【第66話】砂海のオアシスと傲慢な護衛たち
いつも本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
旅の3日目となる今回は――灼熱の赤砂漠越え!
オアシスで遭遇する、あからさまに見下してくる傲慢な雇われ護衛たち。
そして立ち往生した商人一家を襲う、鋼殻をまとった砂海の巨大暴君……!?
キャシーの裏表全開な営業スマイル、シエラとの華麗な空中連携、そしてユーリのスカッとする【素手剥ぎ取り】無双をお楽しみください!
それでは、どうぞ!
グランデールを出発して三日目。
車窓から見えていた緑豊かな草原は次第に姿を消し、馬車の車輪の下には見渡す限りの赤茶けた大地――『灼熱の赤砂漠』が広がっていた。
陽炎が揺らめく街道の中継地点。澄んだ青い水を湛える『緑樹のオアシス』の木陰に魔導馬車を止め、一行は馬の休息と水分の補給を行っていた。
「ふぅ……。南に近づくにつれて、日差しが容赦なくなってきたわね。湿気がないだけマシだけど、肌が乾燥して敵わないわ」
メリッサが日傘の下で冷たい野草茶を口に含み、小さく息を吐く。
その傍らで、キャシーは木陰の岩に腰掛け、ヒョウの耳をパタパタと扇風機のように動かしていた。
「あつーい……。サザンクロスに着いたら、真っ先に冷たい海に飛び込んでやるんだから」
「油断は禁物だ。砂漠は昼夜の寒暖差が激しく、魔獣の活動も活発になる。夫の体調管理には万全を期さねばならん」
シエラは汗一つかかない涼やかな顔で、水筒をユーリへと手渡した。
「ははは。ありがとう、シエラ でも夫と呼ぶのはやめてね」
ユーリが水筒を受け取って喉を潤していると、オアシスの水場に停まっていた豪奢な幌馬車の方から、一人の男性がおずおずと歩み寄ってきた。
仕立ての良い旅装に身を包んだ、優しげだが少し気弱そうな中年の男だ。背後には、心配そうに見つめる妻らしき女性と、七歳ほどの小さな少女の姿があった。
「あの……失礼いたします。旅の方、あなたたちもサザンクロスへ向かわれるところでしょうか?」
男が丁寧に頭を下げる。ユーリが頷いて返した。
「ええ、そうですよ」
「やはり! 私たちはサザンクロスで貿易商を営んでいるマルクスと申します。この赤砂漠は魔獣が多く、危険な道中ですので、同じ目的地の方をお見かけして思わずお声をかけてしまいまして……」
マルクスが安堵の笑みを浮かべた、その時だった。
「おいおい旦那、勝手に余計な連中へ声をかけるなよ」
ドスの利いた下品な声が割り込んできた。
マルクスの背後から現れたのは、身の丈ほどもある巨大な大剣を肩に担いだ筋肉質の男と、派手な装飾の施されたローブをまとった魔法使いだった。
二人は品定めするようにユーリたちを見下ろし、嘲弄の笑みを浮かべる。
「どうだい、そっちの旅人さんよ。砂漠の魔獣は物騒だぜ? 俺の名はガルド。俺たち凄腕の護衛が、ついでにサザンクロスまで護衛してやってもいいが……まあ、旦那の連れってことで、安くしておいてやるよ」
大剣の男――ガルドが、親指と人差し指で輪を作って金を要求する仕草を見せた。
(はぁ!? 自分たちから声かけてきて金取る気かよこの筋肉ダルマ!)
