【第61話】水神の眠りと黒幕の誤算
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ついに超巨大水龍『千眼の水神』の頭上へと飛び込んだユーリ!
凶悪な不純物の操作核を前に、魔力なき少年の右手が炸裂します!
そして、姿を消した黒幕・アルマの冷酷な罠……。
すべてを見抜いていたユーリたちの「痛快すぎる逆転包囲劇」が幕を開けます!
怒濤の爽快感でお届けする第61話をお楽しみください!
吹き荒れる暴風と猛烈な水煙の中、ユーリはリバイアサンの白銀の頭蓋の上へと身を投げ出した。
足元では山のような巨頭が狂乱のままに激しく揺れ動き、数千の眼球が血走った光を放っている。
だが、ユーリの【眼】には、はっきりと捉えられていた。
白銀の巨鱗が交差する頭頂部の深部に、楔のように深々と突き刺さる、ドス黒く脈打つ「紫色の不純物」。
アルマの魔道具から伸びる死の同調線が、この核を通じて大龍脈の濁流を無理やり暴走させている。
一切の武器を持たないむき出しの両手を、ユーリは激しく脈動する不純物の根元へと伸ばした。
その瞬間だった。
「小癪な小僧がぁッ! 我が操り人形の頭から叩き落ちろ!!」
遥か地上から、アルマの狂乱の絶叫が響いた。
魔道具から送られた強制命令の波がリバイアサンの神経を強引に蹂躙し、水神の巨頭が信じがたい角度で激しくのけぞる。
ぐらりと足場が傾ぎ、ユーリの身体が宙へ浮き上がった。
掴みかけた不純物から指が外れ、巨鱗の上を滑り落ちる。
体勢は完全に崩れ、吹き荒れる水圧の突風の中で無防備な身体が空中に投げ出されかけた。
(しまっ……た……!?)
足場はなく、捕まる場所もない。
真下は数千トンもの激流が渦巻く奈落。
絶体絶命の危機にユーリが奥歯を噛み締めた、まさにその刹那――。
ふっと、頭上の暴風が止んだ。
リバイアサンが、アルマの強制制御を自らの意志で撥ね除けるように、荒れ狂う身じろぎをピタリと止めたのだ。
血走っていた数千の眼球が、そっと静かに閉じられていく。
痛みに抗い、暴走の苦しみを受け止めながら――水神は、無言のまま自らの頭頂部を差し出し、ユーリのすべてを受け入れるように身を静止させた。
(……受け入れて……くれているのか……?)
水神の祈りに似た静寂。
滑り落ちかけた足を白銀の鱗に力強く踏み留まらせ、ユーリは再び不純物の根元へと飛び込んだ。
むき出しの両手で、禍々しく脈打つ核をしっかりと掴み取る。
そして――大龍脈の咆哮を押し返すように、魂の底から声を張り上げた。
「頼む、あなたはこのまま眠ってくれっ!」
全身の体重を乗せ、力任せに一気に引き剥がす!
「剥がれろぉぉぉーーーーッ!」
ビリリィーー……ッ!!
