66 そんな提案、嫌よと、激しく舞った
一曲が終わった。
さあ、どうするの?
もっと踊っていたい。
やっとコツが飲み込めてきたから?
それとも、この楽しさを終わらせたくないから?
パパは見てるかな?
振り返ろうとした途端に、新しい曲が始まった。
彼の手が私の手を軽く押し、脚がリズムを刻み始めた。
「もう少し、ご一緒に」
と、彼の声が聞こえた。
「ええ」
二曲目、彼は饒舌だった。
ダンスに慣れてきたのかも。
「貴女のような素敵なプリンセスに、こうしてお相手いただけるとは、この上なき光栄」
「身分の違いを感じさせない、貴女はお優しいお方」
「このような楽しい夜、もう二度とはないでしょう」
「麗しき今宵、私の眼にはもう何も映りません。貴女以外には」
などという。
「プリンセス、貴女がこの宮殿にお入りになって来られた時から、いえ、馬車に乗られていた時から、私の眼は貴女に釘付けでした」
「それは、どうかしら」
ここで突っ込むことではないが、からかってやりたくもある。
「馬車に乗っていた時と、服装は全然違うもの」
「いいえ、プリンセス。貴女から発せられる高貴さは、百万本のバラより香しく、たとえどんなご衣裳を纏われようとも、私のような無粋な者でも、しかと感じられるのです」
「そう?」
そういうことにしておこう。
ルン、チャッチャ、ルン、チャッチャ。
次の曲も、また次の曲も、ルルン、チャッチャ、ルン、チャッチャ。
あ、パパが見えた。
首を回した途端、テンポが乱れたのだろう。
EF16211892の声が沈んだ。
「この曲が終われば、パパ様の元へお送りさせていただきます。それまでは、どうか」
彼のリードで私はクルリと回った。
もう少し。
あるいは、この曲が少しでも長く。
そんな提案、嫌よと、激しく舞った。




