【第3話】暴走する増幅器と、深淵への崩落
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突如として発生した、建設用ゴーレムの集団暴走。
街の英雄『風の勇者』が誇る至高の魔大剣に、見えない不具合が牙を剥く――!
どうぞお楽しみください!
魔導登録所を飛び出し、石造りの街並みを馬車で疾走する道中。
車輪が激しく石畳を叩く激しい揺れの中、メリッサは腰の革ポーチから、淡く青い光を放つ手のひら大の結晶を取り出した。
透き通った鉱石の内部で、濃密な光が渦を巻いている。
「それは?」
対面に座るユーリが問いかけると、メリッサは結晶を細い指先で弄びながら得意げに頷いた。
「これは『魔石』よ。体内の魔力と共鳴させて、あらかじめ蓄えてあるエネルギーを急速変換する触媒ね。杖や剣の基部に接続することで、術者の負担を減らしつつ、何倍もの高出力な魔法や技を引き出すことができるの」
「なるほど」
道具に魔力を注ぎ、魔石で増幅して放出する――
この世界の戦士たちが頼る出力システムの基本形だ。外部バッテリーや追加ユニットの接続に近い構造だと、論理的に把握する。
「それなら、さっき街の人が言っていた『MOS』というのも同じようなものなのか?」
気になっていた単語を投げかけると、メリッサはわずかに眉をひそめ、薄い唇を尖らせた。
「ああ、あれね。『MOS』――正式名称は『Mana Optimization Socket』。直訳すれば『マナ最適化基部』よ。既存の魔道具の回路に外付けするだけで、魔力消費を大幅に抑えつつ出力を二割以上も跳ね上げるっていう触れ込みの最新チップね。出所が不透明で胡散臭いことこの上ないけれど、手軽に強くなれるからって、今じゃ街中の騎士や冒険者がこぞって買い求めているわ」
最適化、効率化――聞こえはいい。
だが、基盤の構造を詳しく知らぬまま外部から強制的に割り込ませる部品など、不具合の温床でしかないのではないか。
そんな懸念を抱く間もなく、馬車は急停止した。
都市の北西に位置する『第三建設現場』の縁。
扉を開けた瞬間、凄まじい砂嵐と鼓膜を震わせる轟音が全身を叩いた。
そこは、巨大な吹き抜け構造を持つすり鉢状の大規模採掘・建設現場であった。
すり鉢の底にあたる広大な炭鉱作業場を中心に、十メートルを超える巨躯を誇る建設用ゴーレムが、金属と岩石でできた太い両腕を狂ったように振り回して暴れ回っている。
「ひ、ひえええっ! 出力制御が完全に吹き飛んでいるわ!」
メリッサが銀髪を乱しながら叫ぶ。
吹き抜けの縁にある上層テラスでは、すでに街の守護騎士団――衛兵傭兵団が展開していた。
「ハハハ! 大賢者様、ようやくお着きですか!」
勝ち誇った笑みを浮かべて現れたのは、白銀の軽鎧を纏った騎士メンフィスだった。
腰の新型魔力剣の柄を叩き、ユーリを冷笑で見下ろしてくる。
「見ていろ、魔力ゼロの役立たず! 最新の出力向上チップ『MOS』を搭載した我らの新型魔力剣の威力、その節穴の目に焼き付けるがいい!」
「待て、その剣を使うな」
ユーリの【眼】には、メンフィスたちの剣の根元に取り付けられた黒いチップから、おぞましい『紫色のノイズ』が溢れ出し、刀身の回路を急速に侵食していくのがはっきりと視えていた。
「ハッ、無能の嫉妬など見苦しい! 貴様ごときが理解できる技術ではないのだ! 者ども、一斉に出力を上げろ!」
メンフィス率いる数名の騎士が魔力を一気に解放した。
その瞬間――
キィィィィィンという耳を劈く金属音が響き、剣は眩い光を放つ代わりに、紫色の毒々しいスパークを激しく噴き上げた。
「な、なんだ!? 魔力が逆流して――」
「熱い、剣が破裂する――ぎゃああああっ!?」
ドゴォォォンッ!!