キャシーは瞬時に後ろを振り向き、ユーリだけにあからさまに嫌悪感全開の白目を剥いた顔を晒した。
だが、次の瞬間にはクルリと向き直り、完璧なまでの愛想笑いを顔面に貼り付けていた。
「ありがとうございます〜! でもまぁ、うちも腕利きが揃ってますので、自分たちで何とかなると思います〜、オホホホ!」
完璧な営業スマイルと甲高い笑い声。
断られたガルドと魔法使いのザガンは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「けっ、腕利きだってよ。見ろよ、ザガン。小娘二人に、幼女が一匹……極めつけは、魔力のかけらも感じられない少年坊主か?」
ザガンが杖を回しながら、見下した視線をユーリへ向ける。
「おいおい坊主、女のケツにくっついて砂漠越えとはいい身分だな。情けねえ男の面汚しめ。魔力もねえ無能が格好つけて、魔獣の餌になるのがオチだぜ」
「ギャハハ! 金をケチって砂の染みになっても、泣きついてくるんじゃねえぞ!」
ガルドが大声で下品に笑い飛ばす。
シエラの手が静かに腰の刀の柄にかかり、メリッサの紅玉の瞳が氷のように冷たく細まった。
だが、ユーリは静かに二人の前に立ち、首を横に振った。
「行こう。揉める必要はないよ」
ユーリの落ち着いた声に、シエラは静かに指を離し、メリッサも肩をすくめて日傘を差した。
「おい、行くぞ旦那! あんな貧乏な無能どもに構ってる時間はねえ!」
ガルドたちがマルクスを急き立てるように馬車へと戻っていく。
その時、とてとて、と小さな足音がユーリの足元へ駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
振り返ると、マルクスの娘小さな両手いっぱいに包みを抱えて見上げていた。
澄んだ大きな瞳で、ユーリへと小さな紙包みを差し出してくる。
「これ、あげる! サザンクロスの干し果物なの! とっても甘くて、食べると元気が出るんだよ!」
「ありがとう、ユーリだ」
包みをを持たない持たないもう片方の手を差し出すと、少女が喜んで握ってくれた。
「私、ティナ!」
護衛たちの下品な態度とはまるで違う、純粋で無邪気な優しさ。
ユーリは膝をついてティナと目線を合わせると、優しく微笑んでその包みを受け取った。
「大切に食べるよ」
「うん! 砂漠、気をつけてね!」
ティナは満面の笑みで手を振り、母親の元へと駆けていった。
やがてマルクス一家の幌馬車は砂煙を上げ、ユーリたちよりも一足先に出発していった。
それから数時間後。
太陽が天頂を過ぎ、赤砂漠特有の熱風が吹き荒れる中、ユーリたちの魔導馬車は砂漠の難所と呼ばれる『鳴き砂の窪地』へと差し掛かっていた。
突如、前方の空へ向けて、一本の赤い光条が打ち上がった。
――ヒュゥゥゥ……パーンッ!
「救難信号弾……!? 前方よ!」
キャシーが馬車の窓から身を乗り出して叫ぶ。
砂塵が渦巻く窪地の底で、先発したはずのマルクスの幌馬車が、砂に車輪を深く取られて完全に立ち往生していた。
そして――その馬車を取り囲むように、無数の赤い影が蠢いていた。
全長二メートルほどの敏捷な肉食恐竜――『砂海走竜』。
普段はオアシスの周辺で小型の獲物を狙う程度の魔獣が、今は数百頭もの巨大な群れを形成し、血走った眼で馬車へ襲いかかっていた。
「おかしいわね……! 普段なら群れを作っても十数頭が限界の魔獣よ! 何かに統率されて狂乱しているわ!」
メリッサが叫ぶ。
その言葉を裏付けるように、地響きとともに砂煙を突き破って、一頭の異様な巨獣が姿を現した。
――グォォォォォォォォォォッッ!!