空間そのものを引き裂くような、凄まじい破裂音が街に轟き渡った。
大鎌や隔壁の比ではない、超巨大な不純物の薄膜が、ユーリの手によってベリベリと強引に引き剥がされ、天空で青白い光の粒子となって一瞬で散裂、霧散していった。
その瞬間、水神の狂乱の赤眼が、清らかに澄み渡る銀の瞳へと戻った。
操られていた痛みの絶叫が止み、リバイアサンは穏やかに息を吐き出す。
地上では、大聖堂礼拝所から戻ったメリッサが、リターニアから託された古代触媒『星脈の封魔晶核』を両手で高く掲げていた。
「《|四柱の古結界・大脈鎮定封印《しちゅうのこけっかい・たいみゃくちんていふういん》》――眠りにつきなさい、千眼の水神!」
神聖な青い光の環が空へと広がり、水神の巨躯を優しく包み込んでいく。
巨龍は穏やかに光の粒子へとほどけ、大龍脈の濁流を鎮めながら、地下ダムの深淵へと静かに帰還していった。
広場を呑み込みかけていた大水がスーッと引いていく。
だが――足場となっていた水神の巨躯が消滅したことで、遥か上空に取り残されたユーリの身体は、重力に従って真っ逆さまに落下を始めた。
「あ、やばい。忘れてた」
地上で空を見上げていたキャシーが、ぽかんと口を開けた。
「しまった、後のことを考えていなかった――ッ!?」
風圧に顔を歪めながら、ユーリが悲鳴のような叫びを上げる。
石畳が猛烈な速度で迫り来る。
だが――激突の寸前、消えゆくリバイアサンの光の粒子が、ユーリの周囲へふわりと集まった。
薄く清らかな水の膜がユーリの身体を優しく包み込み、落下の衝撃を完全に吸い取ると、まるで羽毛のように柔らかく石畳の上へと降ろした。
パチン、と水の膜が弾けて消える。
「……リバイアサン……」
見上げる秋の青空。水神は最後の一筋の光となって、完全に地下へと去っていった。
その横に、漆黒のドレスを揺らしてリターニアが音もなく歩み寄ってきた。
「どうやら、うまく封印できたようね」
ユーリはゆっくりと立ち上がり、静かに首を横に振った。
「いいや。……自ら眠りについたんだよ」
水神が鎮まった広場には、嘘のような静寂が戻っていた。
壇上には、崩壊した並列爆弾の前で佇むアレンとカルトの姿がある。
ルシアンが大剣を肩に担ぎ、首を傾げながら周囲を見渡した。
「それにしてもアルマの野郎、どこ行きやがったんだ?」
その言葉に、隣にいたシエラが至極真面目な顔で即座に訂正を入れた。
「アルマは女性ですから野郎というのは不適切です」
「? じゃ何ていうのだ? アルマのくそ野郎とか?」
「下品ですね。野郎付いたままですし。……たとえば、アルマのクズとかゴミとかミジンコとか」
「……お前もたいがいだと思うぞ」
ルシアンが引きつった顔で突っ込む。
その小気味よいやり取りを聞きながら、ユーリは目の奥を細め、静かにエリアナの傍らへと歩み寄った。
「エリアナ」
「はい、ユーリ様?」
ユーリはエリアナの耳元へ顔を寄せ、周囲に聞こえない極小の声で囁いた。
エリアナは驚きに目を瞠ったが、すぐに真剣な表情で小さく頷いた。
「承知いたしましたわ」
エリアナは凛とした足取りで壇上へと上がり、立ち尽くすカルトの前へ進み出ると、腰の手錠を取り出してカルトの両手首へとかけた。
「カルト殿。事情がおありのようですが、あなたが仕掛けた事態によって多くの危険と損害が出たのは事実です。一度、ご同行願いますわ」
「……ああ。わかっているよ」
カルトは抵抗することなく、静かに両手を差し出した。
エリアナがカルトを連れて壇座を降りようとした、まさにその時であった。
「――エリアナ団長。犯人の連行を引き継ぎます」
