57話 母性VS父性
新居のマンションは誰にとっても理想的な形となり、家族として完璧なバランスが出来上がったと、僕も思っていた。
【長女の亜麻 日咲が生まれると】
世間では、愛する女性を守り抜いた、ヒーロー的なイメージとはかけ離れた天十郎が、蒲の思惑を打ち砕き、このバランスを崩壊させたのである。
出産も、自宅マンションで行った夏梅だ。
「小さな手が、俺の親指をしっかり握っている」天十郎が生まれたての日咲を抱いて泣いた。そして驚くような母性本能?というか父性本能を爆発させ、母性本能が強い巣作り女である夏梅と、ぶつかるようになった。
なにかと子供を奪い去ろうとする天十郎に、夏梅が神経質になりトラブルが発生し、蒲が嫌いな、幼稚な夫婦漫才並みの騒ぎが始まる。そして、最後は天十郎が、夏梅を小脇に抱えて、部屋に閉じこもってしまうのだ。
蒲はそのトラブルを見ていられないのか、騒ぎが始まると部屋に引きこもるか、外出するようになった。そのたびに、放置される子供達をあやし、子守をするのが僕の役割になってしまった。
【翌年の十月には長男の禾一が生まれた】
「紅葉の手って、よく言うけど、大きくてしっかりした楓の手だ。足もしっかりしている。この子大きくなるね」生まれたての子供と、ベッドに横たわった夏梅は、嬉しそうに眺めていた。
禾一は僕の子供の頃のように、風邪をひいてばかり、お腹の調子もいつもよくない。夏梅が、学校を休む禾一の面倒を見るたびに笑う。
「塁は、禾一と同じで、学校も休みがちで体育も見学することが多かったのよ。それとは正反対に、私は、風邪もほとんどひかない。基本、丈夫でお腹を壊すことがなかった。だけど、塁と一緒にいたくて、学校をずる休みする方法や体育を見学するのはどうしたらいいか、とそんな事に全能力を使っていたわ」
夏梅は健康優良児で、小さな頭に究極の童顔とスタイル。あふれるような母性本能、欲張りではなく、精神的に常に落ち着いていて、人を差別したり卑下したりしない。非の打ちどころがない。僕は蒲に
「夏梅は本当にパーフェクトだ。いい女だろ」同意を求めると
「それは、認める。世の中、子供が出来なかったり、母乳が出なったり、母性本能が少なかったり、問題を抱え苦しむ人は多いのに、神様はこんな完全な人間を作る。本人はまったく理解していないが、生きているだけで周囲の反発やねたみは買うだろうな」
「うん」
「おい、俺が憎いか?」
「憎い?そうかもしれない」
「あの時」
「言うな、確かにあんな夏梅を見ると、今の俺が悔しいさ」
僕は蒲を見ないで答えた。




