【第67話】商業都市サザンクロスと陽光のバカンス
いつも本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
前回は砂海を牛耳る巨獣のデバッグと、見下し護衛たちの情けない土下座ざまぁでした。たくさんの評価や感想をいただき、本当に励みになっております!
過酷な赤砂漠を越えた一行は、ついに目的の地――南の巨大港湾都市『サザンクロス』へ到着!
今回は、張り詰めた空気を一度リフレッシュする、開放感たっぷりの南国バカンス回です。
美味しい海鮮屋台の食べ歩きに、明日の夜宴に向けた高級ブティックでの衣装選び。
キャシーの赤面水着アピールと、シエラの大真面目すぎる「水中戦闘特化水着(?)」が炸裂します!
ヒロインたちの賑やかな掛け合いを、どうぞお楽しみください!
それでは、どうぞ!
赤砂漠を抜けた大型魔導馬車は、白亜の巨大なアーチ状水門をくぐり抜けた。
視界が一気に開けた瞬間、目の前に広がった光景に、車内の全員が思わず息を呑んだ。
どこまでも突き抜けるような抜けるような青空。
太陽の光を浴びてキラキラとエメラルドグリーンから深いコバルトブルーへとグラデーションを描く広大な海原。
そして、海岸線に沿って整然と並ぶ白壁と赤レンガの瀟洒な建築群、頭上を優雅に舞う白い海鳥たちの鳴き声――。
「うわぁぁぁぁぁっ! 海だぁーーっ! すっごい、本当に一面海だよ!」
馬車が中央大通りへ入って停止するなり、キャシーが扉を蹴破るような勢いで飛び出した。
石畳の上に着地すると、ヒョウの耳と長い尻尾をこれでもかとブンブン振り回し、胸いっぱいに潮風を吸い込んでいる。
「グランデールとは全然空気が違う! あったかいし、美味しそうな魚の匂いがぷんぷんするよ!」
「ふふ、元気なことね」
馬車から優雅に降り立ったメリッサが、日傘を広げて眩しそうに目を細めた。
「魔導商都グランデールが大陸の『頭脳』なら、ここ商業都市サザンクロスは世界中の物資と富が集まる『胃袋』よ。気候も温暖で、一年中バカンスに訪れる貴族や商人たちで溢れかえっているわ」
シエラも静かに大地へ降り立ち、腰の刀の収まりを確かめながら周囲を鋭く見渡した。
「なるほど……。南方の防衛拠点としても機能しているようだが、街を行き交う人々の表情は極めて緩んでいるな。これならば、夫の緊張をほぐすための休息地としても申し分ない」
「シエラ、それ絶対『ユーリの護衛』じゃなくて『新婚旅行の品定め』のテンションでしょ!」
キャシーが即座に突っ込みを入れる。
ユーリは苦笑しながら荷物を背負い、活気あふれる大通りを見渡した。
石畳の左右には、獲れたての巨大な甲殻類や魚を豪快に焼き上げる屋台がずらりと並び、香ばしい煙とスパイシーな調味料の匂いが鼻腔をくすぐる。
「ユーリ、あそこの串焼き、すっごく美味しそう!」
キャシーに袖を引かれ、屋台で買い求めたのは、大人の腕ほどもある巨大な南国海老の香草焼きだった。
パリッと焼き上げられた殻を割ると、中からプリプリの白い身が湯気と共に現れる。
「あーん!」
キャシーが口を大きく開けて待機しているのを見て、ユーリは手元の串を一本手渡した。
「はい、キャシーの分」
「えっ、食べさせてくれないの!? まあいいや、いただきまーす! ……んんん〜〜っ! 甘い! 身が引き締まってて最高!」
幸せそうに頬張るキャシーの横で、メリッサが日傘を傾け、ユーリを見上げてきた。
「長旅で少し疲れたわ。ユーリ、あそこのカフェの冷たい完熟果実パフェ、私におごってちょうだい。もちろん、食べさせてくれてもよろしくてよ?」
「大賢者様が何甘えてるのよ! ユーリ、次はあっちの果汁ジュース行こ!」
賑やかな二人に引っ張られながら、ユーリたちは南国の陽光が降り注ぐサザンクロスの街並みを歩き進めた。
