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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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第17話 軽く手合わせしただけなのに、なぜか戦力評価が全面的に更新されました

 王城から戻って数日。


 アルヴェイン公爵邸の空気は、一見落ち着いていた。


 だが実際には、静かに“観測”が続いている。


 レオニードは日々の報告を整理し、

 エリシアは人の反応を見て、

 そしてリリアーナは――


「今日はいい天気ね」


 庭で、いつも通りだった。


 その時。


「お嬢様」


 ミアが声をかける。


「レオニード様がお呼びです」


「お兄様が?」


「はい」


「分かったわ」


 リリアーナは立ち上がる。


 そのまま、裏庭の訓練場へと案内された。


 そこには既に、レオニードとエリシアがいた。


「来たか」


「ええ」


 リリアーナは自然に歩み寄る。


「どうしたの?」


 エリシアが苦笑した。


「ちょっと確認」


「確認?」


「うん」


 視線をレオニードへ。


 レオニードは短く言った。


「手合わせだ」


 沈黙。


 リリアーナは少し考えた。


「……久しぶりね」


 それだけだった。


 緊張も、警戒もない。


「全力は不要」


 レオニードが続ける。


「通常動作でいい」


「分かったわ」


 リリアーナは頷いた。


 剣を受け取る。


 軽く握る。


 その動きは、あまりにも自然だった。


 エリシアが横で呟く。


「……やっぱり綺麗」


 構えすらない。


 ただ立っているだけ。


 だが、隙がない。


 レオニードは一歩前に出た。


「始める」


 合図はそれだけ。


 次の瞬間。


 ――終わっていた。


 金属音が一度だけ響く。


 レオニードの剣が、弾かれている。


 その軌道は、最短で、

 最適で、

 そして――


 予測できない。


 気づいた時には、喉元に刃が止まっていた。


 沈黙。


 風の音だけが残る。


 エリシアが、ゆっくりと瞬きをした。


「……え?」


 思わず声が漏れる。


 レオニードは動かなかった。


 いや、動けなかったのではない。


 動く必要がなかった。


 結果は確定している。


「……一本だ」


 静かに言う。


 リリアーナは剣を引いた。


「ごめんなさい」


「謝るな」


 即答。


 そして、ゆっくりと息を吐く。


「確認したかっただけだ」


 その声に、わずかな納得が混じる。


 エリシアが近づく。


「ちょっと待って」


 リリアーナを見る。


「今、何したの?」


「何って……」


 首を傾げる。


「普通に」


「普通じゃない」


 即否定。


「全然普通じゃない」


 レオニードが補足する。


「反応ではない」


「え?」


「“結果が先にある動き”だ」


 リリアーナはきょとんとする。


 意味が分かっていない。


 エリシアが頭を抱える。


「やっぱりそうか……」


 そして剣を取る。


「じゃあ次、私」


「ええ」


 リリアーナは頷く。


 再び向かい合う。


 今度はエリシア。


 構えが違う。


 柔らかく、流れるような動き。


「行くよ」


 次の瞬間。


 数手、やり取りが続いた。


 初めて“戦闘”が成立する。


 だが。


 ――三手目で終わる。


 リリアーナの剣が、自然に入り込む。


 防げない角度。


 避けられない間合い。


 止まる。


 喉元。


「……うそでしょ」


 エリシアが呟く。


 呼吸が乱れている。


 だがリリアーナは、ほとんど動いていない。


「……何これ」


 剣を下ろす。


 完全に理解不能だった。


 レオニードが静かに言う。


「戦闘ではない」


「うん」


「“最適化”だ」


 それが最も近い表現だった。


 無駄がない。


 意図がない。


 だが結果だけがある。


 エリシアがリリアーナを見る。


「お姉様」


「なに?」


「それ、自覚ある?」


「何のこと?」


 即答。


 エリシアは笑った。


「……だよね」


 レオニードは結論を出す。


「評価を更新する」


 短く言う。


「戦力としては――」


 一拍。


「測定不能」


 沈黙。


 それは、完全な“枠外”宣言だった。


 エリシアが苦笑する。


「まあ、そうなるよね」


 そしてリリアーナは。


「……そんなに強くないわよ?」


 本気でそう言った。


 その一言に、二人は同時に思った。


 ――やっぱりダメだ、これ。


 理解の次元が違う。


 だが同時に。


 だからこそ成立している。


「……方針は変わらない」


 レオニードが言う。


「観測と調整」


「了解」


 エリシアが頷く。


 リリアーナは少し安心したように微笑んだ。


「それならよかった」


 本当に、それだけだった。


 その頃。


 王都の一角。


 騎士団の訓練場で、一人の騎士が呟いていた。


「……聞いたか?」


「ああ」


「公爵令嬢」


「らしいな」


 短いやり取り。


 だが、その意味は重い。


 ――一騎当千。


 そんな言葉が、静かに広まり始めていた。


 もちろん。


 本人だけは、何も知らない。


「少し疲れたわ」


 リリアーナはそう言って、庭へ戻っていった。


 ただそれだけの一日。


 だが世界は、また一段階――


 評価を更新していた。

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