45話 身が切られ
ポートレートを提出してから、茂呂社長から正式な記念式典などのオファーがあったということは、当然、単純に仕事をくれた訳ではない。行方不明のはずの天十郎のポートレートを提出してきた黒川氏へ探りを入れて来たのだ。その対応いかんでは、夏梅の今後を考える必要がある。
【僕は急ぎ事務所に戻った】
「うちが絡んで、天十郎の住所を隠すことは簡単だが、今の事務所は茂呂社長が関わっている。そのことをどう対応するか…」
メイクアーティストの和樹と、立花編集長が合流し打ち合わせが始まっていた。
先に採寸が終わった天十郎が部屋に入って来た。
「おお、昨日はお疲れ様」立花編集長が天十郎に声をかけると、天十郎は頭を下げた。
「夏梅ちゃんは?」立花編集長は天十郎に聞いた。
「別室で採寸と試着をしています」
「今日も夏梅さんに会えるわね」和樹も黒川氏に聞いた。
「採寸が終わったら、そのまま蒲と帰る事になっている」
「会えないのですか?」残念そうに和樹が落胆した。立花編集長は笑いながら
「愉快ですね?こんな小さな事務所で夏梅ちゃんと同室になったら、男は誰も収拾がつかなくなりますよ」
「あっは、そうよね。夏梅さんとこの間の船釣りで一緒になって、リールまだ持っていてくれるかな?あの電動リール高かったのです。僕の宝物をお預けしておきました」和樹は興奮気味に言った。
「ああ、あのリールね」天十郎は小さく頷いた。
「でも、さすが天ちゃん。やっぱり大物はゲットできる女性も違いますね。今回の仕掛け面白いでしょ」馴れ馴れしく近づいて来た。
天十郎はこの間、おねえ言葉から一変して、すごんだ和樹を思い出したようだ。困ったような顔をしていた。
「仕掛けって?」
「茂呂社長の矛先をうまくかわしているだろ?」
「ええ、悪くないかな。茂呂社長の接待に付き合わされて、四六時中呼び出され、SEXまで強要される生活を考えたら、今は天国かな…」
立花編集長と和樹は初めて聞いた事に驚いて固まった。
「なに、それ、茂呂社長との専属モデル契約は、事務所と茂呂社長の契約だろ?」
前回、黒川氏夫婦には話をしたが、新事務所に関わる人達に説明するために、天十郎は、契約書の写しを見せながら、経緯を話した。黙って聞いていた立花編集長が深いため息ととともに「それでか…」つぶやき、天十郎の顔を見た。
「この業界あるあるだけど、ちょっと悪質ね。今回の執着も凄いし、でも執着の強い人間は、操作しやすいから」和樹が言った。
立花編集長は
「今年になって、変な噂ばかりで俳優活動も出来ていないようだったし、編集社の女性スタッフとも、もめることが多かっただろ?天十郎君に対応できる女性スタッフがいなくなって困った時期もあったよ。昨日、夏梅ちゃんのおうちで会った時、天十郎君がすっかり変わった感じがしていたよ。しかし、まったく、どんな事務所だ」




