42話 記念式典へ
十月の終わりに、黒川氏事務所に、茂呂社長から十一月二十日の新製品の発表会を兼ねた、十周年記念式典に、ゲストモデルの衣装とヘア、フェィスメイクコーディネートの依頼があった。
【リビングのサンルームに】
黒川氏夫婦と和樹、立花編集長が来ている。天十郎が引越をしてくる前に、部屋の中央に置かれていた、長椅子とダイニングテーブルは明るい秋の日差しが入るこの場所に移動され、そこに集まった。
広いリビングの半分は、夏梅のパソコン関連と書籍に埋もれている。その先にある出窓横のソファベッドで、夏梅は、いつものように僕の横でダラダラしている。黒川氏夫婦は決して、用事がなければソファベッドには近づかない。
黒川氏は、概要を説明し終わると、出席者、全員を見回した。
「再来週の茂呂社長の記念式典に、うちの美容室がゲストのコーディネートをすること?」
日美子は初めて聞いたようで、驚きの声を上げた。
「コーディネートって?衣装とヘアとフェィスメイク?ゲストって何人?」
日美子はさっそく頭の中でシミュレーションを始めたようだ。ながくこの手の仕事をしているだけある。すぐに可能かどうか検討するようだ。
「六人かな?年齢は…。茂呂社長と同年代の四十~五十歳だな」
黒川氏は資料を見ながら説明すると、日美子さんが
「女盛りか…。衣装のサイズは?いえ、それ以前に、それをやったらどうなるの?」質問した。
「うちの宣伝になるし、上客がつく」
「それってかなり良い事だね?」
「まあそうだね」
「でも、再来週って全然時間がない」
「うん、それで、立花編集長のところの広告主で、プレタポルテの新規参入のメーカーなら、高級衣裳を無償貸出の交渉ができるかもしれないと、提案をしてもらっている」
僕は、隅で腕を組んで座り込んでいる立花編集長を見た。頷きながら顔をあげない。考え込んでいるようだ。
「それは、いいかも」日美子さんが嬉しそうな顔をした。日美子さんは、お金儲けの好きな人だ。
「しかしだな。諸条件が揃っても、中高年のイメージに偏ってしまうネックがある。現在、うちの美容室のリピーターは二十~三十代止まりなのが、急に偏りが出る事の不安要素がぬぐえない」黒川氏は的確に分析している。
「だったら、茂呂社長の提案通り、事務所のモデルがパーティに参加して、美容室の健在ぶりをアピールするしかないだろう。ただ、残念な事に他に専属モデルがいないので、天十郎と夏梅を出すしかない。きっと茂呂社長はそこが目的だろ?計算づくさ」
蒲が笑いながら提案した。僕は蒲を見据え「お前、夏梅を見世物にしたいのか」きつくいったが、蒲は僕の声が聞こえていないふりをしている。
「俺はいいけど、おい、夏梅を連れて行って大丈夫か?」天十郎が声を大きくした。反対のようだ。
「現時点で、話題性は高いし、それに蒲が言っていた、提案の事もある。事業展開する事を考えていたから、やり方次第ではプラスに出来る。非常に良いタイミングではあるけれど…」黒川氏が戸惑っている。
和樹が「籍を入れる話?」と口を挟むと、馬鹿馬鹿しいとばかりに、日美子さんが「本人が納得するかどうかでしょ。夏梅ちゃんは、既製服が入らないわよ」と遮った。日美子さんは欲だらけだが、正論から外れないタイプだ。
籍を入れる話?なんだろう?僕のいないところで何か話されているようだ。注意をしなければ…。
「特別に仕立てないといけない訳か。モデルとして連れて行く時間もないし、目立ちすぎるから、何か他の方法を考えないと」
「まったく面倒な奴だ。記者とかライターとして参加させれば?」蒲は嫌そうに言った。
「黒川さん、まず、タイアップ記事の打診をしてみようか?そこがクリアしないと再来週にまに合わないだろ。ただ、打診したら、最後、進むしかないが」
「立花編集長。夏梅ちゃんの事は何か方法を考えるとして。そうですね。そうしましょう。早急にお願いします」
それは天十郎の事務所開設に向けて、GOサインが出たのと同じことだ。