大気を震わせる狂気の咆哮。
通常のサンド・ラプターの三倍以上――体長十メートルを超える巨大な体躯。
全身を分厚い鋼のような暗紫色の外殻で覆われた、砂海の支配者――『砂海鋼殻竜』だった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
「もうだめだーーっ! 死にたくないぃぃぃっ!」
馬車の陰では、あれほど偉そうにしていた護衛のガルドとザガンが、武器を取り落として腰を抜かしていた。
二人はみっともなく互いに抱き合い、涙と鼻水を垂らしながらガタガタと震えている。護衛としての矜持など欠片もなく、ただ怯えるだけの無様な醜態を晒していた。
「キャシー、シエラ、行くわよ!」
「任せて!」
「夫の行く手を阻む害獣どもめ、一刀のもとに両断してくれる!」
馬車から飛び出したシエラが神速の居合を一閃させ、馬車に群がる小型の走竜たちを一瞬で十数頭薙ぎ払う。
キャシーも俊敏な身のこなしで宙を舞い、クナイと足技で馬車へ迫る魔獣の目を的確に潰していく。
ユーリは一直線に、怯えるマルクス一家の元へと駆け寄った。
「ティナ、大丈夫か!?」
「お、お兄ちゃん……!」
抱き合うマルクス夫妻とティナを背中に庇い、ユーリは立ちはだかる巨獣――砂海鋼殻竜を見上げた。
その瞬間、ユーリの【眼】が、巨獣の頭部に異常な光景を捉えた。
巨獣の眉間の中心。
皮膚の奥深くに、何者かの手によって意図的に打ち込まれた【紫色のノイズ――マナの澱み】が、激しく明滅していたのだ。
紫色のマナの不純物が神経系を侵食し、巨獣を強制的に狂乱させ、群れ全体を暴力の塊として操っている。
「……こいつ、操られてる! あの眉間の不純物が、群れを操る狂乱の元凶だ!」
その時、シエラが鋼殻竜の懐へ踏み込み、渾身の抜刀術を巨獣の脚部へ叩き込んだ。
――ガキィィィィィンッ!!
金属と金属が激突したような甲高い火花が散り、シエラの刀が弾かれた。
「くっ……!? 皮膚が異様な魔力の影響で異常硬化している! 通常の太刀筋では装甲を突破できん!」
「シエラ、キャシー!」
ユーリが二人の名を叫んだ。
「あの頭頂部の不純物を剥ぎ取れば、操られているマナが解除されて止まる! 頭の上まで連れて行ってくれ!」
「承知した!」
「オッケー、ユーリ! 飛ばすよっ!」
キャシーが懐から煙幕弾を投げつけ、巨獣の顔面に目眩ましを炸裂させる。
視界を奪われた鋼殻竜が暴れ狂う一瞬の隙を突き、シエラがユーリの腰を抱きかかえた。
「しっかりと掴まっていろ、ユーリ!」
シエラが大地を蹴った。
魔族特有の驚異的な脚力で、鋼殻竜の太い尾から背中の硬質な突起を足場にし、垂直の絶壁を駆け上がるように巨躯を駆け上がっていく。
巨獣の頭頂部へ到達した瞬間、シエラがユーリをふわりと上空へ射出した。
「頼んだぞ!」
宙を舞い、鋼殻竜の眉間へと落下するユーリ。
巨獣の巨大な眼球が、頭上のユーリを捉えて狂気に濁る。
だが、ユーリの視界には、眉間に突き刺さるおぞましい【紫色の澱み】しか映っていなかった。
理不尽に操られ、無関係な人々を襲わせるための悪意の塊。
見過ごすことなど、絶対にあり得ない。
ユーリは両手を伸ばし、鋼殻竜の眉間に固着した紫色のマナの楔を、力任せに鷲掴みにした。
――強力な粘着テープを、全力で引っぺがす感覚。
「剥がれろ――ッッ!!」
ユーリが渾身の力で両腕を引き絞る。
――ビリリィーー……ッッ!!
