2 Unknown No.1
宇宙探査機を駆るエンドレスの隊員達が、化け物から生み出され、ミールフスに向かって飛んでいく飛翔体に対し、宇宙探査機に装備されている小型ミサイルを用い攻撃を行っている。
「意外と有効か……流石、現代の兵器だぜ。お前らァ! ビビる事なんざねェ! アノでけぇのは今のところ『飛び道具』を出すだけのデクだ。だから今はこれ以上被害が広がらねぇように飛び道具だけを攻撃する事を考えろ! いいな!」
その場にいる隊員達に対してそう呼び掛けているのは、チーム5のリーダー、ヴォルフガングである。ヴォルフガングは、WSIが暴走していた時、地下1階の格納庫に居た。他の隊員達が気がかりで上の階に行こうとしていたが、もう1人の人物の冷静な判断によって制止されていた。
「ヴォルフ! 数が多すぎる! やはり直接あの化け物を叩いた方がいいんじゃないか?」
ヴォルフガングに対してそう呼び掛けるのは、チーム9のリーダー、ギナムだ。ギナムもまた、WSIの暴走時は格納庫に居たため、ヴォルフガングと共にいち早く外の異常事態に対応することが出来た。そしてなにより、この2人のチームリーダーによって、隊員達は極度の混乱を避け、化け物と対峙する事が出来ている。宇宙空間を飛び交う2つの宇宙探査機に付いている、ナンバーリーダーを知らせるエンブレム。このエンブレムが、隊員たちの士気を鼓舞していると言っても過言ではない。
「と言ってもよォ、流石にこのちっせぇおもちゃじゃ、あのデカブツには厳しいんじゃねぇのか?」
「確かにそうだが、やってみる他あるまい」
「しゃあねぇな。お前らァ! 飛び道具の方は頼んだぞ。行くぞ! ギナム」
「オウ!」
2人は、宇宙探査機の数十倍、或いはそれ以上はある大きさの化け物に果敢に突っ込んでいく。だが、こちらが攻撃される気配は無い。
「コイツ……俺らの事を認識していないのか?」
「油断はするなよ」
「わぁってるよ!」
ヴォルフガングは、宇宙探査機から眼前の巨大な化け物に対して小型ミサイルを大量にぶち込んだ。
「オラオラァ!」
「俺もッ!」
ヴォルフガングに続き、ギナムも化け物に小型ミサイルを大量にお見舞いする。……だが、化け物は微動だにしない。それどころか、攻撃が効いているかさえ不明だ。
「オイオイ……フザケやがって……」
「効いていない……のか?」
2人の攻撃を受けてなお、化け物は2人に対してなんの反応も起こさない。そもそも、認識されているかすら不明だ。
「ハナっから、眼中にねぇってかアノ野郎……」
「……さて、どうしたもんか」
2人が次の手を決めあぐねていると、2人が動くより早くに化け物が動いた。
「ッ! チッ、アノ野郎、また花でも開く気か!」
化け物の蕾の1つが少しずつ動き始めた。先ほどはその動きの後に、花が開き中から大量の飛翔体が生み出されていったのを2人は見ていた。
「ヴォルフ! あの蕾だ! アレを攻撃しろ!」
「蕾か……。よし! いけオラァ!」
2人は、動きを始めた蕾の近くまで接近し、そこから小型ミサイルをとにかくぶち込む。
「今度はどうだ!?」
……だが、蕾の動きが止むことは無かった。
「クッソ、火力が足んねぇのか? それともまた効いてねぇだけか?」
「ってマズイ! ヴォルフ! 一旦離れろ!」
突如、蕾の動きが活発になり、ギナムの判断で2人はそこから急いで距離を取る。そして次の瞬間、蕾は動きを急速に止め、少しして徐々にその中にある花を見せるように開き始める。
「また始まりやがった……。お前らァ! また次が来るぞ!」
ヴォルフガングは、遠方で戦っている隊員達に対して急いで通信を始める。その通信が終わるのと同時に、蕾は完全に開ききり1つの花となった。そして、その花の中からまた大量の飛翔体が姿を現しミールフスへと目標を定め花から大量に飛び立っていく。
「クソ! マズイな……この蕾をどうにかしない限り、あの飛翔体が次々とミールフスに……って、アレはなんだ?」
「あ? どうした……って、なんだアレ……」
2人は、化け物から飛び立つ飛翔体を目で追っている中で、後方にあるエンドレスの近くで、見たことが無い謎の巨大な立方体が漂っていることに気づいた。
「なんだよ……アレ……」
