68 約束を違えることになりますが
音楽が消えた。
男の声が響き渡る。
「畏れ多くも皇帝や姫君、そして、騎士、淑女の諸君に申し上げる!」
ホールのざわめきが消えていく。
「いつもの仮面の上に、新たな仮面、今宵限りの仮面をつけたご気分はいかがだったかな!」
男が剣を振り払った。
切っ先から、キラキラしたものが飛び散り、ホールに降り注いだ。
「私からの提案だ! ここで、今宵の仮面を脱ぎ捨てよ!」
男が見下ろしている。
「どうだ! できるか!」と、剣でホールの一角を指す。
「どうだ! できるか!」と、また違う一角を。
人々は静まり返った。
そんな。
今更、仮面を外せと言われても。
そんなどよめきが、漂っている。
「できるものがいたら」
と、男はさらに剣を振り払う。
再び、光の粒。
「そいつを叩き出せ! ここは仮面舞踏会! 己を隠し、あるいは現し、羽目を外してこそのマスカレード!」
どよめきは歓声に変わった。
「では諸君!」
男が剣を空中に投げた。
人波がどっと動く。
剣はたちまち消え失せ、大量のチョコレートが降り注いだ。
重力にしたがって、ゆっくり落ちてくる。
「これが最後の曲だ! 心残りなく踊り給え!」
と同時に、音楽が始まった。
マエストロがタクトを振るう、振るう。
髪の先から汗が飛び散る。
哀愁を帯びた曲だった。
階段もろとも男は消えた。
その跡を引くようにキラキラした虹色の光。
最後の曲、と私、呟いたと思う。
そして、EF16211892と繋いだ手に思いを込めた。
「約束を違えることになりますが」
「もちろん」
曲はますます憂いを帯びていく。
切ない調べに、去り難さが募る。
今宵の幸せを噛みしめるように、私は舞った。




