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婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


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第13話 何もしていないはずなのに、なぜか王家からお呼びがかかりました

 三人での話し合いが終わった翌日。


 アルヴェイン公爵邸の朝は、見かけ上はいつも通りだった。


 だが、内部では明確に“方針”が変わっている。


「本日の予定を」


 レオニードの声。


「午前は屋敷内、午後に軽い外出予定が一件」


 側近が即答する。


「接触対象は」


「特定なし。ただし花屋通り方面」


「護衛配置は維持」


「は」


 やり取りは簡潔。


 だがその内容は、“行動の制御”ではなく“影響の管理”へと変わっていた。


 昨日の結論が、そのまま反映されている。


 ――制御不能なら、周囲で整える。


 一方その頃。


「今日はどこへ行こうかしら」


 リリアーナは、窓辺で考えていた。


 隣にはエリシアがいる。


「まだ行くの?」


「ええ」


「昨日あんな話したのに?」


「だからよ」


 リリアーナは微笑んだ。


「変に気にして動かない方が、おかしいでしょう?」


 エリシアは一瞬だけ言葉に詰まった。


 それは確かに正しい。


 だが。


「普通は逆なんだよ……」


 小さく呟く。


 普通は、何か問題があると分かれば慎重になる。


 だがこの姉は違う。


 “問題があるから変える”のではなく、

 “問題があっても変えない”。


 それが、結果的に一番安定する。


「……やっぱり変」


「そうかしら?」


「うん」


 エリシアは苦笑した。


 その時。


「旦那様」


 家令が静かに入室する。


 表情は変わらない。


 だが、ほんのわずかに空気が締まる。


「どうしたの?」


 リリアーナが振り向く。


「王城より使者が参っております」


 沈黙。


 ほんの一瞬。


「……王城?」


 リリアーナが聞き返す。


「はい」


「どうして?」


 自然な疑問だった。


 エリシアは横でゆっくりと息を吐いた。


「来たね」


「何が?」


「次の段階」


 小さく言う。


 そしてレオニードも、同じ報告を別室で受けていた。


「内容は」


「王太子殿下よりのご招待」


 側近が答える。


「……予想通りだな」


 レオニードは短く言った。


 遅いくらいだ。


 市場。

 騎士団。

 ギルド。


 ここまで動けば、王家が無視するはずがない。


 そして。


「名目は」


「“近況の確認”と」


「……建前だな」


 即断。


 本質は別にある。


 ――観察。

 ――評価。

 ――場合によっては再接触。


「受ける」


「は」


 迷いはない。


 拒否は選択肢にない。


 拒否すれば、それ自体が意味を持つ。


 ならば。


「こちらから行く」


 正面から受ける。


 それが最適解。


 ――数分後。


 応接室。


 王城からの使者が、静かに頭を下げていた。


「アルヴェイン公爵令嬢様におかれましては、近日中に王城へお越しいただきたく――」


 形式ばった言葉。


 だが内容は単純だ。


 来い。


 それだけ。


「分かったわ」


 リリアーナはあっさり頷いた。


 エリシアが横で目を丸くする。


「え、行くの?」


「ええ」


「即答?」


「だって、断る理由がないもの」


 それはその通りだった。


 だが普通はもう少し考える。


 しかし。


「……まあ、そうだね」


 エリシアは納得した。


 この姉はそういう人だ。


「準備はこちらで整えます」


 家令が言う。


「お願いするわ」


 リリアーナは微笑んだ。


 その様子を見て、使者はほんのわずかに目を細める。


 噂は聞いている。


 だが実際に見ると印象が違う。


 もっと張り詰めた人物かと思っていた。


 だが目の前にいるのは――


 ただ穏やかな令嬢。


 それが、逆に不気味だった。


 ――本当にそれだけなのか?


 疑問が残る。


 だがそれを口にすることはない。


「では、日程は後ほど正式に」


「ええ」


 短いやり取り。


 使者は礼をして退出した。


 扉が閉まる。


 静寂。


 そして。


「……どう思う?」


 エリシアが聞く。


 リリアーナは少し考えた。


「お話をするだけでしょう?」


「それだけだと思う?」


「違うの?」


 首を傾げる。


 エリシアは苦笑する。


「うん、違うと思う」


「どうして?」


「皆が“意味を探してる”から」


 昨日の話の延長だ。


 リリアーナが何かをすれば、必ず意味が付く。


 ならば。


「王太子は“意味を確認しに来る”」


 それが自然な流れ。


「……そうなのね」


 リリアーナは静かに頷いた。


 だが表情は変わらない。


「でも、私は変わらないわ」


 それだけだった。


 一方。


 廊下ではレオニードが歩いていた。


 足取りは一定。


 だが思考は高速で動いている。


「王太子が動いた」


 状況は次の段階へ移行した。


 ここから先は。


 “家の問題”ではない。


 “王国の問題”になる。


「……対応を誤るな」


 小さく呟く。


 だが同時に、もう一つの結論も出ていた。


「変える必要はない」


 昨日決めた通りだ。


 本人はそのまま。


 周囲で調整する。


 それが最適。


 ――夕方。


 庭。


 リリアーナは、いつものように花を見ていた。


「王城、楽しみね」


 ぽつりと呟く。


 エリシアが横で固まる。


「……楽しみなの?」


「ええ」


「なんで?」


「久しぶりに会う人もいるでしょう?」


 それが理由だった。


 政治でも。

 緊張でも。

 駆け引きでもない。


 ただ“人に会う”。


 それだけ。


「……そっか」


 エリシアは小さく笑った。


 やっぱり、この人は変わらない。


 そして。


 その“変わらなさ”が、どれだけ大きな波を生むのか――


 王城は、まだ知らない。

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