ひとしきり食べ歩きを満喫した後、一行が向かったのは、港を見下ろす高台に位置する最高級ブティック街だった。
明日はいよいよ、依頼主である筆頭評議員ゴードン・バルツァーの邸宅で開催される『仮面夜宴』への潜入である。
表向きは舞踏会の招待客として紛れ込まねばならないため、格式高い夜会服を用意する必要があった。
「いらっしゃいませ! まあ、皆様とても見事な着こなし……! 明晩のバルツァー閣下の夜宴用ドレスをお探しですね?」
豪奢なガラス張りの店内に入ると、洗練された身なりの店員が笑顔で迎えてくれた。
「ええ。最高の仕立てのドレスと、男性用の礼服を頼むわ」
「かしこまりました! あちらには今季最新のビーチ用スイムウェアも取り揃えておりますので、ぜひ旅の思い出にご覧くださいませ!」
その言葉を聞いた瞬間、キャシーの猫目がカッと見開かれた。
「水着……! そうか、サザンクロスといえば海! 任務が終わったら海で泳ぐんだから、今のうちに買っておかないと!」
キャシーは猛然と水着コーナーへダッシュし、目にも留まらぬ速さで数着の衣装を抱えて試着室へ飛び込んだ。
数分後、カーテンが勢いよく開く。
「ジャ、ジャーン……! ユーリ、どうかな……!?」
現れたキャシーは、南国のハイビスカスを思わせる鮮やかな真紅のビキニに、透け感のある薄手のパレオを腰に巻いていた。
褐色の健康的な肌と、引き締まったしなやかな肢体。普段の給仕服とはまるで違う、息を呑むほど魅惑的な姿だった。
キャシーは耳の先まで真っ赤に染め上げ、もじもじと指先を合わせながらユーリの反応を窺う。
「あのね……サザンクロスの海、もし一緒に泳ぐなら……これくらい大胆な方が、その……似合ってるかな、なんて……」
ユーリが言葉を探す間もなく、隣の試着室のカーテンがバァンッ!と爆音を立てて左右に引き裂かれた。
「待たせたな、夫よ」
「……ぶふっ!?」
キャシーが噴き出し、店員が腰を抜かした。
現れたシエラは――布面積が限界まで削ぎ落とされた漆黒の極小ビキニを身に纏い、あろうことかそのビキニの細い腰紐の上に、革製の刀帯をガッチリと締め、愛刀の鞘を腰に佩いていた。
白磁のように滑らかな白銀の肌と、鍛え上げられた完璧なプロポーション。だが、その腰元には無骨な白鞘の長刀が堂々とぶら下がっている。
「シ、シエラ……!? あんた何着てんの!?」
「うむ。南国の水質と水圧、そして海中での抵抗を徹底的に計算した結果だ。夫への水中からの奇襲を即座に迎撃できるよう、極限まで布地を削ぎ落とした『水中戦闘特化型スイムウェア』である。これならば、水深五十メートルでも抜刀速度がコンマ一秒も落ちん」
「何その戦闘用ビキニ!? っていうか布面積少なすぎでしょ! 絶対ユーリに見せたいだけでしょそれ!!」
「何を不埒な。私は妻として、夫の視線と命を同時に守るための極めて論理的かつ機能的な選択をしたまでだ。……どうだ、夫よ。私の戦闘準備は完璧だが?」
シエラが真面目な顔でスッと刀の柄に手をかける。
ユーリは静かにこめかみを押さえた。
「……とりあえず、刀は外そうか。お店の人も困ってるから」
「む……夫の言なら従おう」
大混乱の試着室で、メリッサだけが優雅にソファーに座り、運ばれてきた紅茶を啜りながら「若いっていいわねぇ」と楽しそうに目を細めていた。
ドレスと礼服、そしてなぜか買い込むことになった水着の包みを抱え、一行は港を見下ろすオープンテラスのカフェへと移動した。
冷たい果実水を飲みながら、ようやく一息つく。
だが――ユーリの視線は、テラス席の前の通りを無言で行き交う人々の足元へと向けられていた。
陽気な観光客や商人たちに紛れ、仕立ての良い黒い外套を深く被った数名の男たちが、規則正しい歩幅で通り過ぎていく。
足音は極めて静かで、重心が一切ブレない。
