凶鳥とお嬢様
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
『かの鳥は、世界樹の守護者。純白の羽は、死者の穢れを祓い、その身を喰らって迷える魂を導く先導の象徴なり』
その姿を見た瞬間、マリアロイゼの脳内に、幼い頃に読んだ御伽噺の一説が思い起こされた。
「フレスヴェルグ…!」
それは聖女と英雄の旅に登場する、白い鷲の名前だ。
世界樹アクシスを守護するその鷲は、罪深き人間の死体を喰らい、穢れた魂を体内で浄化して、新たな世界へと誘うのだと物語には記されていた。瘴気を浄化する聖女の能力に酷似しているので、よく覚えている。
そのフレスヴェルグが立ち止まって睨みつけるマリアロイゼを一瞥すると、マリアロイゼの胸がさらにざわつく…まるで、全身の血が沸き立っていくようだ。
(一体、なんなんですの?どうしてこんなに、怒りが湧いてくるというの?)
自問するマリアロイゼをよそに、フレスヴェルグは片方の翼を開き、軽く羽ばたくと、強烈な突風が周囲を襲い、木人形達は次々と吹き飛ばされていった。
「くっ…!!」
マリアロイゼは咄嗟に翼を畳み、しゃがみこむように身体を小さくして突風をやり過ごすことができた。だが、天児は構えが間に合わず、もろに風を受けて吹き飛び、ゴロゴロと転がっていく。
「うわああああああああ…っ!!」
「テンジ様っ!!」
すぐさま天児を追おうとしたマリアロイゼだったが、フレスヴェルグに背を向けようとした瞬間
凄まじい殺気が、自分に向けられているのを感じた。
もし今、背を向けていれば、フレスヴェルグの巨大な爪が彼女をズタズタに引き裂いていただろう。
一筋の汗が、背中を伝う。
睨み合って対峙する中、不意にフレスヴェルグは興味を無くしたように視線を外し、羽繕いを始めた。
意図は読めないが、今がチャンスだ。
マリアロイゼは再び天児を追おうとしたが、寸での所で、天児の叫びが耳に届く。
「ロゼさん、僕は大丈夫です!走って!走ってください!」
突風で吹き飛ばされた天児は、木人形達の山に突っ込んでしまっていた。それらを掻き分けて顔を出し、声を上げたのだ。
そう、天児を庇っていても、事態は収拾しない。あくまで目的は、謎の女性が出した条件をクリアすること。
その為には、マリアロイゼが走る事が一番だと、信じているのだ。
そんな天児の声に後押しされて、マリアロイゼは駆けだした。怒りに満ちていた心が、その声を聞いた時だけは、穏やかに、落ち着いていく。
それでいて、身体は熱を帯びて、猛るように走る足にはこれ以上ない程に力が満ち満ちていた。
風よりも早いスピードで、フレスヴェルグの横を駆け抜け、マリアロイゼは謎の女性の元へ近づいていった。
フレスヴェルグはマリアロイゼを一顧だにせず、羽繕いを続けながら、ちらりと天児の方を見ている。
―なんという速さ…ですが、これはどうです?
謎の女性が指を鳴らすと、吹き飛ばされてバラバラになっていた木人形達が一瞬の内に集まって一つになり巨大な緑色の巨像へと姿を変えた。
フレスヴェルグもかなりの大きさだが、緑の巨像はそれに匹敵するほどの大きさだ。先程までの木人形とは全くの別物。全身に力が感じられる恐るべき怪物に見えた。しかし、マリアロイゼは躊躇することなく、ウッドゴーレムの正面へ向かっていった。
対するウッドゴーレムは、その鈍重そうな見た目とは裏腹に、機敏な動きで立ち塞がり、勢いよく右手を振り上げ、強烈な叩きつけを繰り出してきた。
マリアロイゼは急加速をしてそれを躱すと、ウッドゴーレムの足元へ飛び込む。巨体だけあって、その足の間は無防備だ、一気にすり抜けていくつもりなのだろう。
しかし、通り抜ける直前に突如として、ウッドゴーレムの両足から木人形達の手がわらわらと生えてきて、完全に隙間を塞いでしまった。
「なんですの!それっ!?」
急ブレーキをかけ、激突前に何とか止まる事に成功したが、その隙に、ウッドゴーレムの左手で掴まれ、持ち上げられてマリアロイゼは身動きを封じられてしまった。
「ちょっと!!インチキですわ!お放しなさい!!あんなのズルじゃありませんか!」
「ロゼさん!!」
「この卑怯者ー!」と悪態を吐くマリアロイゼを横目に、謎の女性は満足したような表情をみせ、呟いた。
―貴女は、合格です。素晴らしい力をお持ちですね。
その言葉を聞き、天児とマリアロイゼの二人はピタリと動きを止めた。
今、何と言った?聞き間違いでなければ『貴女は合格だ』と言ったように聞こえる。それは、つまり…
言葉の意味を理解しようとする間に、天児の目の前が急に暗くなった。天児が顔を上げると、フレスヴェルグが悠然と立ち、獲物を前に舌なめずりをしているようだった。
―そちらの人間は、不合格です。何かあるかと思いましたが…一人いれば十分でしょう、終わらせてあげなさい。
しんとした空間に、無情な死刑宣告が静かに下される。それを合図に、フレスヴェルグは大きな嘴を開き、ゆっくりと天児を咥えようとする。
「くっ!?放しなさい!!放してっ!!!」
マリアロイゼは、なんとかして拘束から逃れようともがくが、そう簡単に逃れることはできそうにない。
一方、天児は蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れずにいた。逃げなくては…と頭では考えていても、声も出せず身体は動かない、まるで金縛りだ。
「や、止めて…!お願い!お願いですから!!」
目に涙を浮かべ懇願するマリアロイゼ。しかし、フレスヴェルグはそれを無視して天児を咥え、振り向くと、マリアロイゼに見せつけてクックッと嘲笑い、そのまま天児の身体を、丸飲みにした。
「い、い、いやああああああああああああああああああああ!!!!」
マリアロイゼの絶叫が、空しく響き渡った。
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