↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/73

【第45話】旧工場の罠と引き裂かれる背中

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


旧アニマギアス工房の正門に仕掛けられた、触れた瞬間に肉体を崩壊させる最悪の不純物結界。

魔法も大剣も通じない絶体絶命の罠を前に、魔力ゼロの少年ユーリが静かに前へ歩み出ます。


いよいよ狂気の元弟子・カルトとの直接対峙――!

しかし、廃工場の奥底には、さらに狡猾で悪魔的な二重の罠が待ち受けていました。


それでは、怒濤の展開が連続する第45話をお楽しみください!

 月光すら届かぬ暗闇の中、巨大な黒い影のように突っ伏す『旧アニマギアス工房跡地』。

 何年も前に封鎖され、人影の絶えた廃区画。鉄錆と焦げたオイルの臭気が重く漂う正面鉄門の前で、ユーリの制止の声が夜気を切り裂いた。


「待ってっ!! 入っちゃダメだっ!!」


 アレンの服の袖を強く掴み、力任せに後方へと引き戻す。


「うわっ!? ど、どうしたんだユーリ!?」


 アレンが驚いて振り返り、同じく大剣の柄に手をかけていたルシアンや、爪を鋭く構えていたキャシーも咄嗟に脚を止めた。


 ユーリは目を強く押さえながら、正面の巨大な鉄門へと視線を凝らしていた。

 目の奥に、脳を灼くような激しい痛みが奔る。

【眼】が開かれ、世界の裏側に蠢く不気味な構造が露わになった。


 鉄門の表面。そして門を挟む左右の石柱、さらには頭上の鉄骨に至るまで――。

 肉眼では決して捉えられない、不気味で濃密な「紫色の不純物の糸」が、蜘蛛の巣のように隙間なく、びっしりと張り巡らされていた。


 一般的な魔法の結界術式ではない。

 世界を動かす根源のシステムそのものを強引にいじり、物理的に触れた瞬間に体内のマナの流れを乱壊させ、肉体を内側から崩壊させる最悪の不純物トラップ。


「門全体に、触れた瞬間に人体を破綻させる不純物が仕掛けられている……! カルトの奴、最初からここで待ち伏せを受ける気なんてなかったんだ。正門に触れた者を、問答無用で全滅させる気だったんだ……!」


 言葉を聞いたアレンの顔からサッと血の気が引き、冷や汗が額を伝った。

 もしそのまま無警戒に門を押し開けていれば、一瞬にして全身が不純物に呑み込まれていたところだった。


「……何て悪趣味な罠だ」


 ルシアンが聖大剣の柄を握りしめ、低く唸る。


「だが、そんな見えない罠を仕掛けられてちゃ、突破のしようがないぞ! 大剣で力任せに叩き切ろうにも、触れた瞬間に危ないとなると……!」


「私が爪で切り拓くわ!」


 キャシーが前へ出ようとするが、それも即座に制止した。


「ダメだ、キャシー。どんな硬い爪だろうが、触れればその瞬間に不純物が侵入する。……やってみるよ」


「え……? ユーリ……?」


 静かに一歩、前へ踏み出す。

 一切の武器を持たない手。魔力すら宿さない、ただの少年の身体。

 だが、その視線には一切の迷いがなかった。

 ユーリはアレンやルシアンたちの制止の声を背に受けながら、紫色の不純物が網の目のように渦巻く鉄門へ向かって、無防備に右手を開いて伸ばしていった。


「ゆ、ユーリ! 何をする気だ、触ったら危ないと今――!」


 アレンが悲鳴のような叫びを上げた、その瞬間。

 ユーリの掌が、触れた瞬間に人体を崩壊させる最悪の紫の糸へと、直接重なった。

 ジュ、と不気味な不快音が弾ける。

 だが、ユーリの皮膚は一切傷つかない。魔力を持たないその手は、世界の理を揺るがす不純物の歪みを、まるで物理的な実体のある「物質」として正確に捉えていた。


 掴む。

 鉄門の表面にべったりと貼り付いていた不純物の根本を、両手でしっかりと掴み取る。

 そして――力任せに、一気に引っぺがした。


 ビリリィーー……ッ!!


