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【第46話】森の丘公園の激震と三ツ首の番犬

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


旧アニマギアス工房の資料室に閉じ込められ、起動してしまった新たなバイオパーツ爆弾。

刻一刻と削られていくカウントダウンの中、ユーリとアレンは再び過酷な解体へと挑みます。


しかし、王都を呑み込もうとする悪意は、それだけに留まらず――!?

息つく暇もなく押し寄せる危機と、知略の限界突破バトル!


果たして密室を突破することはできるのか。そして、街を揺るがす次なる異変の正体とは――。


緊迫感とスピード感が一気に加速する第46話、どうぞ最後までお楽しみください!

「……落ち着くんだ、アレンさん」


資料室の中央、不気味なエメラルドグリーンの光を放ちながら波打つ肉塊――バイオパーツ。

 その上に刻まれたデジタルタイマーの赤字が、残酷なカウントダウンを刻み続けていた。


【 00 : 14 : 52 】


【 00 : 14 : 51 】


前回の展望台での解体劇を経験したユーリは、激動する事態の中でも冷静さを失っていなかった。眼の奥に全意識を集中させ、自身の特殊な【眼】を限界まで開放する。

 視界から実体的な色彩が削ぎ落とされ、『マナ』の流線が鮮やかに浮かび上がる。

緑色の肉塊が自律修復のために脈動する表面の奥深く。他とは決定的に異なる「紫色の不純物」が、一箇所に強烈に収縮して渦巻いていた。


(……見えた。表面の増殖ケーブルじゃない。この肉塊全体に成長と修復を命じている『成長核』の波形)


「アレンさん、表面の配線には手を出さなくていい。肉塊の右奥、根元の深部。角度四十度、奥へ一気に突き刺せば、システムは完全に止まる」


ユーリの明確な指摘に、顔を蒼白にしていたアレンが一瞬目を見開いた。だが、職人としての長年の勘とユーリの能力への絶大な信頼が、アレンの手元から一切の迷いを打ち消す。


「よし……! ここだな! 『逆位相の自滅回路』を起動させる!」


「逆位相の……自滅回路?」


アレンは極細の加工刃を逆に握り直しながら、職人の鋭い眼光で肉塊の奥を睨み据えた。

「並列回路とバイオパーツは、複数のマナの波長を寸分の狂いもなく同調させることで自律成長と起爆のエネルギーを維持している。


ならば、本来同期させるべき波形と完全に正反対の波形――『逆位相』の魔力信号を核心へ直接叩き込んでやれば、回路内の同調は内部から崩壊し、バイオパーツそのものが激しい拒絶反応を起こして活動を停止するはずだ!」


アレンの職人技の冴えが一閃し、肉塊が弛緩したコンマ数秒の隙を突いて、奥深くの結節点へ加工刃が一刺し叩き込まれた。

 ミリ単位の狂いもない神技の一撃。


ギギギギギッ……ジュウゥゥ……ッ!!


逆位相の信号が流し込まれた瞬間、並列回路全体に致命的な拒絶反応が奔った。

 エメラルドグリーンの肉塊が痙攣するように激しく波打ち、内部から紫色の不純物の核が、逃げ場を失って表面へと無理やり押し出されるように浮き上がってくる。


「ユーリくん、今だ! 拒絶反応でマナの核が浮いている間に、動力源を引き剥がしてくれ!」


「任せて!」


ユーリは迷わず右手を突き出し、拒絶反応で剥き出しになった紫色の不純物核を素手でガッシリと掴み取った。

 バイオパーツの活動力となっているマナの供給源。

 全身の力を込め、力任せに一気に引き千切る!


「剥がれろぉぉぉーーーーッ!」


ビリリィーー……ッ!!