すれ違う瞬間、風にめくれた外套の襟元から、金属製の小さな階級章の跡が微かに覗いていた。
「……気づいた?」
メリッサが果実水のグラスを置き、声を潜めた。
「バイマンが言っていた噂、どうやらただの戯言ではなさそうね。あの身のこなし……ただの商人や護衛の手練れじゃないわ。帝都の正規軍、それも隠密工作を専門とする特殊部隊クラスの練度よ」
シエラもアイスティーのグラスを持ったまま、鋭い眼光で男たちの背中を追う。
「ああ。歩法を見れば一目でわかる。帝都近衛魔導騎士団、あるいは軍直属の暗殺部隊の系統だ。なぜこれほどの手練れが、何食わぬ顔でこの商業都市に潜伏しているのか……」
ユーリは上着のポケットに手を入れ、冷え切ったマギストーンの感触を確かめた。
相変わらず、表面の光は消えたままで、リタからの応答はない。
(リタも……この帝都の不穏な動きを察知して、この街に潜入したのか……?)
砂漠で遭遇した『砂海鋼殻竜』の眉間に打ち込まれていた、異常なマナの不純物。
そして、この街に集結しつつある帝都の影と、消息を絶った魔族の最高幹部。
南国の明るい日差しの裏で、巨大で冷酷な悪意の網が確実に張り巡らされていることを、ユーリの直感が告げていた。
夕暮れ時。
サザンクロスの海が黄金色に染まる頃、一行は予約していた海沿いの高級ホテルへとチェックインした。
最上階の広々としたスイートルームのテーブルの上には、チェックイン時にフロントから手渡された一通の豪華な木箱が置かれていた。
箱を開けると、中には金糸で刺繍が施された美しい銀細工の仮面が四つ。
そして、サザンクロス筆頭評議員ゴードン・バルツァーの直筆による、豪奢な金文字の招待状が添えられていた。
『――遠路はるばるサザンクロスへお越しいただき、心より歓迎いたします。
我がバルツァー商会が総力を挙げて完成させた奇跡の技術――『ソラリスコア』の真価を、明晩の宴にてお見せいたしましょう。
皆様の素晴らしい知恵と武勇が、我が街の未来を照らす光となることを期待しております』
「……いよいよ明日ね」
メリッサが銀の仮面を指先で持ち上げ、窓の外の夜の海を見つめた。
「相手は街の最高権力者。何が起きても冷静に対処できるように、今夜はしっかり体を休めなさい」
「うん。油断はしないよ」
ユーリは静かに頷き、自らの銀の仮面を手に取った。
窓の外、夜の帳が下りたサザンクロス沖の海原には、漆黒の闇に紛れるように、巨大な船影が微かに揺らめいていた。
南風が運んでくるのは、甘いバカンスの香りか、それとも血と硝煙の予兆か。
明晩八時――巨悪の謀略が渦巻く『バルツァー邸の仮面夜宴』の幕が、静かに上がろうとしていた。
第67話をお読みいただき、ありがとうございました!
南の海を満喫するバカンス回でした!
照れまくりながら可愛いビキニを見せるキャシーと、布面積を削ぎ落とした極小ビキニの上にガッツリ刀を佩いてくるシエラ……相変わらずこの二人の温度差が最高ですね(笑)。
しかし、華やかな街並みの裏では、帝都の特殊部隊らしき不穏な影と、届いた大商人ゴードンからの招待状。
次回はいよいよ、巨悪の企みが渦巻く**『バルツァー邸の仮面夜宴』**へ潜入します!
ドレスアップしたヒロインたちとのダンス、そして突如響き渡る爆音と血煙……!?
物語はここから一気に怒涛のサスペンスへと加速します!
【読者の皆様へのお願い】
「キャシーの水着姿が可愛い!」
「シエラの戦闘用ビキニに笑った」
「次回の夜宴潜入も気になる!」
など、少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回は明日18時40分頃更新します。
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