 強烈に貼り付いた粘着テープを豪快に引き剥がしたかのような、空間を引き裂く重厚な破裂音が、静まり返った廃区画に激しく轟いた。

 鉄門全体を覆っていた紫色の不純物の網が、実体のある薄膜のようにユーリの素手によってベリベリと剥がれ落ち、大気の中へと一瞬にして霧散、消滅していく。

 不気味な圧迫感が一瞬で消え去り、ただの古びた鉄門へと戻った。


「……な……っ!?」


 後ろで見守っていたアレンが、目を見開いて絶句した。


「そ、素手で……不純物の結界を引き剥がしただと……!? 道具も魔法も使わずに、あの悪夢のような仕掛けを……!?」


 ルシアンも顎が外れんばかりに驚愕し、キャシーに至っては「やっぱりユーリはすごいのね!」と胸を躍らせている。


「よし、道は拓けた。行こう」


 ユーリは静かに言い放つと、剥がし終えたばかりの手を軽く払い、重い鉄門をギィと押し開けた。




『旧アニマギアス工房』の内部は、異様なまでの静寂と冷気で満たされていた。

 天井が高く抜けた大工場跡。

 かつて帝国の兵器開発拠点として稼働していた当時のまま、打ち捨てられた巨大な魔導旋盤や、錆びついた蒸気管、そして焦げた機械油の臭気が重く沈殿している。


 月光が半壊した高窓から斜めに差し込み、巨大な機械の影を黒々と床に落としていた。

 ユーリの【眼】には、この廃工場の暗がりの中に残された「明確な痕跡」が視えていた。

 石畳の薄埃の上に、ごく最近足を踏み入れた者から漏れ出たであろう、不自然な紫色の不純物の足痕が、一筋の光の帯のように奥へと伸びている。


「アレンさん、奴は奥へ向かっている。……案内してもらえますか」


「……ああ。この先にあるのは『中央資料室』だ。かつて我々が研究していたすべての重要データが保管されている場所だよ」


 アレンの案内に従い、一行は足音を殺しながら、迷路のように入り組んだ回廊を速やかに移動した。

 幾重にも重なる重厚な防錆扉を潜り抜け、やがて階層を下りた最深部――重厚な石造りの大扉が立ちはだかるフロアへとたどり着いた。


 だが、その大扉の周囲には、青白い魔導光で編み上げられた極めて強固な保護結界が、びっしりと立ち塞がっていた。


「結界が張ってあるな……。あのいかれた爆弾魔は、まだ来てないのか?」


 大剣の柄に手をかけ、周囲を警戒しながらルシアンが呟く。

 アレンは青白く光る結界を見つめ、複雑な表情で首を振った。


「どうだろうな。来てすぐに結界を張ったのかもしれん。……だが、心配はいらないよ。この中央資料室の結界を解除するの管理魔術キーを持っている」


 アレンは胸元から古びた真鍮製の魔導鍵を取り出すと、大扉の中央にはめ込み、静かに管理用の解呪コードを詠唱した。

 カチリ、と重厚な金属音が響き、扉を覆っていた青白い結界がスーッと大気に溶けて消えていく。


「よし、結界は外れた。……とにかく中に入ろう」


 アレンの言葉に従い、ユーリを先頭に、ルシアン、キャシー、アレンの四人は『中央資料室』の中へと足を踏み入れた。

 壁一面に高々と積まれた膨大な書棚。羊皮紙やバインダーが埃をかぶって静まり返っている広大な空間。


 ユーリ達とは反対の扉が開き、一人の男が入ってきた

 そして部屋の中央、閲覧用の大きなテーブルの横に立つ。


「――ようこそ、アレン先輩。お待ちしていましたよ」


 フードを目深にかぶった男――カルトが、嬉しそうに両手を広げて微笑んでいた。

 その手には、高々と積まれた特別書棚から引き抜かれたばかりの、分厚い黒金属のバインダーが握られている。

 アレンが目を見開き、悲痛な叫びを上げた。


「カルトッ!! そのバインダーは……『開発データ』か!? なぜ……なぜお前がそれを持っている!?」


 カルトは手に持ったバインダーを愛おしそうに撫で、狂気的な笑みを深めた。

「ふふ、分からないのですか、先輩? 僕はね、ずっと喉から手が出るほどこれが欲しかったのですよ。……ですが、この中央資料室に張られた古代結界は、僕の技術ではどうしても解除することができなかった」

 カルトはせせら笑いながら、アレンへと一歩踏み出した。


「だからですよ。……だから、あのかわいいリリィちゃんを『餌』にして、あなたをここへ誘い出したんです。僕の代わりに、この部屋の結界を外させるためにね!」


「な……っ!? 俺に……結界を外させるために……リリィを……!?」


 アレンの顔から血の気が完全に引き、全身が激しく打ち震える。最初からカルトの目的は、アレンの持つ鍵でこの『開発データ』の封印を解かせることだったのだ。


「貴様ぁぁぁッ! リリィをどこへやった! リリィを返せぇッ!」


 アレンが怒りのあまり前へ飛び出そうとした、その瞬間。

 カルトがニヤリと口元を歪め、懐のスイッチを押し込んだ。


 ガンッ!! ガガガガンッ!!


