5 枯樹生華
ACEの強力な攻撃を受けた化け物は、そのあまりの威力で体の左半分が消え去ると、残った方の体から生えている蕾の動きも力を失ったかのようにピタリと止んだ。
「動きが止んだ……? っつーことは、アノ野郎死んだのか?」
まるで動かなくなった化け物を見て、ヴォルフガングはもしかしたら自分たちは化け物を倒したのではないのか、と思い始めた。
同様に、その場にいた人物は徐々にその事についてそれぞれそう感じ始めた。……みんなをそう思わせる決定的な攻撃を行った本人を除いて。
「廻……それ、ホント……?」
「……多分」
「俺達……使いどころ間違えた?」
「わ、分かんねぇ……」
そもそも、今の状況がどうなっているか知らない。劣勢とか優勢とか。ヤバイとかヤバくないとか。なんかスタート地点にさえ着いていない感じだ。っつーか、アノ化け物の近くにいた宇宙探査機とは違うロボット? アレもコレの仲間なんだろうか。
色々考えているうちに、一切触っていないのにコイツがまた勝手に動き出す。
「うぉっ! また動いた!」
「なぁ、それ自分で操縦出来ねぇのか?」
「出来んのかな?」
今更ながら、このコックピットの中を一通りあれこれ見てみる。見た感じ、ところどころ宇宙探査機と似ている部分がいくつか見つかった。ってことは、操縦方法も大体同じなのか?
「うーん……普通でいいのかなぁ」
いざ、試してみようと思っていたその時、ソーシがなにかに気付いたように急に焦り始める。
「って、廻! なんかどんどんあのデカブツに近づいてってないか!?」
「え? ……って、マジじゃん! え? どうしよどうしよ!」
突然、戦う気持ちもなんも整っていないのに急に戦いの最前線に放り込まれた感じがして、自分で情けなくなるぐらい慌てふためく。
「えっとえっと……こうか!」
宇宙探査機を操縦する時みたくコレを操作してみる。すると……
「あっ、出来た」
「おおーマジだ」
自分でコイツを動かせたことに安堵し、呑気にソーシとハイタッチを交わす。そしてそのまま、化け物の近くまでコイツを移動させる。
「ソーシ、なんか周りの人達と通信出来ないか?」
「やってみる。……えっと……これでいいのかな?」
「サンキュー。……どうもー、聞こえてるっすか? 1-Aの篠前廻です」
「……廻?」
「ん? レナードとアンナか!」
「俺たちもいるぞ!」
「お! ユゼとミヤカもか!」
「ありゃ、こんな凄いビーム撃ったのって、シノマエクンだったの?」
「ジュリアさんもいたのか」
「まーネ。にしても、凄いねソレ」
「あ、ああそうっすね。俺もビックリしたっす」
「まったく、次から次へとこんなモン出てきやがって。こんなモンあんなら最初っから俺達にも知らせてくれれば良かったのによォ。水くせぇよ艦長も」
「まったくだな……。しかし、本当にこれで終わったのか?」
「あのバケモンか?」
「確かに、私もその点についてはまだ断定するのは早いと思う」
「……まぁな」
「ところで、今一体どういう状況なの?」
「さっきまでアタシらはあの化け物相手に悪戦苦闘してたんだよ。なのに、廻がそんなもんお構いなしにビームぶっぱなしやがったから、アイツは今ああなってんだよ」
「だとしたら……良かったのか?」
「廻、さっきのやつはもう1度撃てないのか?」
「それが、1回撃ったら次まで時間かかるらしいんだ。変なアプリのルーカスの説明によると」
「やっぱりみんなそのアプリを入れられてんのか。ルーカスのヤツ、ホントにこういうことには頭回るな」
「まわりくどいわね」
「まったくだ」
「おいヴォルフ、これからどうする?」
「どうするったってなぁ……」
「でもサ、まだアイツ半分残ってるから、一応そっちも叩いてみる方がいいんじゃない? 知らんけど」
「だが、あの化け物には、先程の攻撃を除きシドシワルワとやらの攻撃も効かなかったのではないのか?」
「さっきまではネ。みんなあそこ見てみ」
「ミヤカ」
