第14話 王城に行くだけなのに、なぜか全員が準戦時体制みたいになりました
王城からの正式な日程が届いたのは、その翌日だった。
面会は三日後。
時間、動線、随行人数まで細かく指定されている。
「……徹底しているな」
書状を読み終えたレオニードが呟く。
「警備の都合かと」
側近が答える。
「それだけではない」
レオニードは即座に否定した。
これは単なる儀礼ではない。
――観察条件の固定。
相手がどのように動くか、どの範囲で影響が出るか。
それを“正確に測る”ための配置だ。
「こちらも合わせる」
「は」
「護衛は増員」
「どの程度まで」
「近距離六、遠距離四」
「……通常の倍です」
「問題ない」
即断だった。
これは過剰ではない。
“現象”に対する最低限の備えだ。
その頃、別室では。
「王城に行くのね」
エリシアが静かに言う。
「ええ」
リリアーナはいつも通り頷いた。
「久しぶりだわ」
「……緊張しない?」
「どうして?」
「いや普通はするでしょ」
エリシアは思わず言った。
相手は王太子。
しかも婚約破棄済み。
状況としてはかなり複雑だ。
だが。
「お話をするだけでしょう?」
リリアーナは首を傾げる。
その通りではある。
だが“それだけではない”のも確実だ。
「……うん、まあ」
エリシアはため息をついた。
この人にとっては、本当にそれだけなのだろう。
「でも一応ね」
少し真面目な声になる。
「何を聞かれても、変に答えなくていいから」
「変に?」
「そう」
「例えば?」
「……」
エリシアは言葉に詰まった。
具体例を出そうとすると、全部当てはまる気がする。
「とにかく“そのまま”でいい」
結局そこに落ち着いた。
「分かったわ」
リリアーナは素直に頷く。
その様子を見て、エリシアは思った。
――多分これが一番安全。
変に構えさせる方が危ない。
一方その頃。
王城、内政局の一室。
「状況は」
低い声が響く。
王太子が机に向かっていた。
側近が報告書を差し出す。
「アルヴェイン公爵令嬢、本日までの行動に変化なし」
「影響は」
「継続しています」
短い返答。
だが意味は重い。
「……直接的な指示は?」
「確認されておりません」
「誘導は」
「不明」
王太子は沈黙した。
情報は揃っている。
だが、核心だけが欠けている。
「意図が読めない」
それが結論だった。
普通なら、ここまで影響が出れば“何かしている”。
だが、記録上は“何もしていない”。
矛盾している。
だからこそ――
「直接見る」
王太子は顔を上げた。
決断は早い。
不確定要素は、観察するのが最も確実だ。
「当日の配置は」
「指定通りに」
「変更はなし」
「は」
すべて計画通り。
だが内心では、確信していた。
これは単なる再会ではない。
“確認”だ。
――そして当日。
王都の朝は静かだった。
だがアルヴェイン公爵邸の内部は、明らかに違った。
「最終確認」
レオニードの声。
「護衛配置、問題なし」
「動線確保済み」
「緊急時の退避経路も確保」
次々と報告が上がる。
完全に作戦前の状態だった。
一方で。
「このドレスでいいかしら」
リリアーナは、鏡の前で首を傾げていた。
白を基調にしたシンプルな装い。
華美すぎず、だが品はある。
「問題ございません」
ミアが答える。
「そう」
それで終わりだった。
緊張も、気負いもない。
ただ“会いに行く”準備。
それだけ。
「行きましょう」
リリアーナが言う。
その一言で、全体が動き出す。
護衛が配置につき、馬車が用意される。
エリシアが横に並ぶ。
「本当に大丈夫?」
「ええ」
「何があっても?」
「何もないわ」
あっさりと言う。
その言葉に、エリシアは苦笑した。
「……それが一番怖いんだけどね」
馬車が動き出す。
王城へ向かう。
街の中を進むにつれ、視線が集まる。
「あれが……」
「公爵令嬢」
「今日、王城に行くって」
ざわめきが広がる。
情報はすでに出回っている。
誰もが意味を探している。
そして。
王城の門が見えた。
重厚な石造り。
動かぬ権威の象徴。
だが。
「大きいわね」
リリアーナは、ただそう言った。
その一言に、エリシアは小さく吹き出しそうになる。
「そこ?」
「だって大きいでしょう?」
「……うん、まあ」
緊張感が一瞬だけ緩む。
だが。
門をくぐった瞬間。
空気が変わった。
静かで。
重くて。
張り詰めている。
完全に“場”が違う。
迎えの騎士が一礼する。
「お待ちしておりました」
「ええ」
リリアーナは頷いた。
足を進める。
一歩一歩、王城の奥へ。
その動きに合わせて、周囲の視線が動く。
誰もが見ている。
誰もが測っている。
だが。
「綺麗なお花はあるかしら」
リリアーナは、小さくそう呟いた。
その言葉に、エリシアは思った。
――やっぱり変わらない。
そして同時に、確信した。
――だからこそ、ここまで来たんだ。
王城の奥。
扉の前で、足が止まる。
騎士が告げる。
「王太子殿下がお待ちです」
一瞬の静寂。
そして。
「ええ」
リリアーナは、いつも通りに頷いた。
そのまま、扉が開く。
――再会の時。
だがそれは。
ただの再会では終わらない。




