第27話 再び呼ばれただけなのに、なぜか王都全体が「答え」を待つ空気になりました
王城からの使者が来たのは、昼過ぎだった。
「王太子殿下より、再度のご招待にございます」
静かな一言。
だが、その場にいた全員が意味を理解した。
「……来たね」
エリシアが小さく呟く。
レオニードは何も言わない。
ただ一つだけ確信していた。
――これは確認ではない。
――“選択を迫る場”だ。
「行くわ」
リリアーナは迷わなかった。
「理由は?」
エリシアが聞く。
「呼ばれたから」
それだけだった。
その一言に、レオニードは目を閉じる。
――変わらない。
だからこそ危険で。
だからこそ最適。
「準備する」
短く言う。
――王城。
前回と同じ部屋。
だが空気は違う。
重い。
静かで、逃げ場がない。
王太子が座っていた。
前回と同じ姿勢。
だが視線が違う。
「来てくれたか」
「ええ」
リリアーナは自然に一礼する。
座る。
沈黙。
そして。
「単刀直入に言う」
王太子が口を開く。
「お前は何だ」
完全な核心。
リリアーナは瞬きをした。
「……何、とは?」
「影響だ」
「現象だ」
「記録が消える」
「存在が消える」
一つずつ言葉を並べる。
「それを“していない”と言いながら、結果だけが出ている」
視線が鋭くなる。
「それは何だ」
沈黙。
リリアーナは、少しだけ考えた。
「……分からないわ」
正直な答え。
王太子は頷いた。
「だろうな」
否定しない。
むしろ確信している。
「では次だ」
一拍。
「黒竜について」
空気が変わる。
エリシアの呼吸が止まる。
レオニードの視線が鋭くなる。
「……どうして知っているの?」
リリアーナが聞く。
「観測した」
短い答え。
「王都上空で“止まった”」
一瞬の沈黙。
完全に把握している。
「……」
リリアーナは少し考えた。
「来ようとしたのね」
まるで、普通のことのように言う。
王太子の思考が一瞬止まる。
――前提が違う。
だが、そこを追っても意味はない。
「確認する」
声を低くする。
「呼べるのか」
核心。
レオニードが一歩前に出かける。
だが止まる。
――止めても無意味。
リリアーナは首を傾げた。
「呼ぶ?」
「黒竜だ」
「いいえ」
即答。
「呼んだことはないわ」
それは事実。
だが。
「だが来る」
「ええ」
あっさり認める。
沈黙。
王太子はゆっくりと息を吐いた。
「……そうか」
理解した。
完全に。
「制御不能」
小さく呟く。
その時。
リリアーナが、ふと窓の外を見る。
「……」
一瞬。
本当に一瞬。
感情が揺れた。
「どうした」
レオニードが即座に反応する。
「いえ」
リリアーナは首を振る。
「少し……ざわざわする感じが」
その言葉。
その“感覚”。
エリシアの顔色が変わる。
「……まずい」
王太子も立ち上がる。
「何が起きる」
レオニードが短く言う。
「分からない」
それが一番まずい。
次の瞬間。
空が、暗くなった。
窓の外。
王都全体に、影が落ちる。
「……」
誰も動けない。
理解しているから。
これは。
――“止められない現象”。
「……来る」
エリシアが呟く。
王太子の顔から血の気が引く。
「……ここで、か」
王城。
王都の中心。
そこに。
黒竜が。
「リリアーナ」
レオニードが言う。
短く。
強く。
「今、何を感じている」
リリアーナは、少しだけ迷った。
「……少し、落ち着かない」
それだけ。
だが十分だった。
空がさらに暗くなる。
圧が降りてくる。
「止めろ」
レオニード。
「お願い」
エリシア。
王太子は何も言えない。
ただ見ている。
――答えを。
リリアーナは、窓の外を見た。
そして。
小さく息を吐いた。
「……来なくていいわ」
静かな一言。
その瞬間。
すべてが止まった。
影が揺れ、
空が戻り、
光が差す。
何もなかったかのように。
沈黙。
長い沈黙。
そして。
王太子が、ゆっくりと口を開く。
「……理解した」
低い声。
「これは力ではない」
一拍。
「“世界の仕様”だ」
その言葉に。
レオニードは何も言わなかった。
否定できない。
エリシアも同じ。
そして。
リリアーナだけが、いつも通りだった。
「何の話?」
王太子は、その言葉を聞いて確信する。
――この存在は。
――理解される側ではない。
そして。
「提案がある」
静かに言った。
空気が変わる。
次の段階。
――選択の時間が、始まる。




