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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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第26話 家族で話し合っただけなのに、なぜか国家レベルの対策会議になりました

 アルヴェイン公爵邸、会議室。


 重厚な扉が閉じられ、外界との音が完全に遮断される。


 室内にいるのは三人。


 レオニード。

 エリシア。

 そして――


 アルヴェイン公爵。


 父である。


「全員、揃ったな」


 低く、落ち着いた声。


 威圧ではない。

 だが、空気が締まる。


「はい」


 レオニードが応じる。


 エリシアも、無言で頷いた。


 机の上には、何もない。


 書類も。

 資料も。


 ――存在しないからだ。


「状況は把握している」


 公爵が言う。


 それだけで十分だった。


 説明は不要。


 前提は共有されている。


「結論から入る」


 一拍。


「これは“管理対象”ではない」


 沈黙。


 だが否定は出ない。


 レオニードが続ける。


「同意します」


「現象です」


 短く断言。


 エリシアも補足する。


「しかも“感情トリガー型”」


「うん」


 公爵は静かに頷いた。


「制御は不可能」


「はい」


「干渉も困難」


「はい」


「……」


 全員が同じ認識に立っている。


 だからこそ、話が早い。


「ではどうするか」


 公爵が言う。


 核心。


「被害を出さない」


 レオニードが即答する。


「発生前に抑止」


「環境制御」


「感情安定」


 エリシアが続ける。


「……本人には気づかせない」


 これが最重要だった。


「理由は」


 公爵が確認する。


「認知した瞬間、制御可能になる可能性」


「同時に、制御不能になる可能性」


 レオニード。


「どっちに転ぶか分からない」


 エリシア。


「……ならば」


 公爵が結論を出す。


「現状維持」


 三人の認識が一致する。


 その上で。


「体制を変える」


 次の段階へ進む。


 レオニードが言う。


「私は王都に残ります」


「当然だ」


 公爵が即答する。


「現場判断が必要」


「はい」


「常時監視ではない」


「観測と調整です」


「よろしい」


 次に、エリシア。


「私は留学を中断する」


 静かな声だった。


「理由は」


「感情安定要員」


 一拍。


「お姉様の“人間側”を維持する役割」


 公爵はわずかに目を細めた。


「……適任だな」


「でしょ」


 軽く笑う。


 だがその目は真剣だ。


 そして。


「私も王都に入る」


 公爵が言った。


 空気が変わる。


 エリシアが驚く。


「父上も?」


「ああ」


「領地は?」


「副官に任せる」


 迷いはない。


「これは“領地問題”ではない」


 一拍。


「“王国問題”だ」


 完全に定義が変わった。


 レオニードが確認する。


「王家への説明は」


「最小限」


 即答。


「情報は制限する」


「はい」


「だが」


 公爵は少しだけ考えた。


「完全に隠す必要はない」


「……誘導ですか」


「そうだ」


 レオニードが理解する。


「過剰評価を維持する」


「うん」


 エリシアも頷く。


「下手に正確な情報出すと危ない」


「その通り」


 公爵は静かに言う。


「“分からないから怖い”状態を維持する」


 それが最適。


 不用意な接近を防ぐ。


 敵対を抑止する。


 そして。


「最優先事項を確認する」


 空気がさらに締まる。


 三人の視線が交わる。


 答えは分かっている。


「リリアーナの安全」


 同時に出た。


 完全一致。


「そのためなら」


 レオニードが言う。


「王都の機能停止も容認」


「同意」


 エリシア。


「必要なら」


 公爵が続ける。


「王家との対立も辞さない」


 沈黙。


 だが異論はない。


 それが、この家の結論だった。


 ――守る。


 ただそれだけ。


「では、役割を確定する」


 公爵が言う。


「レオニード」


「はい」


「王都常駐。観測と即応」


「了解」


「エリシア」


「うん」


「感情安定。接触管理」


「任せて」


「私」


 一拍。


「最終判断」


 全体統括。


 責任は一つに集約される。


 レオニードが静かに言う。


「……最適です」


「うん」


 エリシアも同意する。


 そして。


「最後に」


 公爵が言った。


「これは“対策”ではない」


 視線が二人に向く。


「“付き合い方”だ」


 核心だった。


 制御するのではない。


 排除するのでもない。


 共存する。


「理解したか」


「はい」


「うん」


 短い返答。


 だが十分。


 公爵は立ち上がる。


「では動く」


 それだけで、会議は終わった。


 だが。


 その内容は。


 すでに一国家の運命を左右するものになっていた。


 そして当の本人は。


「今日はいい天気ね」


 庭で、いつも通りに笑っていた。

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