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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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7500PV突破記念SS 公爵家専属料理人、パン界隈の神であるリリアーナ様に作ったパンを褒められ感涙し泣き崩れる。


 ――アルヴェイン公爵邸、厨房。


 朝。


 焼き上がるパンの香りが、空気を満たしていた。


「……よし」


 専属料理人は、静かに頷いた。


 今日の出来は、いい。


 温度管理。

 発酵。

 焼成。


 すべてが理想値に近い。


 だが。


 それでも。


 足りない。


 ――評価。


 あのお方の。


 リリアーナ様の。


 たった一言。


 それだけで、すべてが決まる。


 ――パン界隈の神。


 それが、彼女の立ち位置。


 誰も口にしない。


 だが、全員が知っている。


 あの方が「美味しい」と言えば、それが正解。


 あの方が「普通」と言えば、それは未完成。


 絶対基準。


 比較不要。


 誤差なし。


「……今日こそは」


 小さく呟く。


 手が震える。


 緊張ではない。


 期待だ。


 ――配膳。


 テーブルにパンが並ぶ。


 黄金色の焼き色。


 香ばしい香り。


 完璧に近い。


 だが。


 それでも、足りない。


 ――あの一言が来るまでは。


 リリアーナが席につく。


 穏やかな表情。


 いつも通り。


 何も知らない顔。


 パンに手を伸ばす。


 割る。


 湯気が立つ。


 柔らかい。


 香りが広がる。


 一口。


 静寂。


 厨房の奥。


 料理人は、呼吸を止めていた。


 すべてが、この瞬間に集約される。


 そして。


「……美味しいわ」


 その一言で。


 世界が止まった。


 完全に。


 料理人の思考が、停止する。


 数秒。


 理解が追いつかない。


 そして。


「……は……?」


 声が漏れる。


 次の瞬間。


 崩れ落ちた。


「う、うま……」


 膝がつく。


 手が震える。


 涙が、止まらない。


「美味しい……いただいた……!」


 声にならない声。


 感情が溢れる。


 止まらない。


 厨房の他の者たちが固まる。


「おい……」


「落ち着け……」


「無理だろこれ……」


 誰も止められない。


 それほどの“価値”。


 リリアーナは、もう一口食べる。


「ふわふわね」


 追加評価。


 追撃。


 料理人が完全に崩壊する。


「ふ、ふわふわ……評価……!」


 床に手をつき、泣き崩れる。


「完成した……!」


 それは誇張ではない。


 彼にとっては、事実。


 ――到達。


 長年の技術。

 経験。

 努力。


 すべてが。


 今、この瞬間に報われた。


 エリシアが小さく呟く。


「……また一人壊れた」


「問題ない」


 レオニードが即答する。


「正常な反応だ」


「そうかなぁ……」


「そうだ」


 一拍。


「価値を理解しただけだ」


 リリアーナは首を傾げる。


「どうしたのかしら」


「気にしなくていい」


 レオニードが即座に言う。


「そう?」


「ああ」


 それで終わる。


 ――後日。


 厨房内。


 料理人は立っていた。


 目が違う。


 迷いがない。


 ぶれない。


「次は、さらに上を作る」


 静かに言う。


 誰も止めない。


 止められない。


 なぜなら。


 “神に認められた者”だから。


 リリアーナは、いつも通りだった。


「今日も美味しいわ」


 その一言で。


 また一人。


 料理人の人生が変わることになる。


 ただの感想。


 ただの一言。


 それだけなのに。


 それが。


 絶対だった。

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