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終期超越 シドシワルワ  作者: 弥島真
第3章 衒い 放つ 咲き誇る
26/27

7 疲れた

「……廻」

「……よぉ、ルーカス」

 エンドレスにルーカスが帰ってきた。化け物と、ソイツから出てきた奴らを一掃してから数時間後に。

 ルーカスは、ミールフスに化け物が現れたと聞いて、軍の宇宙船を使い急いで戻ってきたらしい。

「とりあえず……1-Aのみんなは……無事か?」

「……1人を除いてな。まぁ、無事って言っても、内2人は管理室のベッドの上で倒れてるけど」

「……そうか。悪かったな。大事な時に居れなくて」

「……謝る事はねぇよ。こんなもん、事前に考えるったって、どうすればいいんだよ……」


 今回の一連の出来事で、エンドレスでは約300名の死傷者が出た。内、死者は艦長を含む約200名。もし、全チームの半数がムタヘバに行ってなかったとしたら、被害者はもっと増えていたかもしれない。その逆だったかもしれないが。



 ルーカスはこれから、次の指標を示す者がいなくなったエンドレスのこれからを決めるべく、ナンバーリーダー達と共に話し合うらしい。俺は、今回の立役者でもある、現在健康管理室にいる2人のところへ向かうことにした。


「失礼します……」

「ん? ああ、君か。お疲れさん」

「シアさんもね」

「まったく、滅入ってしまうね。2人なら奥だよ」

「ありがとうございます……」

「……疲れ気味だね」

「まぁ……そうっすね」

「これ、持っておきな」

 俺を気遣ってくれたのか知らないが、シアさんから、なにかの薬みたいなものが入っている瓶を渡された。

「なんすか? これ」

「睡眠導入剤。人間には睡眠が必要だからね。寝れない時なんかに使ってくれ」

「……ありがとうございます」

「あ、私は一旦ここを離れるから、なにか用が出来たら、気軽に携帯端末に連絡してくれ」

「あ、はい。……死体の確認っすか?」

「まぁね。ホント、気が滅入るよ。昨日まで元気だった人達の変わり果てた姿を、これからたくさん拝まなきゃいけないなんてね。それじゃっ」

「はい……」

 昨日まで元気だった人達……か。ホントに、なんで急にこんな事が起こっちまったんだ……。昨日まで、あんな平和だったのに……。


 患者が横になるベッドが置かれている部屋まで移動すると、見知った顔の2人がこちらに合図を送ってきた。ユゼとルイザだ。そして2人の横には、マリアとミヤカがベッドの上で横になっている。


「廻……アンタのケガは大丈夫なのかい?」

「大丈夫さ。それよりも、さっきルーカスが帰ってきた」

「そうか。……だったら、俺もアイツのところへ行った方がいいかな。じゃあな、ミヤカ。なにかあったらすぐ呼べよ」

「うっせ。さっさと消えろ」

「はいはい。じゃ、廻。あと頼んだぞ」

「ああ……」


「ミヤカは……脚は今どうなんだ?」

「……しばらくは、自力じゃ歩けねぇな。っつーか、治るか知らねぇってさ」

「大変だな……」

「……別に。大変なのは、お前もだろ。嫌なもん、目の前で見ちまったんだろ?」

「……俺より、マリアの方がキツイと思う」

「……まーね」

「んだよ……起きてたのか」

「ついさっきね。はぁ……疲れた」

「まったく……勝手に部屋抜けだしたと思ったら、まさか出撃しに行ってたなんてね。しかも戦闘が終わったら、中で倒れてたときた。止めてくれよ、そんな無茶は。もっとちゃんと見張っとくべきだったよ……」

