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【第54話】断絶の魔鎌と反撃の鐘音

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


絶体絶命の窮地に駆けつけた、魔族最高幹部・リターニア!

激突する二人の魔族幹部と、アルマが振るう即死級の凶刃『断絶の魔鎌ネクロス』――。


正面突破が不可能な絶対的強者を前に、ユーリの【眼】と知略が閃きます。

鐘楼に響き渡る大音響と、虚を突く一撃――!


知略とチームワークが織りなす大逆転の第54話をお楽しみください!

「……あら? とうとう本当に敵として邪魔してきたのね、リターニア」


 漆黒の角を夜風に揺らし、アルマが吐き捨てるように目を細めた。

 空間を切り裂いて現れたリターニアは、薄暗い朝靄の中で妖艶な笑みを浮かべ、優雅に髪をかき上げる。


「あなたをぶん殴る機会が訪れたってことじゃない?」


「理解しているのかしら? 私が帝都へ報告すれば、あなたとあなたの周りの部下、全てが反逆者として処分されるのよ?」


「つまり、報告させなきゃいいってことでしょ?」


 リターニアの冷徹な切り返しに、アルマの眉がピクリと跳ね上がった。

 魔族の最高幹部同士が放つ圧倒的な威圧感が正面から衝突し、鐘楼を取り囲む大気が砕け散らんばかりの軋みを上げる。


 だが、アルマの実力は幹部の中でも屈指であった。


「口先だけの裏切り者が……調子に乗るなァッ!!」


 アルマが手にした巨大な死神の鎌――『断絶の魔鎌ネクロス』を猛然と旋回させた。

 鎌の刃に埋め込まれた紫色の不純物核が激しく発光し、大気中のマナを貪欲に吸い上げながら、触れるもの全てを即死させる巨大な魔力の嵐を巻き起こす。


 ドゴォォォンッ!!


 リターニアの展開した『虚無の遮断領域』に鋭い亀裂が走り、横から斬り込もうとしたシエラの魔導剣が凄まじい負荷に悲鳴を上げた。

 二人がかりで防戦に回っても、アルマの放つ圧倒的な破壊の奔流を押し返すことができない。


「くっ……なんという力……!」


 シエラの肩から鮮血が滲み、リターニアの額にも焦燥の汗が浮かぶ。

 このままでは全滅する――ユーリの【眼】は、その破滅的な未来を冷静に測っていた。


 ユーリは瓦礫の陰へ身を沈めながら、二人の背中へ向けて短く鋭く声を放った。


「リタ、シエラ! 考えがある。奴をしばらくの間、引き付けてくれ!」


「ユーリ殿……!? 承知した!」


 シエラが即座に応じ、ユーリは音もなく死角へと移動を開始した。




 だが、アルマの攻撃は苛烈を極めていた。

 大鎌が一閃するたびに空間が歪み、紫色のマナの刃が石畳を深く抉り取る。


「死ね! 塵となって消え失せよ!」


 リターニアの黒い帳が切り裂かれ、シエラが受け流した衝撃で石畳を滑るように後退する。


「……困ったわね。その『しばらく』も、持ちそうにないわ」


 リターニアの艶やかな唇から、苦い呟きが漏れた。

 正面から打ち合うだけでは時間の問題で防壁が砕かれる。ユーリが仕掛けるまでの隙を、どうしても創り出さねばならない。


 その時、リターニアの視界の端に、広場の中央にそびえ立つ巨大な青銅の大鐘が映った。

 リターニアの瞳の奥で、閃きが鋭く走る。


 リターニアはシエラのすぐ横へと身を滑らせ、敵に悟られぬよう小声で囁いた。


「シエラ、私の合図で鐘楼を攻撃して」


「……了解!」


 シエラは一切の疑念を挟まず、柄を握る手に全魔力を凝縮させた。


 一方、ユーリが瓦礫の影へ身を潜めようと動く姿を、アルマの紅い瞳は見逃さなかった。


「あはは! どーせ、あなた達が囮になって、そっちの少年が隙を見て私を攻撃しようってことでしょ!」


 アルマは嘲笑いながら、リターニアとシエラを強烈な魔力波で弾き飛ばすと、標的をユーリへと一気に切り替えた。

 猛烈な速度で肉薄し、ユーリの隠れる瓦礫ごと叩き割らんと、死神の大鎌を高く振り上げる!