空間を裂く重厚な破裂音と共に、不純物の核が実体のある薄膜のようにユーリの手によってベリベリと剥がれ落ち、大気中へと霧散していった。


『シューゥゥゥゥ……ッ!!』


耳を劈くような甲高い蒸気音が湧き上がり、肉塊を巡っていた怪しい光が一瞬にして失われ、黒い澱みとなって崩れ落ちていく。

 タイマーの数字が消灯し、爆弾は今度こそ完全に沈黙した。


「……ふぅ……止まった……!」


アレンが脱力したように膝をつく。だが、二人が閉じ込められている空間遮断結界と重厚な鋼鉄の隔壁は、依然として退路を塞いでいた。

 ガラスの向こう側から、ルシアンが大剣を叩きつける激しい音が響いている。


「ユーリ! アレンさん! 無事か! 今、この壁をぶっ叩いて破ってやるからな!」


「待ってくれ、ルシアン。大剣でもこの不純物の結界は切れない」


ユーリは、閉じ込められた隔壁の表面へと歩み寄った。

 隔壁の継ぎ目を覆う、不気味な紫色の不純物の糸。人体を内側から崩壊させる危険なトラップ。

 だが、一切の魔力を持たないユーリの手にとっては、ただの「掴んで剥がせる不純物」に過ぎない。

むき出しの素手で、紫色の不純物の網目へと手を伸ばす。

 しっかりと握り込み、足を踏ん張って力任せに引き剥がした。


「時間をかければ、何とか剥がせるっ!  剥がれろぉぉぉーーーーッ!」


ビリリィーー……ッ!!


強烈に貼り付いたテープを力尽くで剥がしたかのような、重厚な破裂音が資料室に響き渡る。

 隔壁を覆っていた紫色の不純物が実体のある薄膜のようにユーリの手で剥ぎ取られ、大気中へと雲散霧消していった。

不純物の補強を失った鋼鉄の隔壁が、音を立てて崩れ落ちる。


「ユーリっ!!」


「ユーリ、アレンさん! 無事だったのね!」


飛び込んできたキャシーとルシアン。

 アレンは無傷で空間を突破したユーリの手元を見つめ、「素手で不純物の結界を……」と呆然と呟いていたが、ルシアンは「流石だなユーリ!」と嬉しそうに肩を叩いた。




「……助かった。だが、カルトは資料を奪って逃げた。一体奴の真の狙いは――」


アレンが言葉を紡ぎかけた、その瞬間だった。


ドォォォォォンッ……!!!


旧工場の建物全体を激しく揺らす、地鳴りのような重低音が響き渡った。

 半壊した高窓の向こう、王都北部の方向――『森の丘公園』の上空に、夜空を赤黒く染め上げる禍々しいマナの光柱が立ち昇っていく。


「な……なんだ、あの光は……!?」


ルシアンが窓の外を指差し、目を見開く。

 同時に、ユーリのポケットの中で通信魔道具『マギストーン』が狂ったような警告音を鳴らし、青い光を激しく明滅させた。


マナを通すと、飛び込んできたのは聖騎士団長エリアナの、今までに聴いたこともないような切迫した叫び声だった。


『ユーリ様! 大変ですわ! 王都北部の「森の丘公園」の地脈が突如として激しく歪み、大量の魔獣が発生いたしました!』


さらにスピーカーの奥から、銀髪の女剣士シエラの鋭い声が重なる。


『ユーリ殿! 発生した魔獣の中に、全高十メートルを超える三つの首を持った巨獣を確認……! 伝承に謳われる地獄の番犬、「ケルベロス」に間違いありません!』


「ケルベロス……!?」


アレンが息をのむ。


『王都警護隊と我らで防衛線を構築しておりますが、三つの首の連携が苛烈を極め、被害が拡大しております! 速やかにお力をお貸しください!』


通信が切れ、ユーリは歯を食いしばった。


(カルトの奴……旧工場で時間を稼いでいる間に、森の丘公園で本命の多重テロを引き起こしたんだ……!)


