7500PV突破記念SS ミアから見たリリアーナお嬢様とご兄妹
――アルヴェイン公爵邸、使用人控え室。
私は、ミア。
この屋敷で侍女として仕えている。
まだ年数は浅いけれど、一つだけはっきり分かっていることがある。
このお屋敷は――
普通じゃない。
いや、違う。
“普通に見せている”。
それが正しい。
特に。
リリアーナお嬢様。
あのお方は、本当に不思議だ。
優しくて、
穏やかで、
誰に対しても同じように接してくださる。
それだけ聞けば、理想のご令嬢。
でも。
それだけじゃない。
――何も起きないように、全員が動いている。
それに気づいたのは、配属されて三日目だった。
廊下で、お嬢様とすれ違った。
「おはよう」
そう言って、微笑まれた。
ただそれだけ。
でも。
周りの空気が、一瞬だけ“整った”。
言葉では説明できないけど。
“揃った”感じ。
その後。
先輩に言われた。
「今の、何もなかったでしょ?」
意味が分からなかった。
でも。
今なら分かる。
――何もなかったことが、すごい。
そして。
それを維持しているのが――ご兄妹。
レオニード様。
あの方は、怖い。
怒るとかじゃない。
常に見ている。
全部。
人の動きも、
空気の流れも、
言葉の選び方も。
そして。
何かがズレそうになると。
すぐに“修正”する。
「問題ない」
たった一言で。
場が安定する。
不思議なくらいに。
エリシア様。
あの方は、柔らかい。
よく笑って、
よく話して、
場を和ませる。
でも。
ただ明るいだけじゃない。
お嬢様の感情を、ちゃんと見ている。
少しでも揺れそうになると。
「大丈夫だよ」
自然に言葉をかける。
それだけで。
空気が戻る。
まるで。
“知っている”みたいに。
――そして。
三人が揃うと。
何も起きない。
本当に。
驚くくらいに。
普通になる。
お茶をして、
会話をして、
笑って。
それだけ。
それだけなのに。
それを見ていると、安心する。
ああ、これが普通なんだって。
でも。
少し離れると、分かる。
――普通じゃない。
全員が、無意識に合わせている。
お嬢様に。
そして。
お嬢様は、それを知らない。
本当に、何も知らない。
「今日はいい日ね」
そう言って笑う。
その言葉一つで。
全員が安心する。
――成立した。
って。
私も、最近は分かるようになってきた。
だから。
気をつけている。
言葉を選ぶ。
動きを整える。
余計なことをしない。
それだけでいい。
それだけで。
“普通”が守られる。
――ある日。
お嬢様に言われた。
「ミア」
「はい」
「ありがとう」
理由は分からない。
でも。
それで十分だった。
「いえ、とんでもございません」
そう答えた。
それでいい。
それがいい。
たぶん。
この屋敷にいる人は、みんな同じだと思う。
お嬢様が、普通に笑っていること。
それを守る。
ただ、それだけ。
それだけのために。
みんな動いている。
だから私は。
今日も、何も起こさないように動く。
何も起きていないように見せる。
それが。
この屋敷で働く者の、たった一つの仕事だから。




