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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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7500PV突破記念SS エマの家族、リリアーナの思いつきにより公爵邸の離れに移住する



 ――アルヴェイン公爵邸、庭。


「エマ」


「はい!」


 呼ばれて、即座に返事。


 まだ少し緊張が混じる。


「最近、どう?」


 リリアーナが聞く。


「え……?」


 少し戸惑う。


「えっと……慣れてきました」


「そう」


 微笑む。


 それだけで、少し安心する。


 ――だが。


 リリアーナは、少しだけ首を傾げた。


「家は遠いのよね?」


「はい」


 一拍。


「王都の外れなので……」


「通うの、大変じゃない?」


 エマは一瞬迷う。


 正直に言うべきか。


 それとも。


「……大丈夫です」


 とりあえずそう答えた。


 だが。


 その“間”を、リリアーナは見逃さない。


「そう」


 一拍。


「でも、少し大変そうね」


 断定ではない。


 でも、否定もできない。


 エマは何も言えなくなる。


 ――事実だから。


 その時。


 リリアーナが、ぽつりと言った。


「じゃあ、近くに来たらいいわね」


 沈黙。


 エマの思考が止まる。


「……え?」


 理解が追いつかない。


「離れ、空いているし」


 さらりと続ける。


 まるで。


 “ちょっと席を移す”くらいの軽さで。


「……え?」


 もう一度。


 同じ言葉しか出ない。


 エリシアが横で固まる。


「ちょっと待って」


「なに?」


「それ、どういう意味?」


「どういうって……」


 一拍。


「住めばいいじゃない」


 完全にシンプル。


 論理も、理由も。


 全部省略されている。


 レオニードが、静かに口を開く。


「……対象は」


「エマと、その家族よ」


 即答。


 沈黙。


 完全な沈黙。


 エマの頭の中が真っ白になる。


「……あの……」


 何か言わなければ。


 でも、言葉が出ない。


「ご家族もいるのでしょう?」


 リリアーナが自然に聞く。


「はい……母と弟が……」


「そう」


 頷く。


「じゃあ、三人ね」


 話が進んでいく。


 止まらない。


 エリシアが小さく呟く。


「……決まった」


「……ああ」


 レオニードも同意する。


 これはもう。


 止まらない。


 止めるべきでもない。


 ――数日後。


 アルヴェイン公爵邸、離れ。


「……本当に、いいんでしょうか」


 エマの母が、何度目かの確認をする。


「問題ない」


 執事長が答える。


 迷いなし。


「手続きも完了しております」


「でも……」


「選定済みです」


 それで終わる。


 理由の説明はない。


 だが。


 それで十分。


 エマは、まだ信じられない顔をしている。


 自分の部屋。


 家族の部屋。


 屋根があり、

 安全があり、

 仕事があり。


 ――全部ある。


「エマ」


 母が静かに言う。


「はい」


「大事にしなさい」


 一拍。


「このご縁を」


 エマは、強く頷いた。


「はい」


 ――庭。


「どう?」


 リリアーナが聞く。


「大丈夫そう?」


「は、はい!」


 エマが答える。


 少しだけ、声が震える。


「本当に……ありがとうございます」


 リリアーナは首を傾げる。


「なにが?」


 心から分かっていない。


 それが分かる。


 だから。


 エマは、少しだけ笑った。


「全部です」


 それ以上は言わない。


 言えない。


 言葉にすると、軽くなる気がしたから。


 リリアーナは少し考えて。


「そう」


 とだけ言った。


 それでいい。


 それで十分。


 ――エリシアが小さく呟く。


「また一つ増えたね」


「なんだ」


「お姉様の“範囲”」


 レオニードは否定しない。


「……ああ」


 一拍。


「だが問題ない」


「うん」


「むしろ安定する」


 エマは、すでにその中にいる。


 完全に。


 ――夜。


 離れの部屋。


 エマは窓から空を見る。


 静かだ。


 安心できる。


 怖くない。


 それが、少し不思議だった。


「……すごいな」


 小さく呟く。


 あの人は、何もしていない。


 ただ。


 思いついて。


 言っただけ。


 それだけなのに。


 人生が変わる。


 家族が救われる。


 場所が変わる。


 世界が変わる。


 でも。


 本人は、何も知らない。


 それでいい。


 それがいい。


 エマは、静かに目を閉じる。


 そして思う。


 ――この人のそばにいよう。


 それが。


 今、自分にできる一番のことだから。

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