62話 蒲を笑う僕
「日美子さん、俺は嫌だよ、人の利益のために、自分を痛めつけるのは…」
「蒲パパ、あんたも綺麗よね。天ママとは違ういい匂い。利益を分けてあげるから~ね~」
「お断り。日美子さん、天十郎が怒るから、子供達もダメだよ。そもそも、そんな化粧品やらシャンプー、ボディミルクかな、柔軟剤も?全部が混ぜこぜで、かなり異様な臭いに包まれているけど、日美子さんは臭いがわかるの?」
「あはは、わからない」
「勘弁してよ、気持ちわるいよ、近くに寄らないでよ」
「はっきり言うわね」
「当たり前でしょ。女が嫌いな原因の一つでもあるから」
「ひょっとして、お母さん?」蒲は黙っている。
「そうね。お母さんは、香水がきつかったからね」
日美子さんは、ばつが悪そうだ。普段、ビジネスライクに徹しているが、本質は悪い人ではない、どちらかというと人の痛みのわかるタイプだが、蒲の傷口に触ってしまった後悔が、顔に出ている。
「あんたは、何を思っているか知らないけど、天ママに負けないほど、いい顔立ちしているのよ」
「やめてよ。興味ないから」蒲の言葉が刺々しくなった。
「そう?」
「日美子さん、俺をえさに、もうけ話を考えないで…」
「わかりました!」あっさり引き下がった。
【そして、繕うように】
「それにしても、あなた達って不思議な関係よね。夏梅ちゃんも、まったく変わらずに、すべすべお肌にシワ一つないから、未だに天ママの抱き枕なのね」
人は、繕い始めると、余計な事を言うものだ。黙っていれば、よかったのに…。おおよそ、地雷を踏むときは、そんな時だ。その、日美子さんの言葉に…。蒲が驚いた顔をした。
「抱き枕?誰が?」不思議そうな蒲の声に
「前に言っていたのよ。天ママは夏梅の肌が、ぷよぷよでしっとり吸い付くようで、抱き枕としては、最高らしい」日美子が笑った。
「天十郎がそんな事を言ったのですか!」蒲の尖った、不愉快なトーンが帰って来た。そのトーンに日美子さんは慌てた様子で
「そうよ。だから好きだって。あら、いやだ、蒲パパは嫉妬なんかしないわよね。あなた達は、ずーっと仲良くやって来たものね」
蒲パパは黙っている。
「昔よ、昔、こっちに移る前の話だから、気にしないでよ。余計なこと言ったかしら?」と言いながら、そそくさと日美子さんが帰ってから、
【蒲は僕を見た】
「お前はいいよな」つっかかってきた。
「何が」
「まあ、いいや」と言った途端に、我に返ったように、ギョッとした様子で
「なんでお前が、ここに居る?」
「さっきから、居るよ」
「だって、お前、夏梅と…。分身の術が使えるのか?」
「お前、面白いぞ!できる訳ないだろ」
「だって…」まるで小さな子供が叱られたように、困惑に顔を歪めた。
「ひょっとして、お前、今頃、気が付いたの?最初から僕は関わっていない」僕は淡々と言った。
天十郎は夏梅がお気に入りだ。夏梅がなにをしていても、突然、天十郎は小柄な夏梅を小脇に抱えて寝室にいくのだ。時々、夏梅も同じことをするが、さすがに夏梅が天十郎を抱えるわけにいかないので天十郎の背中を押して寝室に消える。
自分が安定した心地よい生活を送る為に、蒲が仕組んだ事だが、今は少し違う事になっている。今更ながら、蒲がそのことに気が付いた。
蒲は凍りついたように茫然としている。
我に返ると「おい、おい、どういう事だ」と蒲が僕の元に迫って来た。
「あーやめてくれ、僕に聞かないでくれよ。言わせるな」
「だから、天十郎が夏梅と…」蒲が切れている。頭が真っ白なのか?面倒くさい状態だ。
「知らねえ」僕は、半狂乱になって何か意味不明な事を叫び迫って来る蒲を避けながら
「まあ、今の状態だと、お前がひとり、いつ、いなくなっても、誰も困らない構図になっていたという事か?しかし、お前、今更だぞ、二十年間も疑わないって、思い込みは恐ろしいな。逃げ癖があるからな~。それとも、自分でマインドコントロールかけたのか?笑えるぜ。おい、それからさ、外ではお前はマネージャーだから、夏梅にくっつくのはまずいだろ。もう、くっつくのは天十郎だけに任せろ」
僕は意地悪く笑った。




