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別荘

 読んで戴けたら、倖せです。

 (おう)と初めて逢った公園の東家に行くと央は待っていて、聖流(さとる)の姿を認めると走って聖流に抱き付いた。


 央は聖流の胸に顔をうずめて言った。


「来てくれたんだ

 凄く嬉しい」


 東家から男がのそりと姿を現した。


「彼は? 」


 央は聖流に抱き付いたまま振り返り言った。


「ボクの元彼

 桐生(きりゅう)って言うんだ」


「初めまして聖流さん

 聖流さんの噂はかねがね央から聞いています」


 痩せこけた、いかにも神経質そうな顔をした桐生はその三白眼で聖流を見詰めた。


 三人は車でW市にある央の別荘へと向かった。


 小さな庭園を抜けるとそれほど大きくない洋館が建っていた。


 車を止めると中へ入った。


 仕事柄エントランスの装飾を見ただけで、央が相当な資産家の御曹子なのが解った。


 央は聖流を振り返ると言った。


「自分の家だと思って自由に寛いで」


 央は食堂の扉を開くと言った。


「お腹空いてない?

 ボク、もうお腹ペコペコ」


 豪華な料理の数々が大きなテーブルを彩っている。


 央は無作法に料理に次々手を伸ばして、まるでファーストフードでも食べるように立ったまま食べ始めた。


 聖流はため息を吐くと言った。


「央、バーは何処だ」


 央はフォークで食堂の奥の扉を差した。


 聖流はバーに行くとカウンターでグラスに冷凍庫の氷の塊をアイスピックで崩して入れ、年代物のウィスキーを注いだ。


 部屋の中央のソファーに座るとテーブルにグラスを置き、取り敢えずタバコに火を点けた。


 テーブルにも酒のつまみになりそうなオードブルが置いてある。


 桐生が入って来て冷蔵庫から瓶のビールを取り出すと聖流の前に座った。


 桐生は言った。


「あなたのお陰で、僕は央に捨てられました」


 聖流は、それがどうした、と言う顔で桐生を見た。


「央は自由奔放だけど優しいんです

 僕が売れない絵を描いているのを知ると、僕のアパートに住まわせる代わりに僕を養ってくれた

 僕を好きな訳でもないのに恋人と呼んでくれて、優しく接してくれたんです

 


 勿論、僕は央を愛しています

 だから、央が初めて心から恋をしたから別れて欲しいと告白されて、僕は嫌だったけど承諾したんです」


 桐生はそこまで言うとビールをあおった。


「そのご託はまだ続くのか?

 オレにはどうでもいい事だ」


 桐生は驚いたように聖流を見詰めると俯いた。


「そうですね、ただ.........」


 央が来ると桐生は黙った。


 央はグラスに水割りとコークハイを作ると水割りを聖流に渡した。


 聖流の隣に座ると聖流に寄りかかった。


「ふう、お腹いっぱい」


 桐生は部屋を出て行った。


「本当に嬉しいよ

 来てくれるなんて思ってなかったから

 どうして来てくれたの? 」


「理由なんて無い」


 聖流がタバコの灰を落とすのに前屈みになると、聖流に凭れていた央はそのままひっくり返った。


 央は足をバタバタさせて言った。


「聖流ぅ、起こして

 ひっくり返った」


 聖流はため息を吐くと身体をずらせて央の背中を押した。


 起き上がった央は聖流を振り返り、礼を言う代わりに微笑んだ。


 そして一気にコークハイを飲み干した。


「餓鬼の癖に酒の飲みっぷりが良すぎる」


 聖流は水割りを飲み干してテーブルにグラスを置いた。


 央は聖流の吸っていたタバコを取り上げて吸った。


「もう一杯飲むなら作るよ」


「最初で最後と言っていたが、どう云う意味だ」


「あれ、気にしてくれてたんだ

 嬉しい」


 央は無邪気な笑顔を聖流に向けるとタバコをもみ消した。


 カウンターに行き水割りを作りながら言った。


「そう言えばね、夕べ不思議な夢みたんだ

 海に居るんだけど、見た事も無い子供とボクぐらいの歳の、聖流に似た男の子と一緒なんだ

 楽しそうに何か話すんだけど、何言ってるか解らなくて、突然水の中に居て男の子の腕掴んで泳いでるんだ

 凄く必死になって泳いだ


 急に病院のベッドに座ってて泣いてるんだ

 そしたら聖流に似た男の子が急にキスして来て駆けて行った

 夕方だったのかな、部屋中がキレイな朱色に染まってて、ボクは思うんだ

 ありがとう、大事にするよって

 そこで目が覚めた」


 聖流は目を見開き、央を見詰めた。


「どうしたの?

 そんな怖い顔して」


 央は水割りを聖流に渡した。


 聖流は受け取った水割りを飲んだ。


 央は聖流の隣に座った。


「最近、その男の子の夢をよく見るよ

 どんな夢か殆ど忘れちゃうんだけど、その男の子のことだけは憶えてる

 聖流に似てるからかな

 でもどうせなら、聖流に似てる子より聖流の夢が見たいな」


 央は笑った。


 聖流は央を見た。


 央は聖流の腕を抱き締めて何かを話している。


 聖流の視線に気付くと聖流を見て微笑んだ。

 

 急に眠気が差して来た。


 央の笑顔がぼやけ、それは次第に強くなり、引き摺り込まれる様に聖流は眠りに堕ちて行った。







 読んで戴き有り難うございます。

 次回で最終回です。

 長い間、お付き合い戴いて有り難うございます。

 最後までお付き合い戴けたら、倖せです。


 

 今、お付き合いして戴いてる小説仲間様が続々と連載されています。

 姐御こと、水渕成分様は「少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと」。

 以前から連載されているロスハイムシリーズの第四章を夜9時にアップされてます。


 taka様は「夜に探すしか」と「雑学白夜 きみとシカト」のふた作品連載されているのですが、「夜に探すしか」は「雑学白夜 きみとシカト」の作中作品で、「雑学白夜 きみとシカト」の主人公が経験することが「夜に探すしか」に反映されていて、凄く凝った構成になっている作品です。

 過去の自殺する猿ターシャの主人公なども登場していて、とても面白い作りになっています。


 ぷーちゃろ様も二作品連載されていて、二つともハイファンタジーなのですが、両方とも、手抜きを許さない綿密な文章でリアリティーが凄いです。

「ドラゴン娘の世界旅 ~拾われた少女は旅をする~」

「隻腕の魔法剣士」


 どの作品もとても面白いです。

 気になった方、そうでない方も是非是非読んで戴けたら、嬉しいです。




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― 新着の感想 ―
[一言] 生まれ変わり・・・・・・でしょうか? 拙作のご紹介ありがとうございます。
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