44話 揺さぶり
【黒川氏の事務所での打ち合わせが始まった】
「お尻丸出しの洋服なんか着られる訳がない。雄を揺さぶっちゃぁ、だめだ」夏梅がベビースマイルのまま、目が怒っている。打ち合わせの現場に現れない夏梅を探して、フィッテングルームにやって来ると、夏梅は吉江と口論になっていた。
それを蒲がみてニヤニヤしている。吉江は挑戦的に
「だいたい、お尻が丸出しのどこがいけないのよ。可愛いでしょ。雄を揺さぶって何が悪いのよ。あなたの方がもっと悪質よ。何人の男を引き連れて歩けば気が済むの。とにかく私の言う通りに着なさいよ」
「あたしが何人引き連れようとそんな事、重要じゃない。自分の身を守らないと、私はこんなの着る事が出来ない」
「あら、偉そうに、ただのモデルが私に口答えするつもり?何様?」
「自然界では雄が着飾って雌の気を引くものよ。女が媚びるのはおかしい」
「自分はなにもしないでも、男が寄って来て選んでもらっています自慢か!それともお金かけています自慢?その胸いくらかかったの」
「胸にいくらかかったかなんて、余計なお世話だわ。そもそも男を呼び寄せたいのなら、フェロモンを消すほど強い香料や消臭剤を使わなければいい。肌を露出させると、何かあった時に男社会ではすべての責任を不本意でも女性が背負う事になる。その覚悟があるの?私にはない!」
「説教なんて迷惑だわ。全部を理解しています論。腹立たしい。御託並べて、多くの男をひっかける、あんたはただの歩く便所じゃない」
吉江が勝ち誇ったように薄笑いを浮かべた。夏梅の顔が引きつり、目を見開き異様な顔をしている。
「そうよ、ストレートはみんな入れたがる。だけど私は誰も入れない。私の許可がなければ私の中に誰も入れないのよ。あんたは、公衆便所にもなれないじゃない」
「夏梅!」僕は驚いて叫んだ。ただ、黒川氏の事務所で採寸するだけで、何をそんなに興奮しているのか?あまりの異常な言葉のやりとりに茫然としていると、蒲が「両極端な可哀そうな女が、支離滅裂に騒いでいやがる」とクックと笑いを押さえながら僕を見た。
また、吉江に屈辱されたのか?それにしても、夏梅がああ大きく反応しているのを初めて見た。「蒲、何をした」僕が問い詰めようとすると、蒲は二人の間にはいって夏梅を軽く抱くと、
「そういうSEXやフェロモンの問題は微妙だよね。僕ら男が女性を傷つけるなんて思ってもみなかった。ごめん。僕が悪かった。みんなが呼んでいるから、事務所のほうに行こうか」
夏梅は手に持っていた、ミニスカートらしきものを吉江に投げつけた。まるで、吉江が夏梅に酷い事をしたような構図だ。吉江は居たたまれないようにその場を飛び出した。
【僕は男性用トイレに蒲を誘導した】
「おい、蒲」
「おお、吉江って女、面白い。夏梅にお尻まるだしの超ミニスカートを試着させようとしたら、夏梅が嫌がって、それで吉江がご丁寧に自分で試着したのよ。スレンダーだから綺麗に足のラインが見えて、それを吉江が自慢げに、夏梅に見せていたら、突然に夏梅が切れ始めた」
「はあ?本当か?」
「おお、自分は安全なところにいて、文句をいうなんて夏梅は頭がおかしいだろ?自分が着せられたのではないのにさ」
「蒲、お前こそ、被害者面して僕が悪かったなんて、高みの見物を決め込んで可笑しいよ」
「そうか?」蒲はけらけら笑った。
「その根性治らないのか」
「俺って可愛いだろ」と蒲は嬉しそうだ。
「お前って変わらないな。おい、蒲、夏梅に悲しいぞって伝えてくれ、僕は先に事務所に行っている」僕は、そう言って先に男子用トイレを出た。
夏梅は見たことのない形相でトイレの入り口で待っていた。その夏梅の横を通って事務所に向かうと、後ろの方で蒲が夏梅に「悲しいぞ」と声をかけた。その言葉に僕が振り向くと、夏梅が茫然としていた。
僕は夏梅にはもっと自分を大切にして欲しかった。




