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桐山さんの孫 ~元社畜SEのフリーター、祖父から7.5億円の優待株を相続したら、相続税が3.8億円でした~  作者: しばたろう


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06 資産一覧と、先生からの満点評価

「しゅぽっ」


 LINEの通知音で目が覚めた。


 重い瞼を開け、あたりを見回す。

 閉じたカーテンの隙間から、眩しい朝日が部屋の中へと漏れ込んでいた。

 枕元に転がる時計を確認すると、時刻はすでに午前9時を回っている。

 どうやら昨夜、資産一覧データを送信し終えた勢いのまま、おじいちゃんの部屋で泥のように眠ってしまったらしい。


 重い体を起こし、スマホに手を伸ばして画面を覗き込む。


『一覧作成ありがとうございました。今一度おじいさまの部屋を拝見させていただきたく、ご都合の良い日時を教えていただけますでしょうか?』


 送信者は、葵先生だった。

 寝転がった無様な姿勢のままであったが、その名前を見た瞬間に背筋がピンと伸びる。


『今、おじいちゃんの部屋にいます。今日中ならいつでも大丈夫です』


 返信を送信して数秒。


『今から伺います』


 驚異の即レスが返ってきた。



「今から来るんだー、相変わらず仕事熱心だなぁ……」


 などとぼんやり考えていたのだが――ふと、恐ろしい事実に思い至った。

 そういえば俺、昨晩風呂に入っていない。


(やばい、俺絶対くさい!! 絶対葵先生に嫌われる!!)

 一気に血の気が引いた俺は、猛ダッシュでバスルームへ飛び込み、超高速でシャワーを浴びて身だしなみを整えた。ドライヤーで髪を乾かし終えたまさにその瞬間。


 ピンポーン。


 絶妙すぎるタイミングでインターホンが鳴り響いた。

 間一髪、葵先生のご到着である。


「おはようございます、信之さん」


 部屋に入ってきた葵先生は、どこか浮ついたような、ソワソワとした様子で室内をぐるりと見渡した。

 そして、きれいに分類・整頓された部屋の様子を確認すると、目を見開いて俺に向き直る。


「信之さん……すごいです! これだけの量の資産整理を、たった一週間でやり遂げるなんて!」


「え? いや……一週間以内にやれって言ったの、葵先生じゃないですか?」


「すみません、あれはハッパをかけるつもりで『一週間』と言ったんです。正直なところ、一ヶ月以内にできれば御の字だと思っていました」


「……えぇー……」


 俺はその場にガクリと膝をつき、床へへたり込んだ。

 あの決死の二日間の死闘は一体何だったのか。よほど俺のこと、信用されていなかったらしい。


 そんな絶望する俺の様子を気にする風もなく、葵先生は部屋の隅に積み上げられた段ボールや書類の束をつぶさに検分し始める。


「……よく整理されている……素晴らしい……」


 つぶやきながら真剣な眼差しでチェックを続ける彼女の背中を見つめながら、俺は心の中でそっと呟く。


(まあ、元SEという職業柄、この程度のデータ整理と現物管理なんてたいしたことないのですけどね……)


 すると、葵先生がふと振り返った。


「そういえば信之さん、写真の方はちゃんと残されていますか?」


「あ、はい。全部保存してありますよ。クラウドにアップロードしてありますので、先生のPCともすぐに共有できます」


 俺はノートPCを開き、フォルダに格納された大量の写真データを見せた。

 葵先生は画面に近づき、理路整然と連番(キー)順に整列した画像ファイル群を凝視する。


「……すごい」


 ぽつりと呟いたかと思うと、彼女は突然、ぐいっと俺の方へ身体を向き直させた。


「っ!?」


 至近距離まで顔が近づき、心臓が跳ね上がる。

 ……よかった。本当に、直前にシャワーを浴びておいて本当に良かった……!


