43話 誰が、傍にいるか…?
プロの集団である。それぞれが、言われなくても記念式典に向かって、自分達のやるべき事と調整を短時間で終わらせた。
【そして、最後に議題は夏梅になった】
「黒川さん、夏梅は、うちの記者として連れて行けば、ゲストモデルとして舞台に一時期立ったとしても、そのあと目立たずに、誰かが見ていられるだろ?」
「立花編集長は、夏梅ちゃんのそばにいられるのですか?俺は隣にいるっていうのは無理ですよ。奥さんに抑えてもらわないと襲っちゃう」
「要するに、蒲さんと、てんちゃん日美子さんだけがセーフなのね。皆さん、忘れていませんか?この子に化粧は出来ませんよ」と、和樹が口を挟んだ。
「だからさ、恋人説が過熱しているから、それを逆手にとって、天十郎の婚約者として、茂呂社長の天十郎への抑止力にすればいい。そんな使い方しか出来ないだろ。さらにそのまま籍を入れれば、ストーリーが完成するだろ?」
立花編集長はあきれたように
「まったく、なんて言い方だ。蒲は夏梅の使い方しか考えないのか?」
「どんな言い方をしても同じです。ここはプラスマイナスをきちんと見極めて対応すべきですよ?」
入籍だって?婚約者まではわかるが…。僕は戸惑った。やはり、蒲の奴め、またなにか企んでいるな。
ソファベッドの上から夏梅の、のんびりとした「私、お留守番でいいよ~」と声がした。すると、日美子さんはソファベッドに向かって
「そうは、いかないの」
「なんで?」
「元カノのリークで、茂呂社長の条件の中に、あなたが入っているの」夏梅はびっくり顔をした。
「まったく夏梅が爆弾とは知らずに、茂呂社長も簡単に要求するなよ」
蒲が吐き捨てるように言った。
日美子さんが不審そうに黒川氏に尋ねた。
「公の場ではなくて、個人的に会社に夏梅を連れて行ったら?一度、夏梅を見たら茂呂社長も落ち着くのではないの?」
「そんなのは、カバーガール候補として呼び出せば簡単だろ?公の場で曝したいのは、恋人説の真偽を確かめるためだろ?」
「別に、公の場所だから真偽が確かめられる訳じゃないわよね?」
すると和樹が
「あの社長、ずる賢いからね。自分の手は汚さずに多くの記者の前で、公になれば何もしなくても、彼らが真偽を明確にしてくれる。それが茂呂社長の狙いだわ。俳優一人に、えらい執着している。恐ろしいよ」
蒲は笑いながら
「天十郎の彼女だから、かばっているわけではないのに、世間なんて笑えるな。それを逆手にとらないとダメですよ」
「知らないのだからしょうがない。みんな憧れ症候群に陥っているからね」立花編集長の言葉に日美子さんが反応した。
「あーそれは認める。私も最初、天十郎君を見た時は憧れ症候群にかかったわ。でも、夏梅の自爆で正気に戻ったけれど、あれがなかったら今でも、お目めキラキラで憧れていたかもしれない。全体のほんの一部、真実ではないところしか見えないからね」
「そういう仕事でもあるしね」立花編集長はニッコリ笑った。
「そうだな、難しいよな。とにかく、夏梅をどうやってお披露目するか、慎重にしないと後が難しくなる」蒲以外、みんながこっくり頷いた。
【蒲は天十郎と夏梅に近寄ると】
「天十郎、お前達の一番の心配は、公の場での幼児帰りだ」
黒川氏達が真剣に記念式典に向かって話し合っている間、天十郎と夏梅は相変わらず、ソファベッドで小競り合いを続けていた。蒲がそれを見かねたようだ。
天十郎は蒲をチラッとみると「なんだそれ」と白を切った。
「そうやっている。お前と夏梅の言い争いだ。両方とも仲良く喧嘩し過ぎだ。押さえろよ」
「まさか、公の場でそんなことしないよ」
「だと、いいけど」蒲の言葉に棘がある。
「天十郎がおとなしくしてれば、参加してもいいよ」夏梅が言いきった。
その様子を見ていた黒川氏と日美子さんは微笑んだ。
「天十郎君が来てから、夏梅ちゃんが少し変わって来たかな?」
「うん、そう思う。水と油のような関係なのに、イザという時には助け合おうとする。蒲の彼氏に、あんなに、よくするのは初めてかな」
「良い事だよな?」黒川氏は日美子さんに聞いた。日美子さんは、考え込みながら「良い事だと思う」二人で顔を見合わせた。
僕にとっては、夏梅を地獄に落とさない事が一番だ。そのためには、色々と迷惑をかけている彼らの事業に、利益をもたらす事も重要なのではないかと思い、夏梅の入籍の話も、強く反対が出来ずにいた。
僕は、一連の出来事にとても迷った。とりあえず、明日、記念式典に向けて、黒川氏の事務所で採寸する事になった。