過負荷による大爆発が巻き起こり、騎士たちの魔力剣が次々と破裂。
メンフィスらは吹き飛ばされ、手首を押さえて地面を転がり、無様な悲鳴を上げて壊乱した。
「ええい、不甲斐ない奴らめ!」
吹き抜けの縁へ、重厚な足音とともに一人の男が進み出た。
黄金の髪をなびかせた青年、『風の勇者』と称される衛兵騎士団長ルシアン。
彼は倒れ伏す部下たちを一瞥すら傲慢に切り捨て、腰から豪奢な装飾が施された大剣を引き抜いた。
その剣の柄にも、部下たちと同じ『MOS』チップが鈍く黒い光を放って増設されていた。
「ルシアン団長……! お助けを……!」
「黙って見ていろ、メンフィス。貴様らのように薄弱な魔力しか持たぬ者とは器が違うのだ」
ルシアンはフンと鼻を鳴らし、それから背後に立つユーリへと、底冷えのする侮蔑に満ちた視線を向けた。
「大賢者殿に拾われただけの無能な異邦人よ。貴様のような役立たずには、選ばれし勇者の力など想像もつかんのだろうな。あのような木偶人形、我が至高の魔大剣の一撃で塵に変えてくれる」
「やめておけ。その剣はもう――」
「指図するな、路傍の石ころが!」
ユーリの警告を、ルシアンは激しい一喝で遮った。
「貴様のような魔力の一滴すら持たぬ者に、この神聖なる魔大剣の何がわかる! 恐怖で震えてその場にうずくまっていろ!」
ルシアンは大剣を両手で構え、体内の全魔力を一気に注ぎ込んだ。
彼が過去にドラゴンを討伐したとされる絶大な魔力。それが大剣へと雪崩れ込む。
しかし――
キィィィィィィィ――……ッ!
耳の奥を突き刺すような不可聴域の超高周波と、過剰な魔力の流入が同時に引き金となった。
大剣の根元のMOSチップから、大量の『紫色のノイズ』が噴き出し、刀身の美しいルーン回路を瞬く間に侵食していく。
刀身から放たれるはずの風の刃は立ち上がらず、柄全体がドス黒い紫色に変色し、激しい電撃がルシアンの両腕を打ち始めた。
「ぐ、うわあああっ!? な、何だこれは……!?」
「ルシアン、早く剣を手放しなさい!」
メリッサの悲鳴が飛ぶが、ルシアンは頑なに柄を握りしめ、脂汗を滝のように流しながら叫んだ。
「ば、馬鹿な……! 我が一族の至宝が……この程度の負荷で屈するはずがない……! 私を誰だと思っている、街を救った勇者だぞ……! 御せぬはずがない……私が……力でねじ伏せてみせる……ッ!」
自尊心と傲慢さが邪魔をして、自滅の危機にあっても道具への依存を手放せない。
手の中で膨張する紫色のエネルギーは限界を超え、今まさにルシアンの腕ごと、彼の上半身を消し飛ばす臨界点に達しようとしていた。
(……見過ごせない)
瞳が冷徹に細まる。
理不尽に命を散らそうとしている姿。
かつてただ立ち尽くし、目の前で手を伸ばせなかった悔恨の記憶が重なり、ユーリの足を迷いなく前へと踏み出させた。
無造作に距離を詰め、紫色の致死的なスパークが狂い咲く大剣の柄へと、躊躇なく素手を伸ばした。
「なっ、貴様、触れるな! 死ぬぞ――」
ルシアンの制止を完全に無視し、その手首を掴むと同時に、暴発寸前の魔大剣を強引に引き剥がし、奪い取った。
魔力を持たない手は、魔導の暴走エネルギーを完全に無視する。
「か、返せ! 私の剣を――」
大剣を奪われたルシアンは血相を変えて手を伸ばすが、目の前でユーリは、テラスの手すりに足をかけ、眼下のすり鉢の底に向かって大きく腕を振りかぶっていた。
誰がどう見ても、全力で投げ捨てるフォームだ。
ルシアンの顔から一瞬で血の気が引き、額から滝のような冷や汗が噴き出した。
「ちょっ、ちょっと待て! 貴様、何をするつもりだ!?」
「何って、見てわかるだろう」
平然とした顔で、投擲の角度を微調整する。
「待て待て待て待て!! それは私の大事な大事な国宝の剣だぞ!?」
「それはさっき聞いた」
「いや、だから! 我が一族に代々伝わる、この世に二つとない至高の大事な剣なんだ! それを投げるなど正気の沙汰ではない!」
「大事な剣だか何だか知らないが、これをこのままここで持っていたら、ここにいる全員の命が危ないんだ」
「私はその剣に命を捧げているんだ!!」
喉が張り裂けんばかりに絶叫するルシアンに対し、肩をすくめて冷ややかに返した。
「言葉としては美しいかもしれないけれど、意味が全然違う。本当に剣なんかに命をかけるなんて、馬鹿らしいと思わないか」
「そ、それは私の勝手で――」
「そんなのは馬鹿らしい。だから、こうする」
説得の言葉を最後まで言わせることすらなく、冷淡に言い放った。
「不良品は、使い道を変えるべきだ」
眼下に広がるすり鉢状の吹き抜け、暴れ狂う巨大ゴーレムの足元――その動力関節部を目がけて、臨界に達した魔大剣を力任せに投げつけた。
「ああああああっ! 私の宝大剣がァァァーーッ!?」
ルシアンの絶望の絶叫を置き去りにし、放物線を描いて落下する大剣。
ゴーレムの足元に突き刺さった刹那――
ドゴォォォォォンッ!!!
