面影
読んで戴けましたら、倖せでございます。
みんなの努力のかいあってライヴ当日、この街で一軒しかないライヴハウス、ニキータにはバートリーを見ようと百人ほどのお客が集まっていた。
控え室では美容室に勤めていた経験がある聖詞がメンバーのヘアメイクを担当していた。
演奏が始まるとフロアは沸いた。
聖流はいつもの癖で出入口を見た。
そして演奏する手が止まったのが解らないほど驚いた。
出入口の柱の陰に寄り添い、貴都李があの羨望の眼差しで聖流を見詰めていたのだ。
聖詞が聖流の演奏が止まっているのに気付いて、ワザと不協和音を出した。
耳障りな音で聖流は我に返りキーボードを弾き始めた。
聖流は改めて出入口を見た。
そこには柱に背中を凭れさせ、こちらを見て央が立っていた。
央は聖流と目が合うとピースサインを振ってウィンクした。
ライヴが後半に差し掛かると央の姿は消え、代わりに高校生くらいのモッズコートを着た少年がキャリーバッグを引き摺って入って来た。
少年はバーテンダーと我鳴り合いながら会話していた。
曲が終わると聖詞がギターを置いてフロアに降り、少年の処へ行った。
聖詞はライヴの途中で必ず、こういう行動に出てメンバーの顰蹙をかっていた。
関係者の間では、聖詞は男女関係無くベッドに誘うセックスマニアと噂されている。
だが聖詞は沙夜子の事があって以来、男としての機能を失っていたのだ。
聖詞が何か怒らせるような事を言ったのだろう、聖詞を殴ろうとして、片手で聖詞に阻止された少年の顔が、聖流には何処か聖詞の母、美菜子に面差しが似ている気がした。
聖詞は少年に待ち合い場所でも言ったのだろう、耳打ちしてステージに戻って来た。
孤独への怯えと恐れが、聖詞にこんな行動を起こさせ、セックスマニアなどと言う誤解を招いていた。
この頃には、眠る事も食べる事にも希薄な聖詞は疲労が募り、罪の意識は聖詞の精神と肉体を確実に蝕んでいた。
読んで戴き、有り難うございます。
このシーンはラプンツェルの接吻本編をよく読んでいる方は、ははーんと思ったんじゃないかなあ、と思います。
モッズコートの少年は勿論、瑞基なのですが、聖流は瑞基に聖詞の実母、美菜子の面影を見ているんですよね。
隆一朗は本編で何度か瑞基を一目みただけで特別に感じたり、懐かしさを感じたりする事に触れるシーンがあるのですが、女顔の瑞基が母親に似ていて、聖詞は瑞基に、無意識に母の面影を見ていた、と云う事だったんです。
運命と言えば運命だったのでしょうかね。
そんな事を感じて戴けたら、嬉しいです。




