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【第4話】見捨てられた命と、即席の電磁コイル剣

第4話をお読みいただきありがとうございます!


崩落した地下深層。

自慢の宝剣を失い絶望する勇者と、迫り来る残存ゴーレムの群れ。


魔力ゼロの少年が、現場のガラクタから「即席の反撃」を組み立てる――!


どうぞお楽しみください!

すさまじい轟音とともに崩れ落ちた土砂と瓦礫。


落下する激しい浮遊感の中、メリッサが瞬時に展開した光の障壁がクッションとなり、ユーリたちは地下深くの硬い石床へと叩きつけられる衝撃を間一髪で免れた。


「げほっ、ごほっ……! まったく、とんでもない目に遭ったわ……!」


 メリッサが杖の先に小さな魔導光を灯し、周囲を照らし出す。


 そこは、建設現場の遥か最深部――古代の巨大魔導配管が縦横に走る、冷え切った閉鎖坑道だった。


頭上を見上げれば、落下してきた経路は崩れ落ちた岩盤によって完全に埋め尽くされ、地上への退路は完全に遮断されている。


「……クッ、出口が塞がれたか」


 ルシアンが瓦礫を払いながら立ち上がり、悔しげに奥歯を噛み締めた。


 その時だった。


坑道の奥、厚く崩れ落ちた岩盤の向こう側から、微かな人の呻き声と、必死に助けを求める叫びが響いてきた。


「た、助けてくれ……! 誰か、外にいるのか……!?」


「生存者か!」


 ルシアンが駆け寄り、亀裂の走る岩盤の隙間から奥を覗き込む。


 そこには、工事現場の崩落に巻き込まれ、逃げ遅れた建設作業兵士たちが数名、恐怖に震えながら身を寄せ合っていた。


「ル、ルシアン団長!? 団長が助けに来てくださったのか!」


「ああ、安心しろ! お前ら、ちょっとそこから離れてろ!」


 ルシアンは素手を構え、全身の筋肉を隆起させて岩盤に殴りかかろうとした。


「ちょ、ちょっと! ルシアン、何をするつもりなの!?」


 メリッサが慌てて割って入り、叫んだ。


「見ればわかるだろう! この邪魔な岩盤を破壊して、あいつらを助け出す!」


「あなたこそ見ればわかるでしょ! ここは今崩落したばかりの超脆弱地盤よ! そんなことをしたら天井ごと一気に崩れて、奥の兵士もろとも全員生き埋めになるわ!」


「じゃあ、どうすればいいというんだ!」


「そ、それは――」


 二人が言い争った、その瞬間だった。

 キィィン……と、澄んだ高音の魔力共鳴音が、ルシアンの胸元から鋭く響き渡った。


ルシアンが胸元のポケットから取り出したのは、淡い赤色に明滅する掌大の六角形をした魔導鉱石だった。


『マギストーン』。


 遠く離れた場所と直接音声を送受信する通信魔道具だ。高度な技術と希少な鉱石を要するため、軍や王宮の限られた要人にしか配備されない最高峰の通信機である。


 ルシアンがマギストーンの表面のくぼみを押すと、表面の光が強まり、騎士団司令部からの冷徹な男の声がスピーカーのように響いた。


『ルシアン団長か。最深部の崩落状況は上層からも確認した。これ以上の被害拡大を防ぐため、深層区画を外部から完全に遮断・封鎖する』


「なっ……封鎖ですか!?」


『うむ。直ちに魔導部隊による広域焼滅魔術を坑道全体へ流し込み、暴走したゴーレム群を区画ごと消滅処分する決定が下された。生存者の救出は不可能と判断されたのだ。貴様のみ、緊急脱出用の送風配管から直ちに撤退せよ』


