83 サリ?
「いい考えだと思わないか! がはははは!」
「残るってったって……」
イエロータドはこの母船の街で、バーを継続するという。
「聞いてみたんだ。色々とな。客に。そしたらどうだ。星に降りずに、この街に残る奴もいるってんだ。たいがいは乗組員だろうが、それ以外にもな。そいつら相手に、俺は店をやっていく」
そんなことが許されるのだろうか。
今度もライラは鼻を鳴らしただけだ。
「そこでだ。ライラとチョットマに相談だ」
ドライフルーツを皿に盛りながら、イエロータドが改まった。
「レイチェルに頼んで欲しい。彼女が残れば、多くの市民もきっと同調するだろう? 商売も上手くいくってもんだ」
と、低く笑い声をたてた。
「厚かましいことを言うんじゃないよ!」
そろそろだと思っていたが、ここでライラの怒りが爆発した。
「ふざけるんじゃない! お前の商売なんざ、知ったこっちゃない!」
ライラは空になったグラスを乱暴にカウンターに置くと、イエロータドの方へ押しやった。
イエロータドはそのグラスに液体が残っていないか、透かして見ながら、待ってましたとばかりに言う。
「もちろん、ただでとは言わん」
「ふん! この店の永久フリーパスをもらっても、嫌だね!」
「違うさ。こういうことだ」
このところ、失踪した者や記憶を無くした者が何人かいるが、その消息や原因について、思い当たる節があるという。
「どうだい? その情報と引き換えってことで」
完全にライラは頭に来たようで、ガバッとスツールから降りると、それを思い切り蹴とばした。
スツールがみっともなく倒れ、鈍い音を立てて床を転げた。
「チョットマ! 帰るよ! 付き合ってられるか! こんな男だったとは! このライラの目もいかれてしまったもんだ!」
その時、入ってきた者がある。
「おはようございます……」
物音に怖気づいたように顔を覗かせた者を見て、チョットマは目を丸くした。
サリ……?
かつては東部方面攻撃隊の隊員であり、無二の親友……だった。
自分と同じレイチェルのクローン。
アンドロに操られ、レイチェルを殺そうとしたサリ……。
宇宙船に移乗してから彼女に似た女性を何度も見かけ、会えば会釈程度はするようになっていた、その人。
名前は聞いていないし、向こうも名乗ろうとはしなかった。
もし、彼女がサリと名乗った時、自分の反応に自信が持てなかった。
彼女の気持ちは痛いほどよくわかるが、だからといって許せるものでもなかった。
たとえ、レイチェルが許したのだとしても……。
イエロータドが顎をしゃくって、消えろと指示した。
女性は、おずおずと入ってきて、小部屋に消えた。
え?
まさか、ここの従業員?
女性の目がチョットマと合ったとき、浮かべた微笑が困惑の色を帯びていた。
まさか……。そういうこと?
サリ?




