5000PV突破記念SS エリシアから見たリリアーナ
――正直に言う。
お姉様は、おかしい。
いや、違う。
“普通すぎる”。
それが一番おかしい。
最初に気づいたのは、いつだったか。
多分、子供の頃。
剣の稽古。
お兄様と、お姉様。
私は少し離れて見ていた。
その時の印象は、今でもはっきりしている。
――お姉様、弱いなって。
だって。
全部止められてた。
全部届いてなかった。
お兄様は一度も打たなかったし、
全部寸止めで終わってた。
だから思った。
ああ、お姉様はまだまだなんだなって。
――で。
大人になってから思った。
あれ、全部逆じゃない?
って。
だって普通、寸止めって難しい。
当てるより、止める方が難しい。
それを、全部やってた。
しかも。
お姉様が動くたびに。
つまり。
――全部“見えてた”。
で、お姉様はどう思ってるかっていうと。
「お兄様には一度も勝てなかったわ」
うん。
そういうことになってるらしい。
もう何も言えない。
――今。
お姉様は、やっぱり普通にしている。
朝起きて、
ご飯食べて、
散歩して、
お茶して。
それだけ。
本当に、それだけ。
なのに。
周りは全部、それに合わせて動いてる。
空気とか。
人の流れとか。
たまに世界とか。
いやほんと、何それって感じ。
でもね。
それでも。
お姉様は、やっぱりお姉様なんだよ。
「綺麗ね」
花を見てそう言って。
「楽しいわ」
お茶を飲んでそう言って。
それが全部、本心で。
嘘じゃなくて。
だから。
なんていうか。
安心する。
――怖いけど。
普通に怖いけど。
でも。
それ以上に。
安心する。
たぶんこれ、黒い子も同じなんだろうなって思う。
あれも、完全に懐いてるし。
いや、懐くとかそういうレベルじゃないけど。
あれはもう。
――“そういうもの”。
お姉様がいるから、ああなってる。
それだけ。
だから私の役目は決まってる。
簡単。
すごく簡単で。
すごく難しい。
――お姉様を、普通にさせること。
これだけ。
強くさせないとかじゃない。
抑えるとかでもない。
ただ。
“普通でいられるようにする”。
それだけ。
で、それが一番難しい。
ちょっとでもズレると。
すぐ何か起きるし。
下手すると空が変わるし。
最悪、黒い子来るし。
ほんとやめてほしい。
――でも。
「エリシア」
名前を呼ばれる。
「なに?」
「ありがとう」
笑って言われる。
理由は分からない。
多分、なんとなく。
でも。
それで十分。
「どういたしまして」
そう返す。
それでいい。
それがいい。
たぶん。
これからもずっと、こんな感じなんだと思う。
お姉様は変わらない。
世界が変わる。
私は、その間にいる。
調整役。
緩衝材。
ストッパー。
まあ、なんでもいい。
ただ一つだけ、はっきりしてるのは。
――私は、お姉様が好きだ。
それだけ。
それだけで、全部やってる。
それでいいと思ってる。
多分、これからもずっと。




