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【第59話】しくじりの大賢者と水神の弱点

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


大地を割って現れた、伝説の超巨大魔導生命体『千眼の水神(リバイアサン)』!


全員の総力戦、ヒロインたちの逃亡大騒ぎ、そしてユーリの反撃が始まります!


それでは、怒濤の第59話をお楽しみください!

ズズズズズズ……ッ!!

 ドガァァァァァンッ!!!!


特設ステージ『誓約の創世壇《せいやくのそうせいだん》』の足元、大理石の石畳が一瞬にして粉々に吹き飛び、天を衝く巨大な水柱が広場全体を呑み込むように噴き上がった。

 水煙の奥から現れたのは、白銀の巨鱗を鎧のように纏い、幾千もの眼球を妖しく瞬かせる、山のような超巨大水龍――『千眼の水神(リバイアサン)』。


魔導商都グランデールの地下深く、二百年ものあいだ封じられていた伝説の魔導生命体が、ついに地上へとその巨躯を解き放ったのだ。

噴き出す水圧の突風に髪を激しく乱されながら、壇上で頭を抱えていた大賢者メリッサが、気まずそうにユーリを見上げた。


「ゴメン、しくじったわ」


「え? なにが?」


「えーーっとね、非常に言いにくいんだけど……」


メリッサは視線を泳がせながら、早口で事の顛末を白状した。


「大聖堂礼拝所の地下でアルマが結界柱を破壊しようとしていたから、私が全力の極大魔術で吹き飛ばそうとしたのよ。そしたらあいつ、ヒラリと躱しやがって……私の放った全力魔法が、そのまま後ろの結界柱に直撃して、木っ端微塵に粉砕しちゃったのよ……」


その告白を聞いた瞬間、横に控えていた銀髪の女剣士シエラが、至極真面目な顔で深く頷いた。


「まあ、要するにこの街を破壊するのはメリッサ様ということになります」


「要約するんじゃないわよ! 今回は過程が大事なの!」


メリッサが必死に抗議の声を上げたその刹那――。

ステージの床に落ちた濃い影が、生き物のようにグニャリと歪んだ。

 立ち上る漆黒の瘴気の中から、夜の闇をそのまま織り上げたようなドレスを纏い、頭部に妖艶な角を冠した絶世の美女が、音もなく姿を現した。


「なっ……影から現れただと!?」


「まさか……シエラ殿が話していた、魔族幹部の……!?」


エリアナが即座に魔導剣を構え、ルシアンが大剣クラドを力強く握りしめてユーリの前に立ちはだかる。キャシーも獣の爪を鋭く研ぎ澄ませ、敵意を剥き出しにして息を詰めた。

 昨夜、地下の作戦会議でシエラから「裏で味方をしてくれている魔族幹部がいる」と説明は受けていた。だが、実際に帝都の高位幹部たる本人が目前に現れたとなれば、歴戦の騎士たちであっても本能的な警戒を解けるはずがない。


「シエラ、あいつが昨夜言っていた『リターニア』ってやつなのか!? いくら話を聞いていたって、敵の最高幹部本人がこうも堂々と出てこられちゃ、はいそうですかと信用できねえぞ!」


ルシアンの切迫した怒声に対し、シエラが静かに剣を下げ、一同を制するように前へ出た。


「落ち着いてくれ、皆。昨夜説明した通り、あのお方がリターニア様だ。これまで何度も裏から手を回し、我らに助力をもたらしてくださっていた協力者であられる」


「頭では理解していても、相手は魔族の最高幹部ですわ! 本当に今、信用して大丈夫なんですの!?」


エリアナが警戒を崩さずに問う。

 人間と魔族は相容れぬ仇敵。ましてや、この土壇場で現れた規格外の存在だ。

 その張り詰めた緊張の中、ユーリが静かに口を開いた。


「シエラの言う通りなんだ。昨夜の風詠の鐘楼でも、直接現れて命を救ってくれた。……信じてほしい」


ユーリの迷いのない言葉に、ルシアンは「ユーリがそこまで言うなら……」と大剣の切っ先を渋々下ろし、エリアナやキャシーも剣呑な殺気を収めた。

一触即発の空気が和らぐのを見届け、リターニアは妖艶な唇にふっと薄い笑みを浮かべた。


「ふふ……ずいぶんと賑やかなお仲間ね。まあいいわ。ユーリ、安心しなさい。カルトとの取引通り、地下に囚われていた本物のリリィちゃんは無傷で救出したわ。すでに『酔っ払い亭』のバイマンの元へ送り届けてある」