「まさか……新手か!?」
2人は、しばらくその立方体を見ていると、やがてその立方体がどんどんとこちらに近づいて来ることに気づいた。
「オイ! こっち来やがった!」
「どうする!? 迎撃するか!?」
2人が、その立方体の方へ向き直り攻撃を行おうとすると、突如2人の宇宙探査機に通信が入って来た。
「オイ! そこの2つの隊長機! 邪魔だから失せろ!」
「この声……ルーカスのとこの問題児か?」
「すみませんっ! うちのミヤカが……」
「ん? ユゼか?」
「そうですっ! ユゼですっ!」
「んなことどうでもいいからサッサと失せろ! ぶつかんぞ!」
2人は、こちらに突っ込んでくる立方体の通り道から急いで外れる。そして、その立方体、CUBEはそのまま止まることなく化け物に体当りをする。
「オラァ!」
「おい馬鹿! 早く止まれって! うわぁぁぁぁ!」
CUBEの体当りは化け物に見事に決まった。だが、化け物はビクともしない。
「オイ小娘! お前がソレ動かしてんのか?」
「んなもん見れば分かんだろ! 節穴かテメェは!」
「早くソイツの傍から離れろ! ソイツはなにをしてくるか分からない!」
「ほらミヤカ! 早く離れろ! 早く!」
「……これ、どうすんだ? どうやって後ろに下がればいいんだ?」
「は、ハァア? お前操縦方法結局理解してねぇのかよ!?」
「るっせぇな! 宇宙探査機と同じだと思ったら微妙に違うんだよ!」
「おい、どうかしたか? なにかトラブルか?」
「いえ、あの……ミヤカが……これの操作方法を……」
「なにぃ!? 小娘、テメェんなことも分かんねぇでここまでそのデカブツ動かして来やがったのか!?」
「るっせぇな。こちとら一刻も早くコノ化け物殺しに来ただけなんだからよぉ。一々操縦の仕方なんて探してられっか!」
「というか、その四角いでかいのはなんなんだ? そんなもの、見たことも聞いたことも無い」
「あ、えっと、これはですね、どうやらシドシワルワ-CUBE-っていうモノみたいです」
「シドシワルワ? そう言えば艦長がなんか最後に言ってたな……。ユゼ! 俺の事が分かるか?」
「はい、ギナムさんですよね?」
「そうだ。ユゼ、そこになにかソイツの操作方法でも書いてあるものはないのか?」
「今、探してみます!」
「オイ小娘! ヴォルフガングだ! 聞こえてるか?」
「聞こえてんぞハゲ。っつーかアタシはミヤカだ! 小娘小娘うるせぇぞハゲ」
「わぁったよミヤカ。あとハゲっていうのは止めろ。いいか、これから俺たちが見たこの化け物の行動パターンについて説明する。コイツは、ある程度時間が経つと体中にある蕾がどんどんと開いていく。そして、その蕾が開き終わり花となると、中から飛び道具みてぇなのが大量に出てきやがる。今んとこ、ソレらが大量にミールフスに向かっている状態が続いている。とりあえず他の隊員達にはその飛び道具の処理を頼み、俺たちはコイツを直接叩きに来た訳だが、どうやらコイツには俺たちの攻撃が効いてないらしい」
「だったら、テメェらは早く後方に下がんな。足手まといになるだけだ」
「今の状態のお前に言われる筋合いは無い。俺はこのままコイツに有効な攻撃が通る箇所がないか調べる。だからくれぐれも巻き込まないでくれよ」
「ユゼ、どうだ? なにかそれらしき物はあったか?」
「いえ、なにも……」
「だとしたら心当たりは……。そうだ! ユゼ! ルーカスからなにか聞かされていないか? アイツはなにかと色んな事を知ってるもんでな。もしかしたらソレの事についてもなにか知っているかもしれない」
「ルーカスですか? そう言えば…………って、覚えが無い……。ん? 待てよ? アイツに携帯端末を貸した時、なんか変なアプリみたいなのを入れられたような……。もしもの時にって言われて……」
「なにか心当たりがあるのか?」
「ちょっと待ってください。今調べてみます」
ユゼは急いでポケットに入れている携帯端末を取り出す。そして消さずに取っといておいたその変なアプリを起動してみる。
「……これは。『パスワードを入力してください』? パスワードったって……、『ルーカスイケメン』とか『ルーカスかっこいい』とかか? いやでも、アイツはこういう緊急時はちゃんとするはずだから……考えられるのは……『CUBE』……」