ユーリが駆け出そうとしたその時、アレンが真剣な面持ちで声を張り上げた。


「ユーリくん! 私は一旦、自分の工房へ戻るよ!」


「え……? 工房へ?」


立ち止まったユーリへ、アレンは悔しさに唇を噛み締めながら告げた。


「カルトに奪われた『開発データ』のことがどうしても気になるんだ。あいつがこれから何を組み上げようとしているのか……過去の資料の控えや、奴の狙いを特定できる手がかりが工房に残っていないか探してみる! それに私が現場へ行っても、巨大な魔獣の前では足手まといになるだけだからね」


職人として、そしてカルトの元師として、自らの足で真実に迫ろうとするアレンの覚悟。その判断は極めて合理的だった。


「わかりました! アレンさん、くれぐれも気をつけてください! 危険を感じたらすぐに逃げてくださいね!」


「ああ、任せてくれ! リリィのこともある、絶対に無茶はしないさ。……ユーリくんたちも、どうか無事で!」


アレンは強く頷くと、工具箱を抱えて下町の方角へと走り去っていった。

 ユーリはその後ろ姿を見送り、ルシアンとキャシーへ向き直る。


「ルシアン、キャシー! 森の丘公園へ急ぐぞ!」


「おうっ! 俺の風の加護で一気に押し通るぞ!」


ルシアンが身体に風のマナを纏わせ、一行は旧工場の廃墟を飛び出し、赤黒い光柱が上がる王都北部へと全速力で突進した。




かつて市民の憩いの場であった『森の丘公園』は、今や地獄の様相を呈していた。

 砕け散った石畳、倒れ伏す大木、そして逃げ惑う市民たちの悲鳴。

 その混沌の中心に、黒い炎を全身から噴き上げる異形の巨獣――全高十メートルを超える『ケルベロス』が鎮座していた。


「グアァァァァァッ!!」


三つの首が同時に天を仰いで咆哮すると、凄まじい衝撃波が大気を揺らす。


「退がりなさい! 氷結の壁よ、我が盾となれ!」


エリアナが魔導剣を掲げ、巨大な氷の防壁を展開して逃げ遅れた子供たちを庇う。だが、ケルベロスの真ん中の首が放つ黒い火炎弾の一撃で、厚い氷壁が一瞬で砕け散った。


「くっ……なんという威力……!」


「エリアナ殿、下がるな! 居合――『閃影《せんえい》』!」


シエラが神速の踏み込みから銀光の一閃を繰り出し、ケルベロスの足元を狙う。しかし、右側の首が瞬時に放った不透明な魔力障壁に弾かれ、シエラは激しい火花と共に後方へ着地を余儀なくされた。

そこへ、駆けつけたルシアンが聖大剣クラドを振りかざして躍り出る。


「喰らいやがれ! 《風穿つ一閃《ヴォルテックス・スラッシュ》》!」


風の刃が左側の首へ迫るが、その首は刃を見ることすらなく、微かな匂いを嗅ぎ分けるように鼻先を動かすと、最小限の頭部の動きでルシアンの必殺技を回避してみせた。


「なにっ!? 動きを読まれただと!?」


「ルシアン! シエラ! エリアナ!」


後方から追いついたユーリの叫び。

 ルシアンたちは間合いを取りながらユーリたちと合流するが、汗みずくの顔には苦戦の色が濃かった。


「ユーリ、コイツは危険すぎる! 三つの首がそれぞれ完璧に連携していて、剣も魔法も全部捌かれちまうんだ!」


エリアナも息を乱しながら刃を構え直す。


「攻撃を仕掛けようとしても、右の首が即座に魔力障壁を展開し、左の首がこちらの位置を完璧に把握して反撃してきますわ……!」


ユーリは少し離れた岩陰から、三ツ首の巨獣ケルベロスへと鋭い視線を向けた。

 眼の奥に集中を促し、【眼】を開放する。

 視界から実体的な色彩が消え去り、ケルベロスを構成するマナの流れが可視化される。

その視界を目にした瞬間、ユーリの背筋に猛烈な戦慄が走った。


(……な、んだと……!?)


この異世界において、人間も魔物も、およそあらゆる生物の活動源は「魔力」である。体内から世界を構築する根本プログラムシステムである「マナ」が発生することなど、絶対にあり得ないはずだった。

この世界でマナを直接捉えられるのは、魔力ゼロで異質なる存在であるユーリただ一人。


しかし――目の前のケルベロスの体内には、太い血管のように、目にも鮮やかな『マナの導線』が精密に張り巡らされていた。

 そして、その関節や内部機構の節目には、紫色の不純物(エラー)の繋ぎ目が不自然に刻み込まれている。


(生物に……魔物に、マナの導線が通っている……!? そんなことがあってたまるか! こいつは……自然に発生した魔物なんかじゃない。マナの技術によって組み上げられた『人工物』だ!!)