その報告を聞いたメリッサが、目を細めて鋭い視線を投げかけた。


「……ちょっと待ちなさい。魔族のアンタが、なんでそんな真似をするのよ? 人間の幼子を救って、同胞の計画を邪魔するなんて筋が通らないじゃない」


大賢者としての当然の疑念。

 だが、リターニアは優雅に人差し指を唇に当て、はぐらかすように片目を細めてみせた。


「さあね。ちょっとした契約があってね……とだけ言っておくわ」


真意を煙に巻くその仕草。

 だがユーリにとっては、理由など今はどうでもよかった。

 リリィが無事であるというその一点だけで、張り詰めていた胸の奥がじんわりと温かくなり、深い安堵が満ちていく。


「リリィが……無事なのか……!」


壇上で膝をついていたアレンが、両手で顔を覆い、涙をボロボロと石畳へ零して号泣した。

 すぐ傍らで頭を抱えていたカルトもまた、背を向けたまま、誰にも見られぬよう袖で強く目元を拭い、張り裂けそうだった息を静かに吐き出していた。

 だが――その救済の時間を切り裂くように、瓦礫の山から狂乱の怒号が響き渡った。


「おのれ……おのれ、貴様らぁぁぁッ!!」


吹き飛んだ石柱の陰から、左目を血で染めたアルマが姿を現した。

 その手には、禍々しい紫色の不純物を放つ、魔族特有の制御魔道具が握られている。


「どいつもこいつも邪魔してくれよって! だが無駄よ! 結界は壊れていないが、水神は完全に復活させた! この魔道具で大龍脈を直接励起すれば、街ごと全てを水底へ沈めてやれる! もうお前たちは終わりだぁぁぁッ!!」


アルマが魔道具を掲げると、リバイアサンが数千の眼球を紅く明滅させ、天を衝く咆哮を上げた。

 広場を満たす水流が逆巻き、巨大な濁流の津波となって一行へと押し寄せてくる!


「させるものか! 全員、一斉に叩き潰すぞ!」


ルシアンが先陣を切り、大剣クラドから風のマナを爆発させる。


「《風穿つ一閃《ヴォルテックス・スラッシュ》》ッ!!」


「氷壁よ、貫きなさい――《絶対氷槍《アブソリュート・スピア》》!」


エリアナの極大氷柱、シエラの神速の居合、キャシーの鋭烈な爪撃、メリッサの爆炎魔術、そしてリターニアの放つ『虚無の斬撃』が、寸分の狂いもなくリバイアサンの巨躯へと同時に着弾した!


ドゴォォォォォォンッ!!!!