「死になさい、人間のがらくたぁッ!!」


 アルマの確信に満ちた一撃。

 だが――まさにその瞬間、リターニアの声が響いた。


「今よ、シエラ!」


「はぁぁぁッ!!」


 シエラが大地を蹴り、アルマではなく、背後にそびえる青銅の巨鐘へ向けて魔導剣を一閃させた。


 ゴォォォォォォン――……ッ!!!!


 空気を震わせる凄まじい大音響が炸裂する。

 その轟音の波紋へ、リターニアが全魔力を注ぎ込み、音波そのものを極大の精神干渉へと変換する広範囲術式を発動した。


「狂い咲きなさい――《響宴の幻惑律《ノクターン・レゾナンス》》!!」


「な……ッ!? 視覚と聴覚が……狂う……!?」


 目と耳を同時に焼かれたアルマの視界から、眼前にいたはずのユーリの姿が一瞬にして掻き消えた。


「くっ……! 本命は、鐘楼による音波攻撃だったのか……!?」


 錯乱し、背後の鐘楼へと振り返ろうとしたアルマ。

 その無防備な死角から、冷徹な声が間近に響いた。


「――いやいや、やっぱその鎌が目的だよ」


「な……にっ!?」


 アルマが息を呑んだ瞬間、ユーリはすでに死神の鎌のすぐ懐へと飛び込んでいた。


 一切の武器を持たないむき出しの右手。

 その手を、『断絶の魔鎌ネクロス』の刀身の根元に埋め込まれていた、紫色の禍々しいマナの核へと直接叩きつけた!


 掴む。

 そして――全身の全体重をかけ、力任せに一気に引き剥がした!!


「剥がれろぉぉぉーーーーッ!」


 ビリリィーー……ッ!!


 空間を引き裂くような凄まじい破裂音が響き渡る。

 大鎌に宿っていた紫色のマナの不純物が、実体のある薄膜のようにユーリの手によってベリベリと強引に引き剥がされ、大気の中へと一瞬にして霧散・消滅していった。


 パキィィィン……ッ!!


 根源の力を奪われた『断絶の魔鎌ネクロス』は、ただの錆びついた鉄屑と化し、アルマの手の中で粉々に砕け散った。


「わ、私の魔鎌が……素手で……破壊されただと……!?」


 アルマは砕けた破片を見つめ、激しい屈辱と狼狽に顔を歪めた。


「おのれ、がらくた風情がァッ! 戻れ、我が力よ!!」


 アルマは狂乱のまま、破損した鎌の柄へ向けて強引に自身の莫大な魔力を注ぎ込んだ。

 だが、マナの結合をユーリに破壊された魔道具に、魔力を受け止める回路は残されていない。


 ギュルルルルルッ……ドガァァァンッ!!


 行き場を失った膨大な魔力が瞬時にオーバーフローを起こし、激しい逆流のバックファイアとなってアルマの顔面で大爆発した!


