竜巻から身を守るなんて…
確かに、ウッドゴーレムの関節部分は他よりも少し柔らかく、また球体になっていて身を隠すには向いている。
それでも、一瞬でそれをやってのけるなど、並大抵の力や機転で出来る芸当ではない。それに加えて、竜巻から抜け出る時には、その勢いまでも味方につけて、フレスヴェルグへ突撃する力に変えるとは予想だにしなかった。
現に、マリアロイゼのドレスや翼は竜巻に巻き込まれ、ボロボロになってしまっている。翼からは、止めどなく紅い血が流れ、惨たらしい事この上もない。
龍の逆鱗に触れた、その怒りの凄まじさを、まざまざと見せつけられた形だ。
―惜しい、これだけの力があれば、きっと…
女性は、心底この結果を悔やんだ。しかし、今となってはどんなことがあろうと、マリアロイゼが彼女の言い分を聞くことは無いだろう。
今にも掴みかからんとするマリアロイゼが飛び上がった時、その背にしがみつくようにして、天児の身体が、フレスヴェルグの身体から抜け出した。
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