天地を揺るがす大爆発。

 英雄たち全員の最大火力が集中した一撃。いかなる強大な魔獣であろうと、跡形もなく消滅するはずの猛攻。

だが――吹き荒れる水煙が晴れた瞬間、全員が絶句した。

リバイアサンの白銀の鱗には、かすり傷一つついていなかった。

 アルマの掲げる魔道具から注ぎ込まれる大龍脈の莫大なエネルギーが、傷口が生じる端から超高速で水を凝縮させ、一瞬にして完全再生させていたのだ。


「グアァァァァァッ!!」


水神が巨大な尾を薙ぎ払った。

 暴風のような水圧の衝撃波が広場全体を薙ぎ倒し、ルシアンたち全員が受け身を取りながら後方へと大きく弾き飛ばされた。


「くっ……! 全員の攻撃を直撃させて、傷一つ負わせられないなんて……!」


石畳に着地したエリアナが、悔しそうに唇を噛み締める。

 大龍脈から無限に魔力を吸い上げ続ける水神は、文字通り無敵の要塞と化していた。

息を乱す仲間たちの中で、シエラが真顔でメリッサを見上げた。


「このままでは、メリッサ様が歴史に残る大悪党になりますね」


「記録の仕方によっては、歴代の魔王と肩を並べるわね」


リターニアの追撃に、メリッサは真っ赤になって頭を抱えた。


「ユーリ、逃げましょう! これは本格的に、二人で他国へ逃亡よ!」


「あ、じゃあ、私も行くー!」


キャシーが手を挙げると、エリアナが即座に割り込んだ。


「ズルいですわ! 私もユーリ様と他国へ逃亡いたします!」


「おいおい、俺たち一応勇者と騎士団長だぞ……!?」


ルシアンが引きつった笑いを浮かべる。

 絶体絶命の危機にあっても崩れない仲間たちの絆と賑やかさ。

だが――ユーリの視線は、そのやり取りの最中も、決して水神から離れてはいなかった。

ユーリは目の奥に、全身の集中を束ね上げた。

 【眼】が極限まで開放される。

 世界から実体的な色彩が削ぎ落とされ、大気を満たす『魔力の流線』が、鮮やかに視界へ浮かび上がった。

本来、自然界にマナは存在しない。

 だが、リバイアサンの頭頂部――白銀の巨鱗が交差する急所の奥深くに、ただ一箇所だけ、他とは決定的に異質な「紫色の不純物の操作核」が、楔のように突き刺さっていた。

アルマが掲げる魔道具から伸びる、目に見えない死の同調線。

 その不純物の核が、水神の脳神経へと無理やり偽りの命令を送り込み、大龍脈の濁流を強制的に暴走させているのだ。


(……見えた。水神そのものが悪意で暴れているんじゃない。アルマの魔道具が、あの頭頂部の不純物核を通して、無理やり水神を操っているんだ……!)

魔力による攻撃は、大龍脈の水圧によって全て再生される。

 だが、あの頭頂部に突き刺さる不純物の核そのものを、むき出しの素手で直接引き剥がすことができれば。

大龍脈の暴走は止まり、水神は正気を取り戻して再び地下の深淵へと帰還する。


道は、一つしかなかった。

ユーリは静かに息を整えると、逃亡を騒ぎ立てていた仲間たちの前へ歩み出た。

 そして、自らの右手の甲を、パシィッと力強く叩いた。


「――あいつを、ぶっ倒そう!」


その一言が放たれた瞬間、全員の表情から戯れの色が完全に消え去った。

街を、人々を、そして全ての日常を取り戻すための、真の最終決戦が幕を開けた。

第59話をお読みいただき、ありがとうございました!


メリッサ様、まさかの「自分の魔術が外れて結界柱を木っ端微塵にした」という特大のやらかし……!(笑)

シエラの「要するに街を破壊するのはメリッサ様ですね」という容赦のない要約に、リタ姐さんの「記録の仕方によっては歴代の魔王と肩を並べるわね」の追撃、最高に笑いました!

さらに「二人で他国へ逃亡よ!」からのヒロインたちの逃避行争奪戦……どんな絶望の中でもブレないこの空気感が大好きです!


そして何より……リタ姐さんのおかげで、本物のリリィちゃんが無事に救出されてバイマンさんの元へ届けられていたこと!

アレンさんの涙、そしてカルトの安堵……本当によかった……!


しかし、全員の最大火力の総攻撃すら一瞬で再生してしまう無敵の水神リバイアサン。

その頭頂部に打ち込まれた不純物の操作核を見抜いたユーリ!


「――あいつを、ぶっ倒そう!」


自らの手の甲を叩き、反撃の号令を下したユーリの格好良さに鳥肌が立ちました……!

次回、空飛ぶ水神の頭上へユーリを送り届けるため、仲間全員の命がけの「空中突破リレー」が始まります!


第3部もいよいよクライマックス! 絶対にお見逃しなく!


――――――――――――――――――――

【読者の皆様へのお願い】

「メリッサのやらかしに大爆笑した!」

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「ユーリの『ぶっ倒そう』が熱すぎて早く続きが読みたい!」

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次回は明日18時40分頃更新します。

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