「ぎゃあああああっ……!!」


 アルマの悲鳴が響き渡る。

 吹き飛んだ破片と魔力の暴発が、アルマの左目を深々と切り裂いていた。

 鮮血が滴り落ち、左目を押さえて膝をつくアルマ。その残された右目には、狂乱と殺意が煮えたぎっていた。


「お、おのれぇ……! このままで済むと思うな……ッ! ユーリとか言ったな、貴様は必ず……ずたずたに引き裂いてやるからなァァッ!!」


 血を撒き散らしながら、アルマは激しいマナの突風を巻き起こした。

 紫色の霞となって闇の中へと溶け込み、猛烈な速度でその場を撤退していった。




 アルマの気配が完全に消え去り、静寂を取り戻した鐘楼の広場。

 だが、その静けさは安堵をもたらすものでは決してなかった。


 ユーリの右目の奥に、チリチリと焼けるような強烈な痛みが走る。

 【眼】を開放し、鐘楼の中心部、そしてその上空へと視線を向けた瞬間――ユーリは息を呑み、その場に凍りついた。


「……な、んだ……これ……は……」


 シエラもまた、魔導剣を構えたまま目を見開き、顔から血の気を失わせていた。


「なんという……不気味な魔力の脈動だ……。大気が……軋みを上げて引き裂かれそうになっている……」


 大鎌が破壊された衝撃の余波で、『風詠の鐘楼(ふうえいのしょうろう)』の土台そのものが内側から完全に砕け散っていた。

 そこから漏れ出していたのは、王都の地下深くを巡る【大龍脈】の莫大すぎるエネルギーの奔流。

 本来であれば古代の術式によって強固に蓋をされていたはずの魔力の濁流が、結界の完全な崩壊によって制御を失い、目に見えない巨大な渦となって天空へと噴き上がっていたのだ。


 空間そのものが歪み、大気が波打つ。

 『蒼波の祈誓塔(そうはのきせいとう)』、『星霜の鎮魂碑(せいそうのちんこんひ)』、そしてこの『風詠の鐘楼(ふうえいのしょうろう)』――。

 魔導商都グランデールを四方から護り、大龍脈の暴走と魔獣の発生を抑え込んできた【四柱の古結界(しちゅうのこけっかい)】のうち、実に三つまでが完全に破壊され、結界網全体が今にも音を立てて千切れ飛ぼうとしている。


 残された結界は、明後日の建立祭の舞台である『誓約の創世壇《せいやくのそうせいだん》』、ただ一つのみ。

 その最後の柱すら、大龍脈の凄まじい逆流の圧力を一身に受け、風前の灯火のように激しく軋んでいた。


 もしあれが砕かれれば、大龍脈の暴走によって王都は一瞬にして飲み込まれ、大陸全土に魔獣が溢れかえる地獄と化す。


 破滅への秒読みが、すでにここまで進行していたという現実に、ユーリとシエラは凄絶な戦慄を覚えて立ち尽くすしかなかった。


「……本当に、後がないようね」


 リターニアが漆黒のドレスの裾を翻し、噴き上がる大龍脈の歪みを見上げながら、静かに呟いた。

 その妖艶な横顔にも、普段の余裕は消え去り、かつてない険しさが刻まれている。


 リターニアはユーリへと振り返ると、瞳の奥に強い覚悟の光を宿して告げた。


「帝都の監視もあるから、表立って行動することはできないけれど……私も、できる限りのことはするわ。あいつらの思い通りに、この街を滅ぼさせはしない」


「リタ……ありがとう」


「お礼は、明後日の正午を生き延びてからにして頂戴」


 リターニアは薄く微笑むと、足元の影へと沈み込むようにして姿を消し、朝の光の中へ完全に去っていった。


 残された鐘楼の広場に、冷たい朝風が吹き抜ける。

 空が白み始め、決戦前日の一日が始まろうとしていた。


 崩壊寸前の古結界、囚われたリリィ、そしてアレンの握る復讐の黒鉄。

 すべての因縁が収束する明後日の『建立祭』へ向けて――運命の歯車が、いよいよ最終局面へと動き出そうとしていた。



第54話をお読みいただき、ありがとうございました!


「――いやいや、やっぱその鎌が目的だよ」

シエラの鐘撃とリタの幻惑を囮にして、アルマの死角から凶悪な大鎌を素手で「ビリリィーー……ッ!!」と引き剥がしたユーリ!

魔力を無理やり注いで自滅し、目を負傷して逃げ出したアルマ……最高にスカッとする大逆転でしたね!


しかし、アルマを退けたものの、風詠の鐘楼は崩壊。

街を護る【四柱の古結界】のうち、実に3つまでもが完全に破壊されてしまいました……!


残された結界は、明後日の建立祭の舞台『誓約の創世壇』ただ一つ。

破滅のタイムリミットが刻一刻と迫る中、拠点へ戻ったユーリたちを待つ「決戦前夜」とは――!?


次回、ルシアンの部下メンフィスの来訪、そしてアレンさんとの深夜の対峙……物語は最大の山場へと向かいます!


――――――――――――――――――――

【読者の皆様へのお願い】

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「アルマざまぁでスッキリした!」

「いよいよ決戦が近くてワクワクする!」

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次回は明日7時40分頃更新します。

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