深く兜を被った一人の衛兵が、早足で近づいてきた。
エリアナは足を止め、怪訝そうに眉をひそめる。
「見ない顔ですわね。どこの所属ですか?」
「『王国直属特務執行隊』です。今回の事件の重大性を鑑みて、上層部より我々が直接身柄を引き継ぐよう命令が下りました」
淀みのない返答。だが、兜の奥の視線は、カルトの身柄だけを執拗に射抜いていた。
エリアナは一瞬だけ目を細めたが、やがて平然とした声で手錠の鎖を差し出した。
「そう……ですの。分かりましたわ。この人はもう暴れることはありませんから、丁重に護送してくださいね」
「はっ。お任せを」
衛兵はカルトの腕を掴むと、足早に広場の裏手へと連れ去っていった。
その背中を見送りながら、エリアナがユーリの隣へ戻り、小声で問いかけた。
「……うまくいくでしょうか」
「ああ、たぶんね」
反対側から、キャシーが腕を組んで割り込んできた。
「なーにコソコソしてるのよ、ふたりして」
ユーリは口元に微かな笑みを浮かべ、衛兵が消えていった裏路地の方角を見据えた。
「敵の執念深さと、性格の悪さに期待しようと思ってね」
建立祭の喧騒から遠く離れた、王都東部の薄暗い石造りの路地裏。
崩れかけたレンガ壁に囲まれた人気のない袋小路で、先ほどの衛兵が足を止めた。
「ここまでくれば、いいでしょう」
冷ややかな女の声と共に、衛兵が頭部の兜を乱暴に脱ぎ捨てた。
露わになったのは、禍々しい漆黒の角と、左目を血で染めた魔族幹部――アルマの姿であった。
「やっぱり……あんただったか」
カルトは手錠を擦り合わせ、唇を血が出るほど強く噛み締めた。
「頼む……! アレン先輩とリリィには、もう手を出すな! 俺の命はどうなっても構わない……! 好きに殺せばいいだろう!」
魂を削るようなカルトの嘆願。
だが、アルマは首を傾げ、残された右目を細めて爪を噛みながら、嘲笑うように冷たい独り言を呟いた。
「あなたが要求できる立場だと思って? ……ふん、そうはいかないわ。あの職人には、バイオパーツを完璧なものとして完成させるために、今後も研究を続けてもらうつもりよ」
アルマは一歩、カルトへと間合いを詰めた。
その凍てつくような殺気と、底知れぬ残虐な眼差しがカルトの胸元を鋭く射抜く。
「……まさか、バイオパーツデータの解除キーを自分の心臓に設定していたとはね」
アルマの低い囁きが、冷え切った路地の空気を張り詰めさせる。
彼女は口元を三日月のように歪め、喉の奥から凄惨な笑みを漏らしながら、さらに言葉を重ねた。
「お前は自分を魔獣化させることで、バイオパーツの技術を闇に葬り、職人と娘を守ろうとしていたようね。……生意気な真似を」
カルトの身体が恐怖と戦慄で硬直する。
すべてを見透かされていた。カルトが自らを犠牲にしてでも成し遂げようとした決死の防壁を、アルマは虫けらの足掻きとばかりにせせら嗤っていた。
「でも結果的に、あなたから心臓を抜き取ることができるんだから良しとしましょうか。どうせ殺すつもりだったしね」
アルマは外套の奥から、黒鉄の不気味な銃を取り出した。
銃身に紫色のマナの不純物がこびりついた、あの特注の魔力銃。
「そ、それは……!」
「拘束して激痛を与える銃よ、本当は拷問用なんだけどね。手を煩わせたから私からの憂さ晴らし」
「頼む……! アレン先輩とリリィだけは……!」
アルマは深いため息をつき、冷酷に引き金へと指をかけた。
「まったく、同じ言葉ばっかり。本当に話していても退屈するばかりよ」
――バシュゥゥンッ!!
冷酷な銃声が路地裏に鳴り響いた。
ガキィィィィンッ!!!!