空間を裂くような強烈な剥離音が、砂漠の大気に響き渡った。
紫色のマナの不純物が、ユーリの手によって力任せに引き剥がされ、光の粒子となって霧散していく。
次の瞬間、鋼殻竜の全身を覆っていた紫色の異常な光が完全に消失した。
「グ……オォォ……ン……」
巨獣の瞳から狂乱の赤が引いていき、本来の穏やかな金色へと戻った。
頭部の激痛から解放された砂海鋼殻竜は、ユーリを静かに見つめると、ゆっくりと巨体を反転させ、砂の中へと深く潜り込んで去っていった。
主を失った周囲のサンド・ラプターの群れも、統率を解かれて我に返り、蜘蛛の子を散らすように砂漠の四方へと逃げ去っていく。
吹き荒れていた砂塵が収まり、窪地には静寂が戻っていた。
「……あ、あり得ねぇ……」
「な、なんだあいつは……素手で魔獣の狂乱を……!? ば、化物か……!?」
馬車の陰で抱き合っていたガルドとザガンが、腰を抜かしたまま顎が外れそうなほど口を開けて震えていた。
そこへ、日傘を優雅に差したメリッサが、冷え切った視線で見下ろすように歩み寄った。
「あら? ずいぶんと情けない格好ね。『凄腕の護衛』さんたち。私たちの護衛代、今からでも請求してあげましょうか?」
「ひ、ひぃぃぃっ! め、滅相もございませんっっ!」
二人は顔面を蒼白にし、砂地に何度も頭を叩きつけて土下座した。傲慢だった態度は木っ端微塵に砕け散り、ただ恐怖に震えるだけの道化と化していた。
「お兄ちゃんっ!」
砂埃を払いながら歩み寄るユーリの元へ、ティナが駆け寄ってきてぎゅっと抱きついた。
「お兄ちゃん、すごかった! すっごくかっこよかった!」
「怪我がなくてよかったよ、ティナ」
ユーリはしゃがみ込み、ティナの頭を優しく撫でた。
マルクスとエレーヌも涙を流しながら深々と頭を下げる。
「あ、ありがとうございました……! 何とお礼を申し上げればよいか……!」
「いえ、無事で何よりです」
ユーリはポケットから先ほどもらった干し果物を取り出し、ティナと一緒に一粒口に含んだ。
口いっぱいに広がる濃厚な甘み。
だが――ユーリの視線は、巨獣が去っていった砂漠の地平線へと向けられていた。
(なぜ、こんな砂漠の野生魔獣にまで、魔族のマナの楔が打ち込まれていたんだ……?)
サザンクロスの研究所で開発されたという新型コア。
そして、この砂漠にまで伸びていた不自然な悪意の手。
南の商業都市に渦巻く闇は、予想以上に深く、危険なものであることを予感させた。
マルクス一家の馬車を安全な街道まで送り届け、再び南へと進むこと半日。
赤砂漠の果て、連なる岩山を抜けた魔導馬車の前に、目も眩むような絶景が広がった。
太陽の光を浴びてエメラルドグリーンに輝く広大な海。
そして、海岸線に沿ってどこまでも広がる白亜の建築群と、無数の帆船がひしめく巨大な港湾――。
「わぁぁぁっ! 見えた! 海だぁーーっ!」
窓から身を乗り出したキャシーが歓声をあげる。
南の魔導港湾、商業都市サザンクロス。
潮風が吹き抜けるその巨大都市の門が、今、ユーリたちの目の前に開かれようとしていた。
第66話をお読みいただき、ありがとうございました!
序盤であれほど偉そうにイキっていた護衛ふたりが、抱き合って号泣・失禁寸前の土下座……最高に情けないざまぁ劇でした(笑)。
そして、健気なティナちゃんを救えて本当に良かったです!
敵に操られていたドレッド・ラプターの眉間から、素手で**「ビリリィーー……ッ!」**とマナの楔を引き剥がすユーリのデバッグもバッチリ決まりました!
砂漠を越え、次話はいよいよ目的地――南の巨大港湾都市『サザンクロス』へ到着!
次回は、南国グルメに街の散策、そしてヒロインたちの水着&ドレス選び……!?
キャシーの照れ姿と、シエラの戦闘特化(?)な天然ボケが炸裂する、読者サービス満載のバカンス回となります!
【読者の皆様へのお願い】
「護衛の情けないざまぁにスカッとした!」
「ユーリの剥ぎ取りが無双してて気持ちいい!」
「ティナちゃんが良い子で癒やされた」
など、少しでも楽しんでいただけましたら、
ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価**していただけますと、ランキングを駆け上がる凄まじい原動力になります!
(なろう界隈では、皆様の評価星とブックマークが本当に命です……!)
次回は明日18時40分頃更新します。
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