「なんだレナード」
「ヤツの左側が破壊されたことによって、『中身』がむき出しになっているぞ」
「……やんのか?」
「その方がいいだろう」
「ヴォルフガングちゃん、聞いてたか?」
「ああ、俺たちも今、その結論を出したところだ」
「なら話は早ぇ。行くぞ!」
ミヤカがそう叫ぶと、その場に居た宇宙探査機達と2台のデカいロボットは、目の前の化け物に突っ込んでいった。俺には、一体みんながなにをしようとしているのか分からなかった。
「って、廻も行った方がよくね?」
「あ、ああ……」
みんなが化け物のむき出しになっている部分を攻撃し始めた事によって、やっとやろうとしている事が分かった。
「でも、これどうやって攻撃するんだ?」
「さっきのアプリになにか書いてないかい?」
「今、手離せないから代わりに見て」
「オッケー。えっと……ふんふん……。廻、ここをこうしてみて」
「ここ?」
ソーシに言われた通りに操作すると、コイツの形が、最初のうなだれているオッサンみたいな形から、たちまち生気を取り戻した若者みたいな感じになる。そして、コイツの右側から、前方にいる四角いロボが出しているなんか羽みたいなアレと似たようなものをコイツも出す。
「なんか出た!」
「これで攻撃するんじゃないか? ああいう感じに」
「なるほど。よっしゃあ! やってみるぞ!」
俺もみんなみたく果敢に化け物に突っ込んでいく。突っ込んでいく間、右側を自由に動かせるか試してみる。……おお、なるほど。まるで剣でも動かしているみたいだ。その「剣」を携え、化け物の「中身」に攻撃を加えようとした次の瞬間、……突如としてその中身からなにかが凄い勢いで飛び出してきて、ソレに3台の巨大ロボが突き飛ばされる。
「うわぁぁぁぁ!?」
「なんだ!」
「ッ!」
「なにか」に突き飛ばされた衝撃で、それまで立っていた6人は後方に体が吹っ飛び、その中でもミヤカとユゼは、壁に思いっきり体を打ち付けてしまった。
「なにが起こった!?」
シドシワルワを操っている3人とは違い、少し離れた場所から攻撃を行っていたヴォルフガング達は、咄嗟に後退しその飛び出してきたなにかをギリギリで避けることが出来た。
「おい……これって……」
「『花』……か?」
「……だネ。でも、これは凄いや。さっきまでのとはまるで比べ物にならないネ」
化け物から突如、まるで失った体の左半分を補うようにとても巨大な「花」が中身から飛び出してきた。その大きさは、化け物本体の大きさすら超えるとてつもないものだった。その花が宇宙空間に、不気味に、鮮やかに咲く。それは見る者をこの上なく魅惑、或いはとてつもなく恐怖させる。
「イ……テテ……ミヤカ……大丈夫か?」
ミヤカと同様に壁に打ち付けられたユゼは、体に残る痛みをこらえながらミヤカの心配をする。心配したって、どうせいつもの辛辣なセリフが返ってくるだろうが。
「……」
「……おい……どうした?」
だが、ミヤカからいつもの辛辣なセリフが返ってくることは無かった。それどころか、ミヤカからなんの返事も無かった。
変な違和感を覚え急いでミヤカの様子を見ると、普段のミヤカからは想像できないぐらいぐったりとした様子の彼女がそこに横たわっていた。
「お……おい、大丈夫か!?」
急いでミヤカの元へ駆け寄り、呼び掛けながらミヤカの体の上を揺らす。すると、無表情だった顔がしかめっ面に変わっていった。
「っテーな……」
「ミヤカ! 大丈夫か!?」
「あ? ……ああ」
ミヤカはすぐさま戦闘に戻ろうとして、体を引きずりながら立ち上がろうとするが、小さく苦痛に満ちた声を漏らして立ち上がれずに再び床に倒れ込んでしまった。
「おい!」
「……クソッ、急に来やがった。脚の痛み……」
「脚?」
ユゼは急いでミヤカの脚を見る。すると、脚に巻かれていた白い包帯が赤黒く変色していた。
「お前……今まで黙ってたのかよ! 全然無事じゃねぇだろうが!」
