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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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7500PV突破記念SS エマ、リリアーナに心酔する



 ――アルヴェイン公爵邸、朝。


「おはようございます!」


 エマの声は、少し大きい。


 まだ見習い。


 動きも、言葉も、少しだけ固い。


 だが。


 目だけは、真っ直ぐだった。


「おはよう」


 リリアーナが微笑む。


 それだけ。


 それだけなのに。


 エマの心臓が、一瞬跳ねた。


 ――やっぱり、この人だ。


 あの日から、ずっと変わらない。


 優しくて。

 穏やかで。

 何も特別なことをしていないのに。


 全部が変わる。


 エマは知っている。


 あの日。


 薬草を落として、どうしようもなかった自分に。


 この人は、何も押し付けなかった。


 叱らなかった。


 責めなかった。


 ただ。


「どうしたの?」


 と聞いて。


 一緒に考えてくれた。


 それだけ。


 それだけで。


 世界が変わった。


 ――厨房。


「エマ、そこ違う」


「はい!」


 先輩の声。


 すぐに動く。


 まだ遅い。


 まだ雑。


 でも。


 止まらない。


「焦るな」


「はい!」


 分かっている。


 でも。


 焦る。


 理由は簡単。


 ――あの人のそばにいたいから。


 ――庭。


 休憩時間。


 リリアーナが、花を見ている。


 いつも通り。


 何も変わらない。


 エマは少し離れた場所から、それを見る。


 近づきたい。


 でも。


 距離を間違えたくない。


 ここは、そういう場所だと知っているから。


「エマ」


 名前を呼ばれる。


「は、はい!」


 反射的に返事をする。


 リリアーナがこちらを見ている。


「少し手伝ってもらえる?」


 その一言で。


 エマの世界が止まる。


「はい!」


 即答。


 迷いなし。


 走り出したいくらいの気持ちを抑えて、近づく。


「これを持ってくれる?」


 小さな籠。


 花が入っている。


「はい」


 受け取る。


 軽い。


 でも。


 重い。


 ――意味が。


「ありがとう」


 リリアーナが言う。


 その一言で。


 胸が熱くなる。


「いえ……!」


 言葉がうまく出ない。


 でも。


 それでいい。


 ――十分だから。


 エリシアが少し離れた場所で見ている。


「……あれ」


 小さく呟く。


「なに?」


 レオニードが聞く。


「完全に落ちてるね」


「……ああ」


 短い肯定。


「一人増えた」


「うん」


 一拍。


「でも問題ないよね」


「問題ない」


 レオニードは断言する。


「安定要素になる」


 つまり。


 エマは、すでに“内側”に入っている。


 ――リリアーナの近くにいる者。


 それだけで。


 役割が生まれる。


 ――夕方。


 業務終了後。


 エマは一人、控え室にいた。


 今日のことを思い出す。


 名前を呼ばれたこと。

 手伝ったこと。

 ありがとうと言われたこと。


 それだけで。


 満たされる。


「……すごい人だ」


 小さく呟く。


 違う。


 すごい、だけじゃない。


 言葉にできない。


 でも。


 はっきりしていることがある。


 ――この人のそばにいたい。


 理由は分からない。


 でも。


 それでいい。


 むしろ。


 理由がない方が、正しい気がする。


「……頑張ろう」


 エマは立ち上がる。


 まだ見習い。


 まだ何もできない。


 でも。


 少しずつでいい。


 近づく。


 あの人の“普通”を支える側に。


 ――翌朝。


「おはようございます!」


 昨日より、少しだけ落ち着いた声。


 でも。


 気持ちは同じ。


 リリアーナが微笑む。


「おはよう」


 その一言で。


 エマはまた思う。


 ――やっぱり、この人だ。


 そして。


 それが。


 何よりも確かなことだった。

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