どのような技術で創り出されたのかまでは判断がつかない。だが、これだけの巨獣が、何者かの手によって意図的に生み出された人工の兵器であるという真実。カルトやその背後にいる組織の底知れぬ狂気に、ユーリは息をのんだ。


だが、人工の存在であるがゆえの「破綻」もまた、ユーリの【眼】には見えていた。

 三つの首。それぞれから放出されるマナの光線と、その流線の不自然な「偏り」。

 万物を動かすシステムとしての不具合――「構造不具合(バグ)」をじっと観察する。


(三つの首が完璧に連携しているように見えて……マナの処理が完全に分断されている……!)


ユーリの【眼】が、決定的な違和感を捉える。

 右側の首から伸びるマナは、エリアナの魔法やルシアンの魔剣が放つ『魔力』に対してのみ過敏に反応し、自動で防衛障壁を展開している。だが、魔力を帯びないただの土石の飛散には一切反応していない。


 中央の首から伸びるマナは、光の反射――つまり『視覚』のみで物体の動きを捉えて攻撃を行っている。

 そして、左側の首から伸びるマナは、大気を漂う『匂い(嗅覚)』のみを極端に感知し、視界の死角からの接近を嗅ぎ分けている。


(……そういうことか。コイツらは完璧な単一の生命体じゃない。三つの首が、それぞれ一つの感覚(バグ)でしか世界を認識できていないんだ!)


知覚の偏りという、人工物ゆえの致命的なシステムのエラー。

 ユーリは岩陰から身を乗り出し、前線で構える仲間たちに向かって、声の限り叫んだ。


「みんな、聞いてくれ! あのケルベロスは本物の魔物じゃない、マナで創られた人工物だ! そして三つの首にはそれぞれ一つの感覚でしか世界を捉えられない『構造バグ』がある!」


ユーリの叫びに、ルシアンとエリアナ、シエラがハッと息をのむ。


「右の首は『魔力』しか見えていない! だから魔法や魔剣は防がれるが、ただの石ころには反応できない!」


「中央の首は『視覚』だけだ! 光の錯覚や幻惑で簡単に目を眩ませられる!」


「そして左の首は『嗅覚』だ! 強烈な匂いを与えれば、神経が狂って一発で沈む!」


 巨獣の真実と弱点を完璧に見破った知略の指示に、ルシアンが不敵な笑みを口元に浮かべ、聖大剣クラドを力強く構え直した。


「ハッ……! 相変わらず無茶苦茶な『眼』をしてやがるぜ、ユーリ! よぉし、野郎ども、ユーリの指示通りにあのバカ犬を料理するぞっ!!」


「「野郎はあんた(あなた)だけよ」」


エリアナとシエラがジト目でルシアンを見る。


「…………ハッ! 」

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


正直にお話ししますと、毎日たくさんの方に読んでいただけて本当に嬉しい反面、

ブックマークや評価の数字がほとんど動かない現実に、画面の前で「本当に楽しんでもらえているのだろうか……」と心細くなりながら更新ボタンを押しています。


「これからの更新も楽しみに追いたい!」

「ユーリたちの物語を最後まで読みたい!」


と少しでも思ってくださる読者様、どうか画面下の【ブックマークに追加】や、評価欄の【★マーク】をタップして、続きを楽しみにしていることを教えていただけないでしょうか……!

皆様の★評価ひとつ、ブクマひとつが、毎日の執筆と定時更新を続けていく最大の支えになります。

何卒よろしくお願いいたします!


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【3連休特別企画! 1日5話・怒涛の一挙更新中!】

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10月10日(土)〜 10月12日(月・祝)の3連休は、

感謝を込めて【毎日5話ずつ(3日間で計15話)】の超・連続更新でお届けしています!


■ 連休中の更新時間(1日5回)

【朝 07:40頃】/【昼前 11:40頃】/【午後 15:40頃】/【夕方 18:40頃】/【夜 21:40頃】


本日が連休最終日となります!

連休のお供に、ユーリたちの熱い戦いと逆転劇を最後までたっぷりお楽しみください!

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