「撃たれた時はよぉ、そんなんでも無かったんだよ。でも、アイツとヤってる途中から……。まぁどうでもいいや。とっとと戻んねぇと……」
ミヤカは再び立ち上がろうとするが、その負傷した両脚ではもはやまともに立ち上がることは困難だった。
「そんな状態で戦えるか! とにかくみんなに知らせないと……」
ユゼは、今のミヤカの状態をみんなに知らせるために通信を始めた。……しかし、先程まですんなり出来ていた通信が何故か急に繋がらなくなってしまった。
「あれ? なんでだ? どうして!?」
同様に、その通信障害は、その場にいた者すべてに発生していた。
「ミヤカ、廻、聞こえるかしら? ……こちらからは完全に駄目ね」
「一体どうなっている……」
「廻、ダメだ。通信がまったく出来ない!」
「んだよ! 飛ばされた反動でイカれたか?」
「おいギナム! セローナの姉御! ジュリア! ……クソッ、通じねェ」
「これは……あの新たな花が出てきてからか?」
「という事は、アレを叩くしかなそうだな」
「多分みんな、言葉で言わなくても分かるよネ」
――エンドレス・2階――
「WSI、制圧完了」
「よし。こちらキアラ。2階にいた2体のWSI全てを制圧した。現在の各階の状況を伝えてくれ」
「こちら3階。2体のWSI、行動不能を確認。内1体は、別の階から来たおそれありとのこと」
「こちら4階。1体は制圧済み。2体目を捜索中です」
「こちら1階。警備室を襲ったWSIも含めると、計3体のWSIを制圧」
「こちら地下1階。特に異常なし」
「了解。計8体か。という事は、全てのWSIを制圧したのか……」
「どうしました?」
「いや、少し状況をまとめよう。元々、各階にはそれぞれ2体ずつWSIが居た。そして、最終的に各階のWSIの数は、1階から順に3、2、2、1。4階が1体だけなのは、3階からの通信の通りだとすると、別の階、すなわち、3階で制圧したWSIの内1体が4階にあったものとなる。だとしたら、元々3階にあったWSIは1階か2階にいなくてはならない。それに、1階にいた3体のWSIも、どこから来たものなのか調べる必要がある。各員、1階と2階のWSIが元々何階にあったものなのかを確認してくれ」
「了解」
少しして、キアラのもとに1つの通信が入ってきた。
「隊長! 大変です!」
「どうした?」
「警備室を襲ってきたWSIの姿がありません!」
「なんだと? ……マズイな」
「どういう事でしょうか?」
「……最初に動きを止めたヤツが、あの後再び動き出したとすると、どこかの階のWSIのカウントが、重複している可能性が出てきた」
「という事は……1体、まだどこかに潜んでいる可能性が!?」
キアラはすぐさまこの事を伝えるべく、各階の警備隊達に連絡をする。
「緊急連絡だ! WSIのか……が……ど……――」
「……なんだ?」
キアラからの連絡を受け、すぐさま無線に耳を傾けた隊員達だったか、無線は冒頭部分しか聞き取れず、そのまま通信が途絶えてしまった。
「隊長になにかあったのだろうか。急いで2階へ向かうぞ」
警備隊達は、キアラの身になにか起こったのではないかと危惧し、それぞれ各階の持ち場を離れ急ぎ2階へと向かう。
「なんだ! 急に通信が!」
「通信障害でしょうか?」
「分からない。何故急に……」
――4階・コックピット――
「――そうだ。地球の方も警戒は十分にな」
「艦長、ミールフス軍から再び通信です」
「よし、繋いでくれ。……そちらの現状はどうだ?」
「ヒドイもんだ。この有様だと、死者は軽く千は超えるな。そっちはどうなんだ?」
「今、宇宙探査機と例の兵器で巨大生物と戦闘している。さっき、こちらの攻撃がヤツの体を半分削ったところ……アレは……」
「どうした? なにがあった」
「ヤツの体から――」
突如、ミールフスとの通信が切断された。それどころか、他の惑星との通信も一斉に切断された。
「艦長! 突如、通信障害が発生! 各惑星との通信、出来ません!」
「なに!? こんな時に……」