 天井の梁から、何重もの重厚な防錆鋼板と、紫色の不純物を孕んだ空間遮断結界が、凄まじい落破音と共に一斉に降下した!


「なっ……!? 崩れるぞっ!」

 ルシアンの警告も虚しく、その切断隔壁はユーリとアレンのすぐ後ろへと容赦なく叩きつけられた。


 ドカァンッ!!


「ユーリ! アレンさんっ!!」


 隔壁の向こう側で、キャシーの悲痛な叫び声と、ルシアンが大剣を叩きつける激しい衝撃音が響く。

 だが、分厚い鋼鉄と不純物の空間結界は微動だにせず、外にいたキャシーとルシアンの二人を完全に遮断してしまった。


「くっ……! 完全に閉じ込められた……!」


 ユーリはすぐさま壁に向かい、素手で不純物の結界を掴もうとしたが、隔壁全体の構造が複雑に噛み合わさっており、即座に剥ぎ取れるような単純な構造ではない。

 遮断された強化ガラスの向こう側で、カルトが強奪したバインダーを掲げ、優雅に頭を下げてみせた。


「あはは! 感謝しますよ、アレン先輩。これで僕たちの作品は、真の完成を迎えることができます。……ああ、リリィちゃんのことなら心配いりませんよ。彼女は安全なところで『本番の舞台』の準備をしていますからね」


「カルトぉぉぉッ!!」


 アレンの悲痛な叫びが遮断ガラスを叩くが、カルトはあざ笑うかのように背を向けると、資料室の奥にある隠し通路の暗闇の中へと、するりと姿を消してしまった。

 カルトが消え去った直後――。


『……ドクン……! ドクン……!』


 資料室の中央に置かれていた一つの金属ケースから、不気味な脈動音がひびき始めた。

 ユーリとアレンが弾かれたように振り返る。

 金属ケースの蓋が勝手に跳ね上がり、内部から溢れ出してきたのは――淡いエメラルドグリーンの光を放ち、生々しく波打つ半透明の肉塊。


『バイオパーツ』。


 そして、その肉塊の上に設置されたデジタルタイマーに、血のような赤字で【 00 : 15 : 00 】の数字が浮かび上がり、冷酷なカウントダウンを開始した。


『ピッ……! ピッ……! ピッ……!』


「な……っ!? また……またあの生きている爆弾かッ!?」


 アレンが顔から血の気を引かせ、絶句する。

 分断された密室。

 強奪された禁忌のデータ。

 そして、目の前で刻一刻と死を刻み始めた、新たなバイオパーツ爆弾。

 ユーリは歯を食いしばり、不気味に脈打つ緑色の肉塊へと、鋭い【眼】を向けた。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


正直にお話ししますと、毎日たくさんの方に読んでいただけて本当に嬉しい反面、

ブックマークや評価の数字がほとんど動かない現実に、画面の前で「本当に楽しんでもらえているのだろうか……」と心細くなりながら更新ボタンを押しています。


「これからの更新も楽しみに追いたい!」

「ユーリたちの物語を最後まで読みたい!」


と少しでも思ってくださる読者様、どうか画面下の【ブックマークに追加】や、評価欄の【★マーク】をタップして、続きを楽しみにしていることを教えていただけないでしょうか……!

皆様の★評価ひとつ、ブクマひとつが、毎日の執筆と定時更新を続けていく最大の支えになります。

何卒よろしくお願いいたします!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【3連休特別企画! 1日5話・怒涛の一挙更新中!】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

10月10日(土)〜 10月12日(月・祝)の3連休は、

感謝を込めて【毎日5話ずつ(3日間で計15話)】の超・連続更新でお届けしています!


■ 連休中の更新時間(1日5回)

【朝 07:40頃】/【昼前 11:40頃】/【午後 15:40頃】/【夕方 18:40頃】/【夜 21:40頃】


本日が連休最終日となります!

連休のお供に、ユーリたちの熱い戦いと逆転劇を最後までたっぷりお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。