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【完結】『貴様さえいなければ』と追放された悪役令嬢ですが、『深淵の魔女』は黒歴史の設定です。本当に伝説にしないでください。  作者: ましろゆきな
第三章 鳥籠の鍵

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第二十八話 守るための一手


 それは、何でもない昼過ぎに起きた。


 エリアーナが地下の保管室で作業をしていた。シオンが隣にいた。エミールは書庫にいた。マリアが廊下を通り過ぎたところだった。


 特別なことは、何もなかった。


 ただ、シオンが突然、動きを止めた。


 ◇


 エリアーナは、それを最初、フリーズだと思った。


 シオンが動かなくなるのは、稀にあった。演算の負荷が高いときに、一時的に停止することがある、と本人から聞いていた。


 「シオン?」


 返答がなかった。


 「シオン、大丈夫ですか」


 次の瞬間、シオンの目の色が変わった。


 通常の金色から、深い赤に。


 「……」


 エリアーナは、一歩後ろに退いた。


 シオンが、ゆっくりと立ち上がった。動作が、いつもと違った。滑らかさがなかった。ぎこちない、まるで制御を失いかけているような動き方だった。


 「シオン、何が起きていますか」


 「……干渉、過負荷」


 声が、歪んでいた。


 「外部魔力、制御限界、超過」


 エリアーナは、その言葉の意味を一瞬で理解した。


 エミールの魔力だ。


 「シオン、止まれますか」


 「不可能。緊急制御モード、起動」


 シオンの腕が、壁を殴った。


 石の壁に、亀裂が入った。


 ◇


 上の階に、音が届いた。


 エミールは、書庫を飛び出していた。


 廊下を走りながら、自分の魔力が急激に膨れ上がるのを感じた。感情と魔力が連動している。今、エリアーナが危険だと認識した瞬間に、魔力が跳ね上がっていた。


 それがさらに、シオンの暴走を加速させる。


 「まずい」


 地下への石段を、一息に降りた。


 ◇


 保管室の扉を開けた瞬間、シオンの腕が再び壁を打つのが見えた。


 エリアーナは、部屋の隅にいた。怪我はない。ただ、出口に戻れない状態だった。シオンが、出口との間に立っていた。


 「エリアーナ、動かないでください」


 エミールは、部屋に入りながら言った。


 「エミール、魔力を抑えてください、干渉が」


 「分かっています」


 分かっていた。だが、エリアーナの顔を見た瞬間に、それがさらに難しくなった。怪我はないか。怖い思いをさせてしまった。その事実が、感情を揺らした。


 シオンが、エミールを向いた。


 赤い目が、エミールを捉えた。


 「……管理者への脅威、排除」


 「待ってください、シオン。私は脅威ではありません」


 「外部魔力発生源、排除対象」


 シオンが、腕を振り上げた。


 エミールは、魔力を解放した。


 ◇


 それまでのエミールの魔法は、抑制されていた。


 瓶底眼鏡の中に隠れていた顔と同じように、それも、意図して隠されていたものだった。


 今は、違った。


 抑制を外した魔力が、石造りの地下室に満ちた。


 シオンの動きが、止まった。


 外部から魔力に拘束されたシオンは、しばらく抵抗しようとしていたが、やがて、力が抜けるように床に膝をついた。


 「……制御、回復中」


 声の歪みが、少しずつ和らいでいった。


 「外部魔力干渉、低下……緊急モード、解除」


 シオンの目の色が、赤から金へ、ゆっくりと戻っていった。


 「……申し訳ありません」


 元の声になっていた。


 「私の内部システムの限界を、正確に把握できていませんでした。管理者を危険な状況に置いてしまいました」


 「大丈夫です」


 エリアーナが、静かに答えた。


 「怪我はありませんか」


 「ありません。エミールは」


 エリアーナが、エミールを見た。


 エミールは、壁に手をついていた。


 「エミール?」


 「……問題ありません」


 「嘘です」


 エリアーナは、エミールに近づいた。


 腕に、裂傷があった。シオンの腕が振り下ろされた際に、エリアーナをかばうように動いた跡だった。


 「なぜ言わないんですか」


 「大したことではありません」


 「大したことです」


 エリアーナの声が、珍しく、強かった。


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