コックピット内の人間達は、すぐさま通信の復旧作業に取り掛かる。だが、原因など分かるはずもない。……そしてなにより、その場にいた全員が、エンドレス内の映像から目を離した事により、コックピットに近づいてくるあるモノに誰も気づく事が出来なかった。
<私の 最期の足掻き 群を率いる「頭」を 絶つ>
突然、コックピットの入り口の方から、耳をつんざくようなすさまじい轟音が聞こえてきた。クエンティンは急いでその方を見ると、そこには、「8体目」のWSIが既に戦闘態勢となって存在していた。
「とうとうここまで来たか……! みんな伏せろ!」
クエンティンはすぐさまその場にいたみんなに指示を出す。だが、このWSIの狙いは最初からエンドレスのトップ、艦長のクエンティンだった。
WSIは他の隊員達には目もくれず、すぐさまクエンティンに銃撃を開始する。クエンティンは咄嗟に屈み腕で頭を守る。
「艦長ー!!」
普通の人間ならそんなことをしてもWSIの銃撃は防げず、銃弾が簡単に腕ごと体を貫き死に至らしめてしまう。……しかし、彼は違った。
「くっ……!」
銃撃が一旦止み、すぐさま次の準備をするWSIだったが、この少しの時間があれば、クエンティンはWSIを制圧するのには十分だった。
銃撃を受けボロボロになった服の中から見える腕は、人間のそれではなく、鋼鉄の義手だった。
「ふんっ!」
クエンティンはWSIに接近し、肩の辺りから突き出ている2つの銃身をいとも容易く上に捻じ曲げる。
「これで……!」
WSIの銃撃を封じたと思ったクエンティンだったが、次の瞬間、WSIは口から刃を勢いよく出し、そのままクエンティンの腹を突き刺さした。
その場の空気が一瞬にして凍った。まるで、時間が止まったかのように。
「……な……何故……」
本来のWSIには、こんな攻撃パターンは無い。クエンティンは、予想外の痛すぎる一撃を意図せずくらってしまった。
「か……艦長ーーーー!」
コックピット内に、隊員達の悲痛な叫び声が響いた。
――宇宙・ミールフス付近――
ナンバーリーダー達は、たとえ通信が出来なくとも意思を疎通しているかのように同じ行動に出た。4人同時に巨大な花へと向かって行き、その花に攻撃を始めたのだ。その様子を見て、各員もなにをすべきか自然と理解していった。
「行くぞ、アンナ」
「ええ」
「廻! 頼んだぞ」
「今度こそ……!」
しかし、この2人はみんなと同じようにすぐ攻撃に移ることが出来なかった。
「ミヤカ! お前はそこで寝ていろ! 俺がやる……!」
「……止めてくれ。宇宙探査機もまともに動かしたことねぇくせに」
「今のお前よりはマシだろ」
「……ユゼ、アタシはまだヤる気無くなってねぇぞ」
「ふざけんなよ! そんな怪我で……。そもそも、俺なんかを庇ったから……」
「……オイ、これだけは教えといてやる。別に、アタシはお前を助けた事、後悔なんかしてねぇ。この脚のケガは、アタシが勝手にやった結果のヘマだ。お前は関係ねぇ」
「なんだよ……それ。こんな時に……ズルいだろ……」
「それに、アタシは待ってたからな。こういう世界がメチャクチャになるような出来事が起こるのを。それを体験出来ただけで、もう死んでも後悔はねぇよ。……まぁ、満足はしてねぇけどな」
「……本当に、まだやる気なのか?」
「ああ」
「……だったら、こんなところで休んでる暇はないな」
「ああ」
「脚が痛いって、弱音を吐いている暇も」
「ああ」
「……まったく、しょうがねぇな。俺がお前の体を支える。お前は好きにやれ」
ユゼはミヤカの腕を自分の首にかけさせると、なるべく負担をかけさせないようにそのままミヤカをゆっくりと立たせた。そしてミヤカが両手を使えるように、力強く体を支えてやった。
「ほら、早くみんなと共にアイツのどでかい花を落としに行くぞ」
「んなこと言われなくても分かってんよ」
みんなに少し遅れて、CUBEもその花を倒すために攻撃に入る。




