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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
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56話 世間の操作

 茂呂社長の十一月の記念式典が、終わったとたんに、驚くような反響があった。


 黒川氏のコーディネート企画と、天十郎と夏梅の熱愛報道、愛する女性を守り切ったヒーローとして、吉江の事件が絡まり、しばらくはその話題で持ちきりになった。蒲が、そのまえに撒いた種が確実に実って、天十郎も黒川氏夫婦も蒲も、それぞれ忙しくなった。


 立花編集長と黒川氏の戦略が当たった。立花編集長は新たな黒川氏の会社の出資者に名前を連ねていた。サイドビジネスのようだ。


 夏梅の仕事も順調だ。蒲が天十郎のマネージャーを引き受けた当初は、ひとり残された家で、立花編集長から回って来るライターの仕事をしながら、僕と二人で過ごす夏梅は、それなりに幸せそうだった。


 昼も夜も関係なく、自由にパソコンを叩き、疲れると僕と一緒にソファベッドに寝転がる。夏梅が微睡すると、僕はいつものようにカーテンを引いた。そんな二人だけの穏やかな日々が続いた。


 しかし、問題は夏梅が一人では外出できず、買い物に行かれないし、一人でいる時は宅配便も受け取れない。蒲が帰ってくると、いつも僕は夏梅が、餓死する前に対応策を取るように要求した。


 黒川氏夫婦も、そのことは気になっていたようで、事務所を兼ねた住居の話が出た。夏梅以外は、積極的にその話を進めたがった。僕も特に異論はなかった。



【二月に入って】


 夏梅の妊娠がわかると、みんなに説得された夏梅は、この家をそのまま残す条件で、四月には天十郎と入籍して引越をした。夏梅の家が残っていれば、引越先でトラブルになっても、避難する事が出来るので、反対はしなかった。


 結婚式を挙げず、指輪を買ったが、蒲と天十郎がしている。不思議な事に、黒川氏夫婦も立花編集長も、お腹の父親の事は、誰も夏梅に問わなかった。


 引越が片付いた頃、日美子さんが天十郎に

「いつかこんな日が、来る気がしていたの。君達が、なにもぶれずにいるから、夏梅は大丈夫じゃないかと、思っているわ」

「日美子さんは、夏梅が中心ですね」

「そりゃあ、そうよ。小さい頃から、あの子が抱えている大変さは、見てきているし、ご両親や塁がどれだけ大切に思って来たかを、知っているからね。世間の目を意図的に操作している、あなた達に任せておけば、大丈夫よね」

「世間の目ですか?そうですね。他人がみたいものを見せていれば、実際の事なんて、さほど、重要ではないですから」


 蒲がどんな説得をしたのか、天十郎は、蒲と二人で家を出る事をすっかり諦めたようだ。


「そうよね。黒川と心配していたけど。心配どころか、茂呂社長との契約が切れるのを待って、入籍発表と引越と同時にして、再度、世の中の話題をさらい、昨年からの話題を引っ張ったのよね。半年以上も続いた過熱報道は、天十郎君の愛を貫くヒーロー的イメージを固定させ認知度を上げ、入籍と言う形で、ハッピーエンドを迎え完結させたわ。凄腕は、蒲なの?」


「誰だっていいでしょ」天十郎は興味がないように答えた。


 確かに積極的に動いたのは蒲である。天十郎は決して積極的ではない。この結果が、天十郎の満足いくものだったのか、わからないが、夏梅をみる限り、方向は間違っていないと僕は思う。




【引越先の、6LDKの大型マンションは】


 玄関ホールから、右側の部屋が二人のプライベートスペースと天十郎事務所になる。それらの部屋の反対側の重たいドアを開けると、リビングに続きそこからは夏梅がいるスペースになる。


 事務所には、常にスタッフが在中し、荷物の受取等にも問題がなくなった。その扉を通れるのは、蒲、天十郎、黒川氏夫婦のみである。当然、受け取った荷物は蒲、天十郎、日美子さんが夏梅に届けた。


 茂呂社長は調子よく気分を切り替え、二人の縁を結んだ化粧品メーカーの社長という位置づけをゲットした。あれ以来、天十郎に、ちょっかいを出すことが、少なくなった。


 黒川氏も記念式典のモデル料を請求せずに傍観をしていた。茂呂社長におとなしくしてもらわないと、ならないからだ。茂呂社長は、二十年後も天十郎を「うちの子」と呼び。実際には交流していないが「公私ともに親しい間柄」と言っている。


 馬鹿馬鹿しいが、それも抑止力の一つである。利益が絡むと、かえってやりやすい場合もある。一般消費者は、内情はわからないから、勝手に口コミで盛りあがり、勝手に動いて茂呂社長の化粧品の売上に貢献した。


 マイナスをプラスに出来れば、これほど美味しい話はない。

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