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66 鉾を収めて

 イコマはレイチェルと共に、キャプテン・キョー・マチボリーと会っていた。

 大阪出身ということで、同郷の誼、突っ込んだ話が聞けるかもしれないと思ってのことだ。


 キョー・マチボリーも、先日、もっと話があると言っていたので、面会の申し入れはすぐに叶った。

 宇宙船にスミヨシと命名したキョー・マチボリーのことだ。

 大阪弁で話せば、より親しみもわくのでは……。



「お言葉に甘えて、またお話を伺いに参りました」


 レイチェルの挨拶に、聞いていた通り、キョー・マチボリーは椅子に腰かけているのか、姿は見せない。

 ただ声だけが返ってくる。

「お待ちしていました」



 レイチェルに紹介されて、イコマは自分が大阪の生まれ育ちであると話した。

「大阪の平野という町に生まれまして、成人してからは環状線の福島の近くに住んでおりました」


 期待していた以上の反応があった。

「おお、それは懐かしい!」

 椅子の背が揺れた。


「それにお名前もイコマさん、生駒山、懐かしい響きですなあ」という声が返ってきた。

「住吉に長くお住まいだったとか。お生まれも?」

「いえ、四条畷」

「ほう!」


 四条畷、なんと懐かしい響きか。


「ご記憶でしょうか?」

「もちろん!」


 当たり前ですがな!と言えばよかったかな、と思ったが、さすがに初対面。気おくれしてしまった。


「で、勒公園の近くに引っ越された」

「そう、そう。でも、なぜそれが?」

「いや、お名前が」



 という調子で、じゃれ合っていたが、レイチェルが痺れを切らした。


「お話の続きとは、なんでしょう。しかし、その前に伺いたいことがあります」


 レイチェルがキョー・マチボリーに会いに来た理由。

 話の続きを聞きたかったわけではない。

 先日の講義の際に連れ去れらた女性の一件。



「理由をお聞きしたい」

 強い口調で言うレイチェルに、キョー・マチボリーは申し訳なさそうな声で言った。


「不安を抱かせてしまったようですね。あの女性は、その後お話しをして、ご納得いただいたので、すぐにご自宅までお送りしました」

「それは存じています」



 キョー・マチボリーが言うに、十日ほど前、あるグループで同じようなことがあり、その時は一人の声が全体を支配する事態となった。

 そして、講義そのものが中止になってしまったという。


「もう、着陸まで日数がありません。今の段階でまたあのようなことがあれば、皆さんの今後の生活に支障をきたすやもしれません」


 その事件以来、係員を配置しているという。


「奴隷にされるとまで言われて、うちの係員もつい手荒な方法をとってしまいました。どうか、ご容赦いただきたい」

 パリサイド星到達を前に、乗組員も気が立っていると、キョー・マチボリーは繰り返した。



「どのような対応をするか、そこまで指示していなかった私のミスです」

 と、キョー・マチボリーはすまなさそうに言う。


 そうまで言われて、レイチェルは鉾を収めるようだ。

 実際、あの女性は何ら危害を加えられることなく、十分な謝罪受けて返されている。


 くれぐれも市民にこれ以上の不安を与えることがないようにと釘を刺して、私の方こそ、市民をまとめきれていなくて申し訳ない、とまで言った。

 イコマはまだ不満もあったが、これから問い質すことの方が重要だ。

 まずは、キョー・マチボリーの話しかったことを聞くのが上策だろう。




 表面上、機嫌を直したレイチェルに促されて、キョー・マチボリーが話し出した。

「我々の社会について、あまりお聞きになってはいないだろうことをお話しします。実は」


 その最初の言葉にまず驚かされた。


「ここだけは神の存在を排除しています」

「は?」

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