「ごめんね。でも、結果的に無理して行ってよかったよ」

「マリア、その傷でどうやって格納庫まで来たんだ?」

「ああ、それはね……」



 ――少し前、1-Aの部屋――


「……あ、ルイザ……」

「少し、気を失っていたみたいだね。大丈夫……ではなさそうだね」

「気失ってた? 卓ちゃん……どんくらい?」

「えっと……数分ほど?」

「そっか……よかった」

「とにかく、今先生呼んでくるからおとなしくしてな」

「あ、待って……。その前に……1ついい?」

「どうしたんだい?」

「あたしの部屋にある、『お守り』を取ってきて欲しいな……」

「そんなの、後でだっていいだろう?」

「いや、なんというか……気持ちの持ちようが違ってくる……から?」

「だったら、卓ちゃんに――」

「いやいや、2人で探して欲しい……早く……欲しいから」

「……まったく。で、どんなだい?」

「ああ……大きさはこんくらいで……白いやつ。部屋のどこかにあるはずだから……」

「わかった。ほらおいで卓ちゃん」

「え!? う……うん……」

「急がなくてもいいーよー……。さて」

 マリアは重い体をなんとか起こして、ゆっくり、でもなるべく急ぐようにして1-Aの部屋から出るために歩く。


 途中、自分の部屋の前を通った時、中から凄い物音が聞こえてきた。

「(やっべ。積んでたやつ崩れたかな? ごめんね、2人とも)」

 マリアは2人にばれないように、急いで1-Aの部屋から抜け出した。



「(……なんか、煙いな)」

 部屋の外に出たマリアは、2人が追ってくる前に急いで地下1階に向かおうとした。だが

「(い! イツツ……! 痛っ。急いで動いたから、また痛くしちゃった……やべーな)」

 体の痛みが酷くなり、思うように動かせなくなってしまった。その場を動けずうろたえていると、そこに丁度良く、見知った顔の女性が運よく通りかかった。

「あ! ローちゃん!」

 ロレッタは、マリアに呼び止められて、現在のマリアの様子を見ても、何一つ驚いた表情などは浮かべず、その場に立ち止まった。

「ロ、ローちゃん。折り入ってお願いが……」

「……どうしたの?」

「あ、あたしを……おんぶしてくれ……」

「……いいけど?」

「あ、ありがとう」

 ロレッタは特になにも言わず、マリアの突飛な頼みを快く受け入れてくれた。

「ほら」

「ああ、助かった。重くない?」

「平気よ」

「ローちゃんって案外力持ちなんだね。だったら、ついでと言っちゃあなんだけど、地下1階までこのまま運んでくれない?」

「まぁ、別にいいけど」

「マジで!? ホント助かるよ」



 マリアはそのまま、ロレッタに順調に運ばれていく。その間、マリアはロレッタに今までのことを色々と尋ねてみる。

「――さっきまで、そんなことが起きていたんだ……。ローちゃんはよく無事だったね」

「まぁね。隠れるのは得意だからね」

「でも……なんでさっきあそこに居たの? まだワンコがうろついていたかもしれないのに」

「うーん、そうだなぁ……『私の最後の役目が終わった』からかな?」

「え? なにそれ。どゆ意味?」

「んーん、別に。ところで、『照花』がどこにいるか知らない?」

「照花? ……ごめんね、分かんないや」

「……そう。無事だといいね」

「……うん」



「着いたよ」

「ホント、マジで助かった。ありがとう」

「いいよこのくらい」

「今度ちゃんとお礼するから。じゃーね……って、イタタ」

「大丈夫?」

「大丈夫ダイジョウブ……。気にしないで……じゃーね。無事でね」

「うん、『さようなら』」



「――とまあ、ローちゃんにおんぶしてもらってあそこまで行ったわけっすよ」

「そうだったのか」

「まったく、こちとら存在しないお守りをずっと探していたんだからね。この借りは高くつくよ」

「へい……すんません」

「はぁ……結果的に無事で良かったけどさ」

「大丈夫。あたし昔から無駄に生き残る運は強いから」

「……とにかく、みん……2人とも生きててよかったよ。本当に……」


 思わず、「みんな」と言いかけた。照花は、生きてはいない……。しかし、あの時の照花の行動がどうも腑に落ちない。なんだったんだ、あの急に別人のようになったのは。あれも、化け物が現れたのとなにか関係があったのか。だったら、犬が暴れたのももしかしたら……。


「……はぁ」

「大変そうだね、シノ」

「……疲れた」

「だったら、今空いてるベッドは無いから、あたしの隣で寝てってもいいよ。ミヤカのとこでもいいよ」

「ざけんな。寝ぼけて脚でも蹴られたらその時点で殺すぞ」

「だったら、ほら、こっち来ていいよ」

「……遠慮しておく。元気そうだから、部屋戻るわ」

「そう? もったいないなー」

「そうかい? ならあたしが……」

「どうぞ、お・い・で」

「いや、冗談だよ……」

「はは……それじゃあルイザ、よろしく」

「廻も、あんまり塞ぎ込まないようにね」

「……うん」



 1-Aの部屋に戻る道を歩いていると、そこになにもないはずなのは分かっているが、通路に死体の幻覚が見えてしまった。

「うっ……」

 あの時は、一種の興奮状態なのもあって、なんとか無事にやり過ごしていたが、それが無くなった今、改めて何故自分が生きていられたのかが不思議だ。あの化け物だって、少し違ったら自分が殺されていたかもしれない。