「お、お待ちください! 中にはまだ、生きている兵士たちが取り残されているのです!」


『大局を見ろ、ルシアン。君は都市の勇者だ。街全体数万の命を守るため、数名の犠牲はやむを得ぬ。……命令だ、退け』


 ツツッ……と無情な切断音が響き、マギストーンの赤い輝きが冷たく消え失せた。


「く……っ!」


 暗闇の中、重苦しい沈黙が広がる。

 岩盤の向こうから、全てを聞いてしまった兵士たちの絶望に濡れたすすり泣きが漏れ聞こえていた。


「……クソッ! 命令だ……勇者として、より大きな街の平和を守るためには……ここで退くしかないというのか……!」


 ルシアンは血が滲むほど固く拳を握りしめ、苦渋に満ちた表情で膝をついた。

 その背中に、ユーリの冷淡で、しかし芯の通った鋭い声が突き刺さった。


「見捨てるのか」


「仕方ないだろう! 命令だ、俺は勇者だ! より大きな被害をここで確実に止めなければならないんだ!」


「大局だの勇者だの、都合のいい言葉で目の前の命を切り捨てるな」


 ユーリの脳裏に、ただ立ち尽くして手を伸ばせなかった記憶が鮮明に蘇る。

 二度と、あんな思いはしない。目の前で理不尽な事態が起きているなら、後悔しない行動をとる。


「そんな理不尽な選択、絶対に納得いかない。全員助ける」


 ユーリはそう言い捨てると、一人で暗闇の奥――残る暴走ゴーレムの足音が響く広い坑道区画へと、迷いなく駆け出した。


「おい、待て! ……クソッ、俺だって見捨てたいわけがない!」


 ユーリの揺るぎない覚悟に魂を揺さぶられたルシアンは、叫びながらその後を追った。


開けた広大な地下作業区画。

 その中央には、赤黒い不穏な光を放ち、周囲の建造物を手当たり次第に破壊している大型ゴーレムが三体、凶暴に徘徊していた。


「あいつらの動きを止めてくれれば、後頭部の紫色の澱みを剥がせる」


 立ち止まったユーリが、後から追いついてきた二人に指示を出す。


「そうすれば一時的に奴らの動きが止まる。そこにさっきみたいにメリッサが魔法を撃ち込んでくれれば、確実に破壊できるはずだ」


「攻撃してくれって言っても、さっきの『剛雷天穿《エクス・トニトルス》』みたいな大技は発動までに魔力を練る時間がかかるわ! 足止めしてくれる前衛がいなきゃ、私が狙い撃ちされて終わりよ!」


「俺は……さっき大剣を投げ捨てられてしまって、武器がない……!」


 ルシアンが悔しげに両手を握りしめる。

 ユーリは周囲の瓦礫に視線を走らせた。


 破壊された建設資材の山から、手頃な長さと強度を持つ硬質な木材の角材――一本の棒切れを拾い上げる。


さらに、崩れた壁の配管から引きちぎられて垂れ下がっていた、細い金属線を力任せに手繰り寄せた。


「メリッサ、この線って何だ?」


「え? ああ、それは『導魔線』よ。魔力を効率よく、決まった方向へ伝えるための金属線だけど……それがどうかしたの?」


「なるほど。――メリッサ、来る途中に見せてくれた、魔力を蓄積する石を貸してくれ」


「魔石のことね? 持ってはいるけれど、何に使うのよ?」


 怪訝な顔をしながらも、メリッサは腰のポーチから青く澄んだ魔石を取り出してユーリに手渡した。


「こいつを、ここにくくりつけて……」


 ユーリは棒切れの根本――剣でいう柄にあたる部分に魔石を押し当て、導魔線で何重にも固く巻き付けて固定した。


そして、余った長い導魔線を、棒切れの先端に向かって均等な間隔で、規則正しいコイル状――螺旋状に隙間なくぐるぐると巻き上げていく。


「これでよしっと!」


「これでよしって……何ができたのよ?」


 首を傾げるメリッサを余所に、ユーリはその奇妙な棒切れを、ルシアンへと無造作に放り投げた。


「ルシアン。武器がないって言っただろ、これを使え」


「な……っ!? こんな棒切れと金属線のガラクタで戦えというのか! 私を愚弄するのも大概にしろ!」


 受け取ったルシアンが激昂する。

 しかし、その構造を間近で見たメリッサが、目を見開いて息を呑んだ。


「……あ、なるほどね! ルシアン、いいから魔力を流しなさい! 最初はゆっくりよ。剣を自分の手の延長線上にあるとイメージして循環させるの!」


「こ、こんなものに流しても……」


 半信半疑のまま、ルシアンが柄の魔石へと体内の魔力をゆっくりと注ぎ込んだ。

 その瞬間――


 キィィィィン……!