「想像以上です!拝見した資産一覧も非常に美しく整理されていましたし、現物との紐付けに関しても文句のつけようがありません!」


「い、いやぁ……」


 クールな葵先生から思いがけず大絶賛され、逆に居心地が悪くなってお尻がむずむずする。


「正直、ただの資産家のすねかじりかと思っていましたが、まさかここまで仕事のできる方だったとは。御見それいたしました」


「……」


 ん? 今、ナチュラルに極限レベルの毒を吐かれた気がするぞ?

 まあ……怒られるどころか大満足してもらえたみたいだし、結果オーライということにしておこう。



「しかし、こうしてきれいに整理されてみると、あらためて優待品の多さに驚かされますね……」


 葵先生が腕を組み、壁際に整然と並ぶ段ボールの山を見つめてため息をつく。


「ほんと、そうですね」


 俺も葵先生の隣に並んで立ち、しみじみと相槌を打った。


 葵先生はこちらへ振り向くと、キリッとした表情で本題を切り出してきた。


「さて、無事に資産整理も終わりましたので、あとはこれらの品をどう処分するか……ですね?」


「そうなんですよね。あ、ちょっと概要一覧(サマリー)を作っておいたので、それを見ながらご相談させてもらってもいいですか?」


「サマリー……?」


 俺はそう言いながらノートPCを操作し、画面に作成しておいた資産整理のサマリー結果を表示して葵先生に見せた。


「……! こんな資料まで作られていたのですか!?」


 葵先生はまたしても目を丸くして感嘆の声を上げたが――正直なところ、資産一覧のデータをそのままAIに読み込ませて『全体を集計して分類ごとにサマリーを作って』とプロンプトを投げただけだ。数分もかからずにAIが勝手に吐き出してくれるのだから、大した手間でもない。


 画面に表示されたサマリーの内容は、以下の通りだ。



【桐山広海・現物資産リスト(概要)】


1.金券・有価証券類(総額:約850万円相当)

 ・QUOカード:約350万円分

  (数百枚。未開封の台紙のままファイル数十冊分に保管)

 ・全国共通商品券・ギフトカード:約200万円分(JCB、VJAなど)

 ・外食チェーン食事券:約180万円分

  (マクドナルド、吉野家、すかいらーく、コロワイド等)

 ・図書カード・NEXT:約70万円分

 ・お買物優待券・割引券:約50万円分(百貨店、家電量販店、ドラッグストア)

   ※【注意メモ】:有効期限が「今月末」の食事券が15万円分ほど存在。


2.食品・現物優待(段ボール群:全62箱)

 ・お米:合計 約350kg(全国各地の銘柄米)

 ・清涼飲料水・ビール・缶詰:段ボール 14箱分

 ・レトルト食品・カップ麺・調味料:段ボール 12箱分

 ・高級和牛肉・ハム・カタログギフトの現物:段ボール 8箱分

  (一部、賞味期限ギリギリ)

  ※【備考】:お米350kgのうち100kgは「たまや食堂」へ譲渡済み。


3.日用品・その他(段ボール群:全28箱)

 ・トイレットペーパー・ティッシュペーパー:段ボール 8箱分(推定3年分)

 ・洗剤・柔軟剤・シャンプーセット:段ボール 10箱分

 ・自社製品詰め合わせ(タオル、文房具、防災グッズなど):段ボール 10箱分


4.体験型・乗車券類(有効期限あり)

 ・鉄道・航空乗車券:JR各社、私鉄、ANA/JALの優待番号案内書(数十枚)

 ・映画鑑賞券・レジャー施設入場券:数十枚(期限切れ多数あり)



 じっと画面をスクロールしながら見つめていた葵先生が、ふうっと深いため息を漏らした。


「……あらためて数字で見せられると、圧巻ですね。おじいさまの凄まじい株主優待愛を感じます」


「ですね。ただ……これ、期限付きのものもかなり混ざっていて、どう料理したもんかなと……」


 俺たちは画面上の『今月末で切れる食事券15万円分』という文字を見つめながら、同時に腕を組んだのだった。

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