「シドシワルワ……」

 あんなものがエンドレスに隠されていたとは……。ルーカス、まさかアイツが最初っからこういう事態を想定してあんなもん造っていたとは……。

 あいつらは……また来るのだろうか。だとしたら、また俺たちがやんなきゃいけないのか……。

「はぁ……」

 今分かった。エンドレスに来て1番良かったと思えることは、朝、目覚ましをかけなくてもいい、ということだ。逆に1番後悔したことは、これからもあの化け物みたいなのと戦わなくてはいけない、ということだ……。

「……辞める、たってなぁ」

 エンドレスを辞めて大人しく引きこもっていたって、これから先安全な場所があるなんて保証はどこにもないしなぁ……。


 色々考えているうちに、1-Aの部屋に着いてしまった。すぐ自分の部屋に入るつもりだったが、なんとなく、なにかに惹かれるようにそのまま会議室の方へ体が動いてしまった。

「(……なんだ、この感じ)」


会議室の方へ顔を出すと、そこには、まるで昔からそこにいたと言わんばかりに、堂々と椅子に座っている見知らぬ少年が1人いた。

「え? ……え?」

「やあ、おかえり」

「た、ただいま……え?」

「まだ、この部屋に彼女の痕跡がはっきりと残っちゃっているね。可哀そうに。向こうでは是非とも幸せになってて欲しいね。君もそう思うだろ?」

「……誰? なんでここに?」

 誰かの知り合いだろうか。だが、知り合いにしても、そもそもエンドレス内で少年の姿なんて一切見たことがない。

「僕かい? そうだなぁ……って、そんなことはどうでもいいや。君に用があってここまで来たんだ」

「……俺?」

「うん。まずは、お疲れ様。色々と分からないことだらけだっただろうに、よく適応出来たね。おめでとう。そして、これからのことについてちょっと。君が思っているとおり、今回の事はちょっとした始まりに過ぎない。肝心なのはこれからさ。この先、君が今までみたいに無事でいられるとは限らない。もしかしたら……次で死んじゃうかもしれないし。あはは」

「なに……言って……って、思っているとおり? ……え?」

 謎の少年に急に訳の分からないことを言われて、状況が理解できず少し混乱してしまった。というか、さっき頭の中で考えていたことがなんで知られているんだ……?

「ん? ああごめんごめん。いきなりこんなことを言うべきではなかったね」

「……君はなんなんだ……?」

「別にいいじゃないかそんなことはさ。それよりも、せっかくだからもう少しお喋りしようよ。例えば……これからの世界について、とかさ。いいかい? いくよ――」

 その少年がなにかを言いかけた時、丁度よく1-Aの部屋の入り口のドアが開く音が聞こえてきた。

「おっと、誰か来たみたいだね。残念だけど、それでは失礼」

「……あ、おい。君は一体……」

「そんなに僕のことが知りたいのかい? しょうがないなー。僕はね、『みんなの友達』さ」

 その少年はそう言うと、俺が見ている前で姿を跡形も無く消してしまった。

「え!? ……消えた?」


 なにが起こったのか分からないまま呆然としていると、アンナが俺のところへやって来た。

「あら? 1人なの? なにか可愛らしい声の女性と会話しているように聞こえたけど」

「あ、ああ……まぁ、ちょっと……」

 女性? あの少年の声はそこまで女々しいわけでは無かったと思うが……。

「そう? それにしても、色々あって本当、疲れたわね」

「ああ……」

 さっきのは幻覚だったのか? だとしたら、相当参っているな俺……。

「……大丈夫? 少し休んだら?」

「うん……そうする。アンナは……大丈夫なのか?」

「気持ち的には大丈夫ではないけれど、平気よ」

「……そうか。強いな」

「とりあえず、今は気持ちを整理させることが大事ね。こればっかりは、人によるから私がどうこうアドバイス出来るものではないのだけれど」

「うん……まぁ、ゆっくりするよ」


 一旦自分の部屋に戻り、今日起こった出来事を全て忘れてしまえればいいと思い、普段は使わない睡眠薬を1錠服用し、そのまま横になる。目を覚ませば、きっといつものエンドレスが戻ってきているはずだ。そう信じて、深い眠りにつくのをじっと待つ……。


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