ユゼがそうパスワードを入力してみると、画面が変わりなにやら説明書のようなものが出てきた。
「って、ホントに出た! ギナムさん! 出ました! なんか説明書っぽいものが!」
「そうか! なら後は大丈夫そうだな! 俺たちは引き続きコイツに攻撃を加える。そっちも気を付けてかかってくれ。行くぞ! ヴォルフ!」
「オウよ!」
ヴォルフガングとギナムは化け物の後方に移動し攻撃を再開した。しかし相変わらず化け物に攻撃が効いている様子は微塵も無い。
「ミヤカ! コレ見てくれ」
「あ? んだコレ……なになに……」
ミヤカはユゼから携帯端末を奪うと、そこに書いてあるものをササっと流し読みする。
「……ナルホドな」
「なにか分かったのか?」
「少しな」
ミヤカはそう言って操縦を再開する。今度はCUBEの後方からではなく、化け物と接触している前方からエネルギーを噴出させる。
「オラァ!」
化け物にその力を浴びせながら、CUBEは一旦距離を取る。そして今度は、後方からエネルギーを噴出させつつ、前方から後方とは違った「色」のエネルギーを噴出させる。その色は、警備隊がWSIの脚部を切断させた時に使用した武器の炎の部分と酷似している。
「おい、なんだソレ?」
「知らねぇよ!」
ミヤカは、CUBEの前方からその「炎」を出し、再び目の前の化け物に突っ込んでいった。
「死ねオラァ!」
化け物に炎が突き刺さる。そしてミヤカは、今度はCUBEの底面からもエネルギーを噴出させ、炎を当てながら化け物の上部へと移動していく。
「オラオラァ! どうだ!」
「効いているのか……?」
……だが、化け物はなんの反応も示さない。それどころか、まるで最初から攻撃してくる人間達など眼中にないかのように淡々と次の花を咲かす準備を始めている。
「来やがった……ミヤカァ! 聞こえるかァ!」
「なんだ!」
「『本体』がダメなら『蕾』を攻撃してみろ! 俺たちも援護射撃する!」
「蕾……」
ミヤカは複数ある中の1つの蕾の前にCUBEを移動させる。そして、今度はCUBEの右側面から炎を先程より多く噴出させる。その姿は、まるで巨大な片翼だけの怪鳥のようだった。
「行けオラァ!」
ミヤカは化け物から生えている蕾の根元の部分に、巨大なCUBEの片翼を当てるかのように右側面から噴出されている炎を蕾を切り落とすように当て続ける。そして、それを少しでも助力すべく、炎が当てられている蕾の根元部分にヴォルフガングとギナムは小型ミサイルをひたすらぶち込む。
「オラオラァ!」
ミヤカはさらにCUBEの出力を上げる。炎がどんどんと鋭利に、巨大になっていくにつれ、やがて今まで沈黙を貫いてきた化け物に変化が訪れる。
「蕾が……」
「切断されてっている……」
「オウラアァアァァッ!」
やがてCUBEは、その蕾の横を完全に通り過ぎた。巨大な片翼が過ぎ去った跡には、化け物の蕾が花開く前に本体から完全に乖離していた。
「ようやく……攻撃が通ったのか?」
その様子を見ていたヴォルフガングは、初めての手ごたえに安堵よりも驚きの感情を抱いていた。
「どうやら……そのようだな。そしたら、この今ある蕾を全てこのように切り落としていくしか……」
化け物の体にはまだ複数の蕾がある。だが、これを全てどうにかしない限りミールフスに対しての攻撃は止むことはないだろう。
「ミヤカ。次の蕾も頼むぞ!」
「しゃあねぇなヴォルフガングちゃん……って、オイ……んだよアレ……」
「どうしたミヤカ? って……嘘だろ?」
突如動きが固まったミヤカが見ていた方向をユゼも向くと、そこには、開き終わった花が急速に逆戻りでもしているように蕾の状態へと戻っていった。さらには、今までなにも無かった箇所から新たな蕾が生えはじめた。
「オイ……ギナム……」
「ああ……マズイな……」
「フ……フフフ……いいぜぇもっと楽しもうってか……行くぞオラァ――ッ!」
次の蕾を叩きに行こうとしたミヤカだったが、急に足元がガクッとふらついた。
「おい! 大丈夫か!?」
「あ? んでもねぇよ……。行くぞオラァ!」
CUBEは、再び蕾を刈るために動き始めた。