放たれた紫色の魔力弾は、横合いから割り込んだ巨大な鋼鉄の刃によって、一撃で弾き飛ばされた。
「なっ……!?」
火花が散る中、カルトの前に立ちはだかったのは、聖大剣クラドを軽々と担いだルシアンだった。
「俺もいい加減飽きたから、退治されてくれよおばさん」
「お、おば……!? そんなことより何で――」
アルマが驚愕に声を上ずらせた、その背後から。
「『なんでこんなところにお前らが』って?」
大賢者メリッサが、大人の優雅な笑みを浮かべて路地の出口に立っていた。
驚いて振り返るアルマの反対側から、白銀の魔導剣を構えたエリアナが滑り込む。
「『おのれ貴様ら、いつもいつも私の邪魔をしおって』でしょうか? 本当に悪者のセリフはいつもいつもワンパターンですわね」
「仕方ありませんよ。人は追いつめられてパニックを起こすと語彙力が低下しますから」
シエラが真顔で居合の構えを取り、頭上の屋根の上からは、リターニアが漆黒の影を従えて見下ろした。
「同じ魔族として滅茶苦茶カッコ悪いわね」
「り、リターニア! 貴様まで! なぜ……!?」
四方を完全に塞がれ、狼狽するアルマ。
その決定的な隙を、ユーリは見逃さなかった。
死角から音もなく踏み込み、アルマの持つ黒鉄の魔力銃へと素手を叩きつける。
銃身にこびりつく紫色の不純物を、指先でしっかりと掴み取った。
そして――力任せに引き剥がす!
「剥がれろぉぉぉーーーーッ!」
ビリリィーー……ッ!!
空間を裂く重厚な破裂音と共に、銃に宿っていた禍々しいマナの不純物がベリベリと剥がれ落ち、虚空へと霧散した。
パキパキと音を立て、機構を失った銃は、ただの錆びた鉄屑となって石畳へ転がり落ちた。
「わ、私の銃が……っ!?」
ユーリは軽く両手をパンと打ち鳴らして埃を払うと、足元に転がった鉄屑を冷ややかに見下ろした。
「やっぱり、マナが付与された魔道具だった」
ユーリは静かに顔を上げ、動揺に目を見開くアルマを真っ直ぐに見据えた。
「絶対にあんたはカルトにとどめを刺しに来ると思ったからね」
一歩踏み出し、息をつかせぬように言葉を重ねる。
「それに――あれだけ怒っていたんだ。何かしら仕返しの意味でも、直接行動に移すと思ったんだよ」
完璧に先読みされていた事実を突きつけられ、アルマの顔から完全に血の気が引いた。
そこへ、キャシーがユーリの横へ躍り出ると、腰に手を当ててびしっと人差し指を突きつけた。
「さあ、観念しなさいっ、黒幕!」
得意満面なキャシーの姿に、後ろで見ていたメリッサが呆れたように肩をすくめた。
「どうでもいいけど、なんであんたが格好つけて見得を切るのかな」
第61話をお読みいただき、ありがとうございました!
「頼む、あなたはこのまま眠ってくれっ!」
ビリリィーー……ッ!!
水神の頭頂部から不純物の操作核を引き剥がし、優しく包まれながら地上へ降り立ったユーリ……! リバイアサンが自らの意志で眠りにつくシーン、本当に美しかったですね!
そして、路地裏で明かされたカルトの壮絶すぎる真実……。
自らの心臓を生体解除キーに設定し、自分が魔獣化して命を絶つことで、アレン先輩とリリィちゃんを救おうとしていたなんて……! カルトの不器用で痛切な想いに目頭が熱くなります。
しかし! 逃げ切った気になっていたアルマを待ち受けていたのは、完璧すぎる先回り包囲網!
ルシアンの弾き飛ばし乱入からの、メリッサ、エリアナ、シエラ、リタ姐さんの痛快すぎる煽りリレー!
さらに背後から魔力銃を素手で「ビリリィーー……ッ!」と粉砕したユーリ!
最高にスカッとする「黒幕ざまぁ」でしたね!
次回、ついに広場に真実が明かされ、ユーリたちを理不尽に傷つけた大衆への「最大級の謝罪」が訪れます!
そして、アレンさんが帰るべきあの温かな場所へ――。
感動のクライマックスへ向けて突き進む第62話、絶対にお見逃しなく!
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【読者の皆様へのお願い】
「水神のデバッグが格好良すぎた!」
「アルマの完全包囲にスカッとした!」
「カルトの覚悟に泣けた!」
と思っていただけましたら、
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