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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
34/88

34話 元カノ

「あたしが買ってあげたものかしら?」

 美来が爽やかに笑った。そして、ダメ押しするように手を出した。その手は、握手のつもりか?脈絡が判らない。蒲と天十郎と夏梅は、彫刻のように固まっているが、背後には男達の渦がある。


「蒲、カフェか階段の休憩スペースに移動しろ、後ろから迫っているぞ」

 僕の声に蒲が我に返った。


「奇遇だな、こんなところで会うなんて」

 蒲が繕った。天十郎はあいかわず一言も発しないし、サングラスをしているので表情が読めない。蒲が挙動不審者のように、きょときょと見渡して「あちらに」と休憩スペースを指さした。美来は出した手を引っ込めて「ああ」というと、天十郎の腕をとった。


 天十郎は蒲と夏梅の方をみて無言のまま、腕をほどこうとしたが、きつい視線でそれを制止した美来は、天十郎を挟んで夏梅に話しかけた。


「天十郎って甘えん坊でアルバイトもしないでしょ。生活費から衣装代も私がだしてあげていたの」

「は?衣装って自前なの?」夏梅が驚いたように美来に聞いた。

「カッ」蒲は小さく夏梅を叱咤した。夏梅はふてくされた。


 美来は構わず、色々と話し始めた。斜めで片足しか地に着いていない夏梅は「ええ、そう」と聞くふりをしている。どちらかと言うと、天十郎の元カノよりも、蒲の腕を下に降ろさせることに、気を取られている。


 天十郎は何度か夏梅の方に近寄り、夏梅の腕をとろうと手を伸ばしていたが、そのたびに美来に腕を小さく引っ張られていた。まあ、夏梅というより蒲の傍に行きたかったようだ。


 僕は笑った。この漫画みたいな状況がおかしかった。こんな事が現実に起こるのか…。「面白い」僕の言葉に、蒲が僕を見て不愉快そうな顔をした。


 

【休憩スペースに到着すると】


「ちょっとトイレ」と夏梅は逃げた。休憩スペースに辿り着くまで、どれだけ天十郎が、自分を愛して頼っていたか語り続けた美来だ。大きな美術館は休憩スペースが遠い…。散々、美来の話を聞かされた夏梅の動きは素早かった。


「そうだね」蒲が、夏梅の腕を離さないまま、一緒にトイレに向かった。その後を追うように「私も」美来が夏梅の後を追いかけた。夏梅は、トイレに入ると見せかけて、美来と入れ替わるようにすぐに出て来た。


 トイレ出口で待っていた天十郎と蒲は、出て来た夏梅を捕まえるとコソコソと話し始めた。

「だから嫌だって言っているでしょ」夏梅が強硬に拒否している。

「なんで?」蒲が食い下がる

「トラブルが嫌いだからよ、決まっているでしょ」

「どうして?」天十郎はしつこく迫っている。

「この間、話をしていた慰謝料と嘘の噂!仕事のために、別れた元カノじゃないの?」

「そうそう、よく覚えていたな」天十郎は夏梅の頭をなでた。夏梅はその手を払いのけると


「独占欲の塊クソ女がやらかし事なんて丸見えよ。『私~、あの人にどれだけ、みつがされたか、わからない。欲しいものは何でもあげたけど、私が嫌気を起こして捨てたのよ。でも~。あの人は私を必要としていて、私たちの絆は強いのよ~今でも私の所有物よ。気軽に触らないで~』って事でしょ」


 腰をくねくねさせて、ねちねち言葉で話した。僕は夏梅のくねくね、ねちねち演技に笑った。夏梅は聖女じゃないから、汚い言葉も平気で使うが、よっぽど嫌みたいだ。


 なぜ?


「ここで無駄な話をしていないで、元カノを置いて、モネを見に行こうよ。蒲、何を考えているか知らないけれど、何年前かの彼氏の所有権を主張する気持ち悪い女が相手じゃリスクが大きすぎる。嫌だよ」

「ああいう、元カレの所有権を平気で主張する、独占欲の塊みたいな物体と、関わりたくないのは、わかるよ」蒲は必死に夏梅を説得し始めた。


「わかっているなら、この話はなかった事にしてよ。きっと二人には利益があるのでしょ。でも、私にはなんの得にもならない。それくらいの予測はつくわよ」

「だから、その独占欲の塊みたいな物体から守ってやるから」

「なにそれ、もともと近づかないでいれば、トラブルはないの。それに自分からトラブルに飛び込む理由が、私にはないの」

「天十郎が困るだろ?」

「はあ?天十郎が困っても、私は困らない」



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