 角材に巻き付けられた螺旋状の導魔線が、眩い青白の光を放って脈動を始めた。


 柄の魔石から供給されたエネルギーが、コイル状の金属線を通ることで整流され、余計な出力変換回路を一切介さず、ルシアン自身の体内魔力と完全に共鳴したのだ。


刀身に見立てた木材の周囲に、かつての宝大剣を遥かに凌駕する、超高密度の澄み切った風の刃が立ち現れる。


「お、おお……っ!? 何だこれは……!?」


 ルシアンは目を見張り、自らの手の中で唸りを上げる即席の剣を見つめた。


「汚染されていない魔剣なんて、この近くにはなさそうだからね」


 ユーリが淡々と言葉を継ぐ。


「話を聞く限り、出回っている新型の剣は全てMOSに汚染されていると思った方がいい。だとしたら、余計な回路のない即席の剣を使った方が、よっぽど確実な武器になる」


「すごい……! 確かに調整は荒く出力の限界も未知数だが、体内の力が一切引っかかることなく、どこまでも素直に巡っていく……! これなら、戦えるぞ!」


「それはそうでしょうね」


 メリッサが感嘆の声を漏らしながら補足する。


「一般的な魔法剣はいろんな術式に変換する機能を持っているけれど、これは極めてシンプルに魔力を純粋な運動エネルギーへと変換しているわ。あなたのイメージする技に、この剣はダイレクトに応えてくれるはずよ」


「よし……行くぞ! この剣があれば、奴らを打ち砕ける!」


 ルシアンが気迫を漲らせ、即席のコイル木剣を構えて前方のゴーレムへと踏み出していった。


勇ましく前進するルシアンの後ろ姿を見送りながら、メリッサがユーリの横に並び、感心しきった様子で呟いた。


「それにしてもあなた、よくあんな即席で魔剣なんて作れたわね。古代の魔導工学の知識でもあったのかしら?」


「できたのを見て、同じようにびっくりしているところ」


「……え?」


 メリッサが怪訝そうに眉をひそめた。


「適当だったの?」


「うん。最悪、魔石を握りしめて素手で殴ってもらおうと思ってた。ルシアンって脳筋っぽいから、雰囲気だけあったら頑張ってくれるかなーって」


「あ、あんたって……結構ひどいわね」


 呆れ果てて半目になるメリッサに対し、ユーリは何食わぬ顔で肩をすくめた。


 だが、その瞳は冷徹に細まり、徘徊する三体の鋼鉄の巨躯を、正確に観察し捉えていた。


(……全員、必ず連れて帰る)


 見過ごすことのない、後悔のない結末を掴み取るために。


 ユーリは静かに息を整え、反撃の瞬間を見据えた。

第4話をお読みいただき、本当にありがとうございました!


「武器がないなら、作ればいい」

魔力のないユーリが、現場に転がっていた棒切れと銅線、そして魔石を組み合わせて仕立て上げた――即席の電磁コイル剣!

科学的アプローチと知略で絶望的な戦況をひっくり返していく展開、お楽しみいただけましたでしょうか?


次話、ついにあの傲慢だった『風の勇者ルシアン』が――!?

衝撃の覚醒と、伝説の手のひら返し土下座が炸裂します!


「ガラクタから武器作る知略がいい!」

「ルシアンのリアクションが楽しみすぎる!」

「テンポが良くて一気に読んじゃう!」


と少しでも楽しんでいただけましたら、

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次話【第5話:木屑の覚醒と、手のひら返しの土下座】へ続きます。

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