【第52話】四柱の古結界とラフな夜会
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大罪人として手配され、命からがら『酔っ払い亭』の地下隠れ家へと逃げ延びたユーリたち。
過酷な連戦の重圧から解放され、今宵はみんなで重い装備を脱ぎ捨てて、バイマン特製の豪華料理を囲みます!
しかし、穏やかな団欒のなかでシエラから語られたのは、すでに3つの結界が破壊されていたという戦慄の事実――。
街を、そして世界を破滅から救うための反撃がここから始まります!
それでは、第52話をお楽しみください!
『酔っ払い亭』の地下に隠されたシェルターのリビングには、暖炉の温かな炎がゆったりと揺らめき、木目の壁に優しい影を投げかけていた。
蒼波の祈誓塔での爆発、そして恐ろしいアルマとの遭遇を生き延びた一行は、重い鎧や過酷な戦装束を脱ぎ捨て、普段この地下で過ごす際と同じ着慣れたラフな部屋着姿で寛いでいた。
エリアナは白銀の甲冑を外し、ゆったりとした薄手のカットソーにジーンズという落ち着いた佇まい。普段の凛とした騎士の姿との落差はあるが、本人も安らぎの時間を楽しんでいる。
シエラは大きめの無地Tシャツにスウェットパンツという実に無頓着な格好で、大真面目な顔で姿勢を正して座っている。
キャシーは給仕服を脱いで動きやすいラフなタンクトップ、メリッサもゆったりとした部屋着のドレス姿であった。
「アレンさんの様子は、どう?」
ソファーに腰かけ、ユーリが静かに尋ねると、キャシーが寂しげに目を伏せながら答えた。
「右腕の火傷がやっぱりひどくてね……。放水魔導器の逆流を受けたから、皮膚だけじゃなくて神経まで損傷しちゃってるの。今はパパが抑えの軟膏を塗って、二階の客室で静かに眠ってもらってるわ。明日、あたしが集中して治癒魔法をかけ続けるつもりだけど……」
「そうか……。アレンさんには、何としても回復してもらわないとな」
街を守るために命と同義である切り札を打ち砕かれ、さらに身体まで傷ついた職人の無念を思い、胸の奥が痛む。
重苦しい空気が漂いかけたその時、地下へと続く階段からズシリとした重い足音と共に、酒場の店主バイマンが大きな木製の盆を抱えて降りてきた。
「おいおい、そんな暗気な顔してちゃあ、せっかくの飯が不味くなるぞ! 今日はとっておきだ、腹いっぱい食って元気を出しな!」
バイマンがドスンとテーブルに並べたのは、香ばしい湯気を激しく立ち上らせる巨大な皿であった。
特製大香草と熟成魔獣肉の石窯焼きパイ包みプレート&芳醇ハーブパン。
こんがりと黄金色に焼き上がったパイにナイフを入れると、とろりとした濃厚な肉汁と、食欲を激しく刺激するハーブの香りが一気に部屋中へ広がった。
「うおおおっ!! バイマン、これ、あの滅多に仕入れられない魔獣肉の最高級部位じゃねえか!」
ルシアンが真っ先に目を輝かせ、豪快にパイを崩して肉を口へ運んだ。
ジューシーな旨味が口いっぱいに弾け、疲弊しきっていた全身の細胞へみるみる活力が満ちていくのが分かる。
「お、美味いですわ……! 焼き立てのパンと、この濃厚な肉汁が絶妙に絡み合って……!」
エリアナも上品ながら勢いよくスープとパイを口にし、シエラも無表情ながら猛烈な速度でナイフとフォークを動かしている。
「美味いな。肉の熱量が、肉体の損傷と疲労を急速に癒やしていくのが体感できる」
「へへ、そうでしょう! うちのパパの石窯焼きは絶品だから!」
キャシーが誇らしげに胸を張り、メリッサも大人の落ち着いた表情でパイを頬張りながら、満足そうに瞳を細めた。
「ええ、バイマンの料理は相変わらず美味しいわね。……さて、身体も温まったところで、本題の報告と行きましょうか」
