81 それが私の地球に対するノスタルジー
三分どころか、アイーナはかれこれ一時間近くも喋っている。
チョットマはもっぱら聞き役。
半ば強制されるように、ケーキを五つも平らげた。
こんなにおいしいものが世の中にあったとは。
アイーナは大昔はもっとおいしかったというが、ニューキーツはもちろん、今の地球から消えたお菓子。
それほど地球の文明や文化は後退してしまったということなのだろう。
コーヒーは思っていたほどおいしくはなかった。
ただ、この高揚感は何だろう。
そんなことを考えながらチョットマは、時々、質問しては相槌ばかりを打っていた。
アイーナはどう見ても上機嫌。口は止まることを知らない。
なんだって? パリサイド?
星の名前に決まってるじゃないか。なにを言ってるんだろうね、この娘は。
人は自分達のことを何と言う? 人だろ。もっと大きく捉えるときには、人類って言うだろ。
私達だってそう。
自分達のことをパリサイドなんて言い方はしない。
ただ、地球に帰還することにしたとき、地球に住み続けている人々と、私達を区別する必要があると思った。
そこで、パリサイドと名乗ることにしたのさ。
まさか、神の国巡礼教団の成れの果て、なんて言われたくなかったからね。
どんな星かって?
普通。全く普通。
どう普通かと言えば、地球と同じ。
平原があって海があって、山がある。
昼もあれば夜もある。
空気もある。重力は少し小さいけどね。
地球より大きいといったって、ただただ、単調なだけ。
ペアになった星だからと言って、珍しいものじゃないしね。
唯一、無いものと言えば、そう、雪が降らない。
季節がないのさ。
どんなに高い山があっても、そこに氷河もないし、むしろ暑いくらい。
私の生まれ故郷はね、とっても寒い国。
バルト海、知ってる?
ああ、あの静かな雪景色。そこにもう一度身を置いてみたい。
風が吹きすさぶ、凍える氷原を走ってみたい。
それが私の地球に対するノスタルジー。
いつから、パリサイドに住んでるのかって?
それはいい質問だね。
じゃ、聞くけど、神の国巡礼教団の話は聞いたことがある?
ああ、まあだいたいそういうこと。
それなりに歴史も勉強してるじゃないか。
もう数百年も前のことだよ。




