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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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7500PV突破記念SS 使用人たちのお嬢様(リリアーナ)について極秘会議



 ――アルヴェイン公爵邸、地下使用人会議室。


 灯りは最小限。


 扉は閉鎖。


 記録係一名、出席者七名。


 非公式、非記録扱い。


 議題は一つ。


 ――リリアーナお嬢様について。


「では、始める」


 執事長が低く言う。


「本会議は“何も起こさないための確認”を目的とする」


 全員が頷く。


 誰も異論はない。


「まず、現状報告」


 侍女長が口を開く。


「本日まで三日間、重大事象なし」


「感情トリガー発動なし」


「黒竜接近兆候なし」


「……良好だな」


 執事長が頷く。


 だが。


 その顔に油断はない。


「次に、“要因”の分析」


「公爵夫人の滞在が主因と推定」


「同意」


「感情安定率が明確に向上」


 淡々と進む。


 だが内容は重い。


「問題は」


 一人の使用人が言う。


「公爵夫人不在時の再現性」


 沈黙。


 全員が理解している。


 ――再現できない。


「対策案は」


 執事長が問う。


「エリシア様への負荷増加は不可」


「同意」


「現状維持が最適」


 結論は変わらない。


「では次」


 資料がめくられる。


「“発言トリガー一覧”の更新」


 空気が少し引き締まる。


「新規追加」


 一拍。


「“楽しいわ”――軽度トリガー」


「頻度高」


「影響小」


「監視対象に設定」


 記録係が書き留める。


「“またやりたいわ”――中度トリガー」


「イベント拡張傾向あり」


「事前準備必須」


 小さな頷き。


 全員が共有する。


「“少し気になる”――危険度上昇」


「黒竜接近事例あり」


 空気が一段階冷える。


「対応は」


「即時分散」


「話題転換」


「距離調整」


 全員が理解している。


 ――失敗は許されない。


「次に」


 執事長が続ける。


「“御用達現象”について」


 小さくざわめきが起きる。


「報告」


 商務担当が言う。


「対象店舗、現在二十三軒」


「増加傾向継続」


「制御不可」


「影響は」


「良好」


「経済活性」


「住民満足度向上」


「……問題なしと判断する」


 執事長が結論を出す。


 誰も反対しない。


「最後に」


 一拍。


「最重要項目」


 全員の視線が集まる。


「我々の役割を再確認する」


 静かな声。


 だが、重い。


「守るのではない」


「抑えるのでもない」


 一拍。


「――“普通を維持する”」


 全員が頷く。


 それがすべて。


「確認する」


 執事長が一人一人を見る。


「お嬢様は」


 全員が同時に答える。


「優しい」


 間違いない。


 事実。


「だからこそ」


 一拍。


「“何も起こさせない”」


 沈黙。


 そして。


 全員が、深く頷いた。


 ――会議終了。


 記録は残さない。


 口外禁止。


 だが。


 全員の中に刻まれる。


 役割として。


 責任として。


 そして。


 翌朝。


「おはよう」


 リリアーナが微笑む。


「おはようございます」


 使用人たちが応じる。


 自然に。


 違和感なく。


 何も起きない。


 ただの朝。


 ただの挨拶。


 それだけ。


 ――それだけを成立させるために。


 昨夜の会議があった。


 誰も知らない。


 お嬢様だけが知らない。


 それでいい。


 それが正しい。


 今日もまた。


 何も起きない一日が始まる。


 それが。


 この屋敷にとって、最も重要な成果だった。

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