食事が一段落し、バイマンが皿を下げて上がっていくと、一同はテーブルを囲み、表情を引き締めた。
シエラが静かに立ち上がり、全員の視線を集める。
「まずは私から説明させてもらおう。ここでご存じない方もおられるだろうから、リターニア様の事から説明させてもらう」
シエラは無地のTシャツの胸元を正し、澄んだ声で言葉を続けた。
「リターニア様は、隣国帝都の魔族幹部であられるお方だ。前回の件も含め、この街の人間へ被害を拡大する作戦には一貫して反対しておられる。……裏で人間側に協力的なお方がおられるようだが、私にはその背景までは分からん」
シエラの発言に、ルシアンやエリアナは静かに耳を傾けている。
「だが、リターニア様は前回の不穏な動きによって、現在敵組織から極めて厳しい監視下に置かれている。そのため、表立って妨害工作を行うことができず、私へ極秘に連絡を入れる形でしか協力できない状態なのだ」
「なるほどね。だからシエラを通じてしか情報が届かないわけね」
メリッサが顎に手を当てて頷く。シエラは深く一礼し、さらに決定的な事実を口にした。
「そして……先ほどリターニア様から密かに届いた情報なのだが。ユーリ殿たちがまだ確認しておられない場所で、すでに新たな被害が出ているという。……王都南部に位置する『風詠の鐘楼』だ」
「『風詠の鐘楼』……!?」
エリアナが眉をひそめて声を上げた。
「あそこは確か、一ヶ月ほど前に定期修復工事中の事故ということで、立ち入り禁止区域に指定されていたはずですわ」
「ええ。だが、リターニア様によれば、事故じゃないと。アルマの手によって、密かに内部から破壊したという確かな情報を掴んだそうです」
「修復工事の事故に見せかけて……最初から破壊されていたというの!?」
キャシーが驚愕して叫ぶ。ユーリも眉をひそめた。蒼波の祈誓塔で視たあの不気味な不純物の導線、そしてアルマの冷酷な嘲笑が脳裏をよぎる。
その時だった。
静かに話を聞いていたメリッサが、ハッと深緑の瞳を見開き、勢いよくテーブルを叩いて立ち上がった。
「ちょっと待ちなさい……! 『蒼波の祈誓塔』、『星霜の鎮魂碑』……そして『風詠の鐘楼』……! それって、この街の根幹をなす【四柱の古結界】の三つじゃないの!!」
「四柱の古結界……?」
聞き慣れない言葉に、ルシアンやエリアナ、ユーリが首をかしげる。
メリッサは落ち着いた大人の声を荒らげ、テーブルの上に古代の地図を投影させた。
「この街の地下には、莫大なエネルギーを持った【大龍脈】が流れているのよ。その莫大な魔力の循環は、人々の生活や魔導インフラに計り知れない恩恵をもたらしているけれど……同時に、強大な魔獣を生み出し、外部から狂暴な個気を引き寄せてしまう劇薬でもあるの」
メリッサの指先が、地図の四方を指し示す。
「大昔、その大龍脈から生じる魔獣を抑え込むために張られたのが、四つの要所を守る『四柱の古結界』よ。……そう、この街は元々、結界によって魔獣の脅威を完全に抑え込んだ後に造られた街なのよ!」
「な……なんだって……!?」
ルシアンが絶句する。
「つまり、その結界がすでに三つも壊されているということですか……!?」
エリアナの叫びに、メリッサは重々しく首を振った。
「脅威は、カルトの爆弾どころの騒ぎじゃないわ。もし明後日の建立祭で、最後の四つ目の結界まで解かれるようなことがあれば……街が吹き飛ぶだけじゃない。大龍脈から無限に魔獣が噴き出し、この街はおろか、大陸全体が魔獣の群れによって蹂躙されることになるわね」
地下室に、息を呑むような重絶な静寂が落ちた。
