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ソファベッド  作者: 中島 世期 seki
1章 猫にマタタビ:僕の憂鬱
30/88

30話 お前次第

 僕は蒲の必死の形相に可笑しくなった。


「お前が知っている事だけだ」

「あの時…」

「ほら、知っているじゃないか、聞くなよ」

「おい、塁」蒲がすごんだが、僕はにこやかに

「蒲よ、言ったはずだ。お前次第だってな。そもそもお前が代償を払うと言った。覚えているだろ?」

「あれは…」

「今回は天十郎がとめたが、夏梅が本気で求めたら、誰もとめられないぞ」

「くそ」

「お前さ、いつも僕がクソ真面目だとか言って、もっと人生を面白く生きた方がいいと言っていたが、人生が修正できるなんて思っていないだろうな。そんなもの誰も出来ないのだよ。だから、みんな踏み外さないように慎重に生きている。ふざけました。なんて言い訳が通るわけがないだろ、どう代償を払うかだって、一つ一つ。お前次第だよ」

「おい」

「ここでもおふざけで、許しを請うか?それとも、もう構わないでくれと、ひざまずき、涙ながらに懇願するのか?」


 僕は蒲を見ながら薄笑いを浮かべた。


「そうしたら、やめるのか?」

「無理だね、お前も僕も後戻りなんて出来ないのだから、夏梅だってあれほど強く我慢しているのがわかるだろ、お前も我慢しろよ」

「これ以上、どう我慢をしろと言う…」

「今のレベルの我慢じゃ、僕や夏梅の我慢の爪の垢にもならない、全然足りてない」

「おい、なぜ天十郎を同居させている」

「はあ?同居させたのは、蒲、お前だろう」

「いや、お前、何か魂胆があるのだろ?」

「そうか?お前はそう思うのか?人は自分の認識で物事を判断するから、そう思う、お前のする事には魂胆があると言う事だな。残念ながら俺には魂胆がないぞ、なにしろ不自由な身分なんでな」

「わかるものか」

「そもそも、天十郎がこのうちに来るように仕向けたのはお前だろ?わざわざ立花編集長に提案して、天十郎の取材を夏梅にさせるのに成功したと、喜んでいたではないか。二人の反応を見て楽しんでいたのだろ?」


「違う!」蒲は悔しそうに僕を見ている。

「すべては、蒲、お前がお膳立てをして、引き金を引いているのもお前だ。僕のせいにするなんてお前らしくないぞ。まだ僕はなにも、大きく動いていない事は知っているだろ、そして僕が出来る事の一部も見たはずだ。蒲、お前がこれからどうするのかが、楽しみだな」


 僕はサンルームの窓ガラスに映る蒲を見ながら、ニヤリと笑い

「お前、小さい頃から僕に一度も勝てないけれど、これじゃ、これからも勝てないな」と呟いた。



 【夏梅の火傷や傷も治まって来た頃】


しばらくの間、おとなしかった蒲が、朝からインターネットの情報に浮かれた。

「凄いものを見せてやろうか?」また何か新しい遊びを考え付いたのか?蒲は楽しそうに天十郎をみたが、そっぽをむいたまま、振り向きもしない。

「凄いって言われて、凄かった試しがないからな」

「人類がどういう成り立ちが教えてやるよ」

「なんだ?それ?大げさだな」


 蒲はいつものようにニヤニヤしながら、

「おい、美術館行こうか?モネ好きだろ?」夏梅に振ったが夏梅はボーとしている。そして、また天十郎の方を見ると

「おい、天十郎、美術館で見つかると、まずいのか?」

「まずいに決まっている」

「だから、複数で行く方がいいだろ?」

「どういう理屈だ。ないだろ。それに俺、印象画のようなもの好きじゃない。ニューヨークのメトロポリタンにあった宗教画や肖像画みたいに、他を圧倒する勢いのあるものが好きだ」

「権力志向か?」

「そうかも、それが問題あるか?」

「いや、問題はないよ。でも、夏梅が好きだから行こう」

「なんだよ、結局、あいつがらみかよ。モネなんか人が多すぎるから嫌だよ」

「まあ、おもしろいものが見えるから行こう」

 夏梅は、二人の会話が聞こえたのか「モネか~」と言いながら二階へあがった。


 しばらくして二人の前に現れた夏梅は、いつも来ている下着に、天十郎のぶかぶかのセーターに、腰巻スカートで姿を現した。ぶかぶかのセーターは片方の肩がずれ落ちている。

「お前、珍しくスカートなんか履いてるが、ひょっとしてめかしたつもりか?あー俺のセーターが、ボロ雑巾に見える」

 あまりのみすぼらしさに、天十郎は、ため息をついた。

「おい、顔洗ったのか?」

 問いかけると夏梅は、天十郎を見ずに、こくっと頷いた。

「目が空いてないぞ」半分しか開いていない目は、明らかにまだ寝ていることを物語っている。

「そこまでして、モネを見たいのか?」

「うん」

 無表情に答える夏梅の可愛い姿に、僕は思わず笑みがこぼれた。


 天十郎はガサガサとポケットを探し出すと、目薬を夏梅に差しだした。


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