大乱闘、開始
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「水の、精霊…!?」
マリアロイゼがそう呟くと、女性の姿をしたそれは首を振って穏やかな口調で答える。その声を聞いていると心が落ち着くような、何か不思議な力を感じる。
―いいえ、これはあくまで、貴方達に認識してもらいやすくしただけの仮の姿です。
私は初めから、貴方達の前にいましたよ。
「前に…?まさか」
天児が何かに気付いた瞬間、足元に大きな穴が開き、その洞の中へ落ちていった。
「テンジ様!?」
マリアロイゼが咄嗟にその洞へ飛び込むと、中は薄暗いがかなりの広さがある空洞になっていた。なんとか落下していく天児に追いつき、片手で天児を抱き上げる。
一方、天児は「ありがとうございます…!」と礼を伝えつつ、落とされた空間の内部をぐるりと見渡してみた。
「あの枝はずいぶん太かったとはいえ、こんな空間があるなんて…」
「…落ちてきた穴はもう閉じていますわね。閉じ込められた、ということでしょうか」
二人が着地すると、淡い光を放ちながら、目前に先程の女性が姿を現す。身構えた二人に向かって、彼女は穏やかな声で話し始めた。
―ここは私の体内に作った、仮初の空間。どれだけ暴れても問題ありません。
「それは、逃げられない…いえ、逃がさないということでよろしくて?」
―ある意味では、そう。私は貴方達の力を知りたいのです。
謎の女性はそう言うと、右手を高く掲げ、次の瞬間、周囲には夥しい程の木で出来た人形が現れ、天児達を取り囲んでいた。
「こ、これは…!?」
「幻…というわけではなさそうですわね」
その数は10や20ではきかない、まさに地を埋め尽くすほどの膨大な数の人形たちは、大きさこそ小振りで、感情も何もなくただ立っているだけのように見えるが、動き出すその時を、いまかいまかと待ち構えているような緊張感も漂わせている。
天児は思わず息を吞んで、自分がどう動くべきかを必死に考えていた。
(とにかく、ロゼさんの足を引っ張らないように行動しなくては)
謎の女性の目的は不明だが、現状では何をするにしても天児がアキレス腱になる。マリアロイゼは絶対に天児の身の安全を最優先にするだろうし、かといって、天児は単独で戦えるような人間ではない。
40年近く、争い事とは無縁に生きてきたのだ、仮に何かしらの覚悟を決めた所で、何の努力もせず一朝一夕に力がつくはずもない。今の自分に出来る事はなにかを、天児はただただ懸命に考えるしかなかった。
かたや、マリアロイゼは苛立っていた。
相手の目的はハッキリしないが、この状況では間違いなく襲ってくるつもりだろう。自分一人であればどうとでもなるし、この程度はピンチの内にも入らない。しかし、問題は天児の方だ。
生来、優しい彼が戦いなど知らずに生きてきた人間なのだろう事は、今まで行動を共にしてきて、十分過ぎるほど理解できた。その彼が、なんら戦う術を持たず、丸腰でこんな状況に追い込まれている。
何故だ?
天児は何も悪い事はしていない、家族を想うだけの、ただ善良な人間だ。その彼が、異郷の地で命を狙われ、何故こんな目に遭わなければならない。またそれをなしているのが、自分の属するこの世界であることが、無性に苛立ちを加速させていた。
(ああ…イライラしますわ。私、どうしてしまったのかしら?)
彼女がここまで不機嫌な気分になるのは、生まれて初めての事だった。
『よいですか?ロゼ。どんな時も、淑女として冷静に、感情に飲まれてはいけません』
幼い頃からの母の教え、それが彼女の怒りを押し留めているようだ。
一方で、謎の女性は、いつの間にか二人から離れ、洞の壁際に出来た少し小高い場所に立った。その手にはキラキラと光る水晶玉のようなものが乗せられていて、見るからに何かがあると思わせぶりな格好だ。
―ここから抜け出したければ、この玉を奪い取ってみせて下さい。
それが出来なければ、貴方達をここから出すつもりはありません。
制限時間はありませんので、それでは、どうぞ。
かなり距離があるというのに、まるで耳元で話しているかのような囁きが聞こえると、先程までとは打って変わって、殺気を撒き散らしながら、木人形たちが一斉に動き出し二人に襲い掛かってきた。
「ふっ!」
苛立ちを吐き捨てるように息吹き、マリアロイゼは正面の木人形達を、まとめて拳で薙ぎ払った。背後の天児は、臆する事なく向かってくる木人形に揉みくちゃにされながらも、なんとか両手で押し返している。
マリアロイゼは黒翼に力を漲らせて大きく開き、横からくる木人形を跳ね飛ばすと、そのまま跳躍して、天児に殺到しようとする木人形達へ降下して叩き潰す。
そうやって周囲の敵を一掃しても、すぐさま人形達は群れを成し、二人を圧倒しようとする。このままでは、いずれ数に負けて飲み込まれるのは時間の問題であった。
「ロゼさん!走りましょう!道を開いてくれれば、絶対に着いていきます!」
天児は、初めから考えていた事を叫んだ。
そう、どういう形であれ今の自分に出来る事は、ただがむしゃらに彼女について行くことだけだ。策を弄する暇もないこの状況では、シンプルに駆け抜けることしかないと、天児は確信していた。
「テンジ様っ…!参ります!!」
天児の叫びに呼応して、マリアロイゼは一際大きく翼を広げて木人形達を弾き飛ばし、謎の女性に向けて猛烈な勢いで突進を始めた。
雪崩を打ったように、跳ね飛ばされた木人形達の群れは割れ、後には一筋の道が出来ている。天児はとにかく一心不乱にその道を走り、マリアロイゼの後を追っていく。
―これは、凄まじいですね。
謎の女性は、素直に驚嘆した。彼女の操っている木人形達はあえて攻撃能力を落としたものではあるが、並の人間などよりはよほど力はあるし、耐久性も高い。
それがまるで乾いた落ち葉の如く吹き飛ばされ、成す術もなく倒されているのだ。
ただ、彼女の眼にはマリアロイゼが何かに苛立ち、焦っているようにも見える。いくら実力があろうとも、精神面に弱さや脆さがあっては信頼性にかけるものだ。
それと、後ろの男…
―聖女召喚のミスによって召喚された人間、しかし、何かがある。
そもそも、聖女召喚は女神の手によって人間に齎された神の業。それに失敗などありえない、女神の威光さえ十全ならば…
苦々し気に口を歪め、謎の女性は再びその手を掲げてみせると、青緑色に輝く光が放たれ、10mはあろうかという巨大な白い鷲が、走る二人の前方に姿を現した。
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