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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
32/88

32話 聞きしに勝るとは…

 モネはいつも人気だ。平日だが、発券売り場から入場口まで並んでいる。蒲は、それを見ると夏梅に合図した。夏梅はその合図に、蒲の腕の中に入っていった。天十郎はそれを見てさらにイライラしているが、蒲が天十郎にやめろと目配せすると静かになった。自分の立場もあるからだろう、割と素直だ。


 二人共、入場の列に並んでいる間にクールダウンしていた。入場すると、蒲が不満そうな天十郎に小さく、ささやいた。

「絵は見なくてもいいから、夏梅から目を離すな」

「なんでだよ」

「今日は面白いものを見に来たのだろ?」

「ちっとも面白くない」

「まあ、これから面白いものを見る事が出来る」



【館内で】


 夏梅が絵画に夢中になり出すと、蒲はそっと離れ、絵画鑑賞の列から天十郎を連れて離れた。天十郎と蒲が離れて、後ろを振り返った瞬間にさっきまで女性客の方が多い印象だったのが、夏梅は男性に囲まれていた。それも何気なく、近寄って来る。


 夏梅は絵に夢中になっているが、無意識なのだろうか?腕を前で組み肩をすぼめて小さくなって、人とぶつからないようにアンテナを張っている仕草をしている。止まっている夏梅にも沢山の男たちが、すれ違い間際に胸をめがけて接触を試みる。男性たちの顔をみると、夏梅をチラ見し、狙っているというより、引き寄せられているようなイメージを受ける。


「なんだ?」その様子に天十郎が驚いていると「まだだ」蒲が天十郎に言った。周囲が男性だらけと気づいた夏梅は、女性が多い集団の方に移動すると、まるでハーメルンの笛吹き男に子供達がついていくように、ふらふらと夏梅の後を着いて行く男達。


「凄いな、聞きしに勝るとはこの事だな…」天十郎が唖然としている。

「凄いだろ?」

「あんなボロボロ、ブカブカのセーターで巨乳だって、はた目からわからない、風船に手足が生えているようなのに、どうしてわかる?」

「不思議だろ、あいつは雄を刺激する何かを持っている」蒲は満足げだ。


 そのとき、一人の男が夏梅に近寄ってぶつかりそうになった。夏梅は身構える事もなくひらりと交わした。それを皮切りに何人もの男達が夏梅に向かって動き出した。その男達は何気なく夏梅に接触しようと肩や胸に向かって手を伸ばしたが、男達の伸ばした手は夏梅に届かずに空を掴む。


 夏梅は顔色一つ変えずに、ゆっくり歩きながら回転したり横によけたり頭を下げたり、無表情のまま羽毛のようにゆらゆらと、男達をかわしていく。

 

 その様子を棒立ちになって天十郎は見ていた。蒲が「おい」声をかけると、我に返って興奮気味に天十郎は蒲に抱きつくように顔を寄せると。

「こんな状況を初めてみた」目を輝かせている。


 こいつ…面白がっている?僕はとても不愉快だった。


「いや、これは凄いとか言う言葉はすでに当てはまらない。不思議だ?絶対に打たれない映画の主人公みたいだ。あんなにかわせるものなのか?アクション映画みたいだ。いや、映画より面白い」


 アクションなんかしてないよ。誰も暴力を振るっていないし…。初めて見る天十郎にはそうやって見えるのか…。僕は胸に詰まるものがあった。


 夏梅はこうやって生きているだけだ。一歩外に出ればこの状態なのだ。だから一人で外出は出来ない。他人には面白い光景でも本人にとっては最悪の状況だ。雄が本気を出したら女性が勝てるわけはない。まして理性が効いていない状況では尚更だ。


 その状況で、夏梅は雄に捕まってはならない事を本能的に知っている。下手に嫌がったり、避けたり、気持ちが負けたり、反撃したりして騒げば、返って雄を刺激してしまう事も経験として知っているのだ。

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