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【第43話】禁忌のバイオパーツと逃亡の記憶

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


展望台での死闘を終え、無事に『酔っ払い亭』へと帰還したユーリとアレン。

出迎えてくれたリリィちゃんや仲間たちとの温かな時間に、張り詰めていた空気がふわりと緩みます。


しかし、安らぎの中で語られるのは、十年前の禁忌と呪われた逃亡の記憶――。

そして、夜の帳が下りた帰り道、ふたりを最悪の悪夢が襲います。


それでは、第43話をお楽しみください!

 全高数百メートルを誇る王都中央の展望台『天の回廊』で起きた、自律成長する爆弾による絶体絶命の危機。

 絶対防御結界が霧散し、命を救われた人々の歓声と安堵の怒号が響く中、ユーリとアレンは駆けつけた聖騎士団の護衛に守られながら、無事に拠点である酒場『酔っ払い亭』へと帰還を果たしていた。


 一階の喧噪を通り抜け、二階奥の事務所兼サロンへ足を踏み入れると、そこには心配そうに待ち触れていた仲間たちの姿があった。


「ユーリ! アレンさん! 無事だったのね!」


 真っ先に駆け寄ってきたのは、タイトな給仕服に身を包んだキャシーだった。ヒョウの耳をぴくりと動かし、涙目でふたりの身体に傷がないかを確かめるように周囲をぐるりと回る。


「無事でなによりですわ、ユーリ様! 爆弾が自律成長して修復するなどという報告を受けた時は、生きた心地がいたしませんでした……!」


 白銀の鎧を揺らして胸を撫で下ろすのは、聖騎士団長のエリアナだ。その隣では、銀髪ショートの女剣士シエラが至極真面目な顔で深く頭を下げていた。


「ユーリ殿。盾としての責務を果たせず失礼した。だが、怪我なく戻られたことに深く感謝する」


「みんな、心配をかけたね。でも、アレンさんのおかげで、なんとか爆弾を無力化できたよ」


 安堵の笑みを浮かべて答えると、それまでアレンの背中にしがみつくように隠れていた小さな少女――リリィが、ひょっこりと顔を出した。


「お父さん! お帰りなさい!」


「ただいま、リリィ」


 アレンはそれまでの疲れきった顔を一瞬で和らげ、目線を合わせるように屈み込むと、大きな手で娘の頭を優しく撫でた。

 そして、上着のポケットから慎重に『何か』を取り出す。


 それは、出発する際にリリィから「お守り」として託されていた、手のひらサイズのきれいに透き通った水晶のような玉であった。


「ありがとう、リリィ。この宝物のおかげで、父さんは最後まで諦めずに戦う勇気をもらえたよ」


「えへへ! 良かったぁ! リリィの宝物は世界一強力なお守りなんだから!」


 小さな手のひらに玉を返されると、リリィは天使のような満面の笑みを咲かせた。

 その光景に、キャシーやエリアナ、シエラたちの表情も一気に緩む。

 キャシーが「さあ、みんなでお祝いのご飯にしましょう! リリィちゃんの大好きな甘い焼き菓子もあるわよ!」と声をかけると、リリィは「わぁーい!」と声を弾ませ、ヒロインたちに囲まれながらテーブルへと向かっていった。


『酔っ払い亭』のアイドル、そしてマスコットとして皆に可愛がられるリリィの存在が、張り詰めていた室内の緊張感をふんわりと解きほぐしていく。

 だが、ユーリとアレン、そして奥のソファーでハーブティーを静かにすすんでいた大賢者メリッサの三人は、自然と部屋の隅にある小さな作業テーブルへと集まっていた。




「……さて」


 メリッサがティーカップをソーサーにコトリと置く。その深緑の瞳には、八百年を生き抜いた大賢者としての凄絶な光が宿っていた。


「あの異様な爆弾……ただの機械や魔法の産物ではないことくらいは察しがつくわ。アレン、あなたの口から直接聞かせてもらえるかしら。過去に何があったのかを」


 アレンは静かに目を閉じ、タコだらけの傷だらけの手をぎゅっと握りしめた。

 少し離れたテーブルで、キャシーたちにお菓子を食べさせてもらって嬉しそうにはしゃぐリリィの笑い声が聞こえてくる。その声に一度だけ温かな視線を向けた後、アレンは重い口を開いた。