カルトやアルマが企てている陰謀の、本当の恐ろしさ。それは魔導商都グランデール一都市の破壊にとどまらず、世界そのものを瓦解させる大災厄であったのだ。
「……冗談じゃねえぞ……。建立祭は……明後日だろ!?」
ルシアンが拳を握りしめ、冷や汗を拭う。
メリッサは壁に掛けられた魔導時計を指し示し、キッとした強い眼差しで仲間たちを見渡した。
「ええ。だからこそ、明日の丸一日を使って、現状の把握と防衛策を完璧に練り上げる必要があるわ。……全員、明日の役割分担を決めるわよ」
メリッサの指示に、全員が真剣な顔で背筋を伸ばした。
「まず、ルシアンとエリアナ。あなたたち二人は、四柱の古結界の最後の封印がされている『誓約の創世壇』の調査に向かいなさい。明後日の建立祭でメインステージが置かれ、大勢の市民が集まる最重要拠点よ。警備の本隊を仕切るあなたたちが、あらかじめ地形と異変がないかを洗っておくのよ」
「了解だ! 『誓約の創世壇』は絶対に死守して見せる!」
「かしこまりましたわ! 警護隊の配置を含め、万全を期します!」
ルシアンとエリアナが力強く頷く。
「キャシー。あなたは明日は二階にこもり、アレンの治療に専念しなさい。あなたの治癒魔法で、何としてでも明後日までにアレンの腕を動かせる状態まで回復させるのよ。爆弾の解体には、あの男の職人技が絶対に不可欠なんだから」
「任せて! パパの特製薬とあたしの魔法で、絶対に明後日までに復活させてみせるわ!」
キャシーが力強く腕を撫で下ろす。
「私は明日、大図書館と資料館で古代文書から『四柱の古結界』を再封印するための術式を解読するわ。……そして、ユーリ」
メリッサの視線が、ユーリへと向けられた。
「ユーリはシエラと一緒に、すでに壊されたという『風詠の鐘楼』の現地を見てきなさい」
「……『風詠の鐘楼』に? でも、結界の破綻や魔力の大きさを見る力なんてないよ?」
ユーリが問いかけると、メリッサはふっと笑みを浮かべた。
「魔力の大きさや異変は、シエラが感じ取れるわ。……でも、私の勘が正しければ、アルマの奴らは『風詠の鐘楼』に何らかのトラップを残している可能性が高いわ。もしそこに、マナを直接利用した特殊な魔道具や仕掛けが施されていたら……あなたが行って、解除するしかないのよ」
「……そうか。分かった。シエラ、頼むよ」
「承知した、ユーリ殿。我が身を賭してユーリ殿の露払いと警護を務めよう」
シエラが胸に手を当て、真摯な瞳で力強く頷いた。
明後日に迫る、運命の建国四百周年『建立祭』。
街を、そして大陸全体を壊滅させようとするアルマの陰謀を阻止するため。
そして、カルトの手から無事にリリィを取り戻すため。
明日の前日調査へ向け、仲間たちはそれぞれの胸に熱い覚悟を宿し、静かに立ち上がった。
「よし……どんな罠が仕掛けられていようと、全部この手で引き剥がす」
目の奥に静かな【眼】の光を宿し、ユーリは決意の言葉を噛み締めた。
第52話をお読みいただき、ありがとうございました!
バイマン特製の『石窯焼きパイ包みプレート』、飯テロすぎましたね……!
しかし、明かされた真実はあまりにも衝撃的でした。
『塔蒼波の祈誓塔』『星霜の鎮魂碑』、そしてすでに破壊されていた『風詠の鐘楼』――。
王都の地下を流れる『大龍脈』を抑え込む【四柱の古結界】のうち、実に3つまでもがアルマの手によって落とされていたとは……!
残された結界は、明後日の建立祭の舞台『誓約の創世壇』ただ一つ。
明日の前日調査へ向け、ユーリとシエラは危険な『風詠の鐘楼』へと向かいますが……そこに待ち受ける罠とは!?
次回、魔族の美しき幹部・アルマとの直接対決が幕を開けます!
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