「……十年前の話です。当時、俺は帝国の軍事圧力の下で推し進められていた極秘機関……『ガルディノ魔導重工・アニマギアス工房』で、魔道具の開発を担当していました」


 アレンの声は低く、記憶の底に沈んだ冷たい鉄の匂いを漂わせていた。


「そこで研究されていたのが、従来の直列回路(シングルコア)を遥かに凌駕する演算処理能力を持った『並列回路(マルチコア)』でした。……ですが、並列回路には決定的な破綻が存在した。複数のマナの波長を、寸分の狂いもなく同調させる技術が、当時の魔導工学には存在しなかったのです」


「そこで生み出されたのが……あの生きている組織か」


 尋ねると、アレンは苦そうに頷いた。


「そうだ。人工の術式で合わせられないなら、生き物の柔軟な神経細胞を媒介にすればいい……。そうして作られたのが、生体計算機――『バイオパーツ』です。あんなものは技術でも何でもない、命と理を冒涜する禁忌の悪夢でした」


 アレンの指先が小さく震える。


「俺の元弟子であったカルトは……当時、誰よりも純粋に技術を追い求める才能あふれる若者でした。しかし、バイオパーツの開発に深く関わり、その恐ろしい全能感に触れ続けるうちに……あいつの精神は蝕まれ、狂気へと取り憑かれていってしまった」


 アレンは、バイオパーツが完成すれば世界を巻き込む兵器になると確信し、完成寸前で開発データを持ち出して研究室から脱走。

 追手の手を逃れ、王都の片隅で亡き妻と出会い、娘のリリィと共に「日用品の修理屋」として正体を隠し、静かに暮らしてきたのだという。

 アレンの過去の告白を聞き終えたメリッサが、深く息を吐き出した。


「なるほどね。カルトという元弟子は、アレンが逃げ出したことで未完成となった研究を、今になって王都で完成させようとしてるのね」


「……その通りだと思います。ですが、一つ腑に落ちないことがある」


 ここで、これまで思考を巡らせていた内容を口にした。

 自律成長爆弾を解体した際、その基盤の底に刻まれていた、目に見えない紫色の不純物の符号。


「アレンさん。あの展望台の爆弾……ただ街や人を吹き飛ばすためだけじゃなくて、切断された後の自己修復や成長のデータを収集するための『実証テスト場だったんじゃないかな?』」


 明確な確証があるわけではない。しかし、あの異常な修復アルゴリズムと、不自然に残されたマナのエラー符号を思い返すと、単なる破壊工作とは思えなかった。

 ユーリの推測を聞いた瞬間、アレンとメリッサの顔色が変わった。


「テスト……だと……!?」


 アレンが息をのむ。


「つまり、カルトの狙いはあの展望台の爆破そのものではなく、あのバイオパーツがどこまで自律成長できるかを試す実験だった……ということか。だとすれば、奴はこれから……さらに完成された、本物の悪夢を解き放つ気か!?」


「ええ、その可能性は極めて高いわね」


 メリッサが表情を険しくする。

 室内に再び、目に見えない冷たい暗雲が垂れ込めた。

 アレンは両手で顔を覆い、肩を激しく震わせた。自分が過去に引き起こしてしまった過ちの影が、今なお形を変えてこの街を脅かそうとしていることへの激しい悔根。

 ユーリはその肩へ、そっと手を置いた。


「アレンさん。過去に何があったとしても、あなたは今日、己の技術と手で大勢の人々の命を救った。それは紛れもない事実ですよ」


 アレンは顔を上げ、濡れた瞳でこちらを見つめた。


「……ありがとう、ユーリくん。……あの子には、こんな冷たい過去の影すら触れさせたくない。俺は父親として、何としてもあのカルトを止めてみせるよ」




 夜も更け、話し合いをひとまず終えたアレンは、「色々とお世話になりました。リリィ、そろそろおうちに帰ろうか」と娘に声をかけた。


「はぁーい! キャシーお姉ちゃん、美味しいお菓子をありがとう!」


「ふふ、いつでもいらっしゃいね、リリィちゃん! お父さんと気をつけて帰るのよ!」


 キャシーやエリアナ、シエラに見送られ、アレンとリリィは仲良く手を繋ぎながら『酔っ払い亭』を後にした。

 表の通りに出て、下町へと続く緩やかな石畳の坂道を下っていく。

『建立祭』の前夜祭を目前に控え、夜の帳が下りた街には、街灯の魔導ランタンが温かな橙色の光を落としていた。


「お父さん、今日はお空がとっても綺麗だね!」


「そうだね、リリィ。明日はもっと晴れるといいな」


 繋いだ小さな手から伝わる、愛おしい温もり。

 アレンは娘の笑顔を見つめながら、どんな犠牲を払ってでもこの小さな幸せを守り抜くのだと、改めて心の中で強く誓っていた。


 だが――下町の静かな住宅街へと差し掛かり、細い路地裏の角を曲がった、その瞬間だった。

 頭上の魔導ランタンが、バチバチッと激しい不快な火花を散らし、一斉に消灯した。

 周囲が、一瞬にして深い闇へと塗りつぶされる。


「……え……? お父さん……?」


「リリィ、父さんの後ろへ――ッ!?」


 アレンが娘を庇おうと手を引いた、その刹那。

 路地の空間そのものが、まるで重い布を切り裂いたかのようにグニャリと歪んだ。

 不気味な紫色のノイズが闇の中に走り、そこから伸びてきた不可視の術式の手が、アレンの手からリリィの小さな身体を――強引に、容赦なく引き剥がした!


「きゃぁぁぁぁぁっ!? お父さんッ!!」


「リリィーーーッ!?」


 アレンの絶叫が、夜の静寂を破って虚しく響き渡る。

 アレンは振り払われた手を必死に暗闇へと伸ばしたが、指先がかすめたのは、空を切る冷たい夜風だけだった。

 闇の奥へと吸い込まれるように連れ去られていく少女の悲鳴。

 そして、無残に叩きつけられた石畳の上。


 リリィが肌身離さず大切に持っていた、

 あの『きれいに透き通った水晶のような玉』だけが、ポーン、ポーンと虚しい音を立てて転がり、月光の下で冷たく光を弾いていた。

第43話をお読みいただき、ありがとうございました!


「父さんは最後まで諦めずに戦う勇気をもらえたよ」

アレンとリリィちゃんの親子の絆、そして酔っ払い亭での微笑ましいやり取りに心温まったのも束の間……。


ラストの路地裏で、まさかのリリィちゃん強奪――!!

転がる水晶玉と、闇に消えた愛娘の悲鳴。

あまりにも非道なカルトの手口に、怒りが収まりません……!


大切なリリィちゃんを奪われたアレンは、そしてユーリはどう動くのか!?

次回、怒濤の救出劇が始まります!


――――――――――――――――――――

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次回は明日12時10分頃更新します。


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【3連休特別企画! 1日5話・怒涛の一挙更新中!】

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いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!


10月10日(土)〜 10月12日(月・祝)の3連休は、

感謝を込めて【毎日5話ずつ(3日間で計15話)】の超・連続更新でお届けします!


■ 連休中の更新時間(1日5回)

【朝 07:40頃】/【昼前 11:40頃】/【午後 15:40頃】/【夕方 18:40頃】/【夜 21:40頃】


連休のお供に、ユーリたちの熱い戦いと逆転劇をたっぷりお楽しみください!


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次回もお楽しみに!

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