凄まじい衝撃波と爆炎が吹き抜けを駆け上がった。
下半身の関節を吹き飛ばされた巨躯のゴーレムは大きくバランスを崩し、巨体を揺らして一時的な機能不全を起こし、動きを止めた。
「メリッサ、あのゴーレムの頭の上に乗りたい」
「はあぁっ!? 頭に乗るって……うーーん、あんまり無茶言わないでよね!」
メリッサが即座に杖を振るい、ユーリの足元に圧縮された風の結界を展開する。
テラスの端を蹴り、吹き抜けの虚空へと迷いなく飛び出した。
風の後押しを受けて弾丸のように宙を舞い、十メートル下にいる暴走ゴーレムの巨大な後頭部へと軽やかに着地した。
ゴーレムの頭頂部。
ユーリの【眼】には、装甲の隙間から露出した制御中枢と、そこに分厚くこびりついた『紫色の澱み』――MOSチップから漏れ出した不純なマナのノイズが、明確な実体を持って視えていた。
「剥がれろ――」
指先をねじ込み、世界の回路を歪めるその不純物を、強力なテープを引っぺがす感覚で鷲掴みにした。
そして、全身の力を使って、一気に、強引に引き剥がす。
ビリリィーー……ッ!!
空間を切り裂くような甲高い音が響き渡り、引きちぎられた紫色のノイズは掌の中で実体を失い、青白い粒子となって空気中にサラサラと霧散した 。
キィィン……とゴーレムの唸り声が収まり、全身を包んでいた凶暴な駆動音が急激に減衰する。
しかし――完全には停止しなかった。
ギギ……ギギギ……と、緩慢ながらも再び巨大な腕を持ち上げようとする。
「な、治ったわけじゃないのか!?」
テラスから見下ろすルシアンが、動揺に声を上ずらせて叫んだ。
「でも、ここまでくれば十分よ!」
吹き抜けの上空から、メリッサが凛とした声を響かせた。彼女の構える杖の先端に、眩い黄金と青白の雷光が収束していく。
「因果を穿ち、乱れし鋼を撃ち砕きなさい――『剛雷天穿』ッ!」
放たれた極大の雷撃槍が、不純物を剥ぎ取られて無防備になったゴーレムの首元の装甲の亀裂へと、正確無比に突き刺さった。
ズドォォォォォンッ!!
内部から炸裂した雷光が巨大な鉄塊を粉砕し、ゴーレムは完全に沈黙して、膝から崩れ落ちた。
破壊されたゴーレムの背中から、軽やかに炭鉱フロアの地面へと飛び降りた。
上層のテラスから、メリッサが風を纏ってふわりと着地し、続いてルシアンも飛び降りて合流する。
「……ふ、ふん! 異邦人にしては悪くない目くらましだったが、私の宝大剣を身勝手に投げ捨てた罪は極めて重いぞ! 後でたっぷり責任を追及してやるからな!」
ルシアンは青ざめた顔を必死に取り繕いながら、悔しそうに拳を震わせて睨みつけてきた。
「とりあえず、これで一体は片付いたわね。さあ、残りのゴーレムを――」
メリッサが安堵のため息をつきかけた、その時だった。
ミシミシ……メリメリメリッ!
不気味な破砕音が、三人の足元全体から響き渡った。
「……え?」
先ほどの魔大剣の大爆発、巨躯が倒れ込んだ衝撃、そしてメリッサの貫通魔術の余波。
脆弱な石灰岩の採掘層が、その激震に耐えきれず、限界を迎えていた。
足元の石床に、放射状の巨大な亀裂が一瞬で走る。
「しまっ……地盤が崩れるわ!!」
「な、何だと――!?」
メリッサとルシアンの叫びも虚しく、すり鉢の底の岩盤が、巨大な円形を描いて一気に崩壊した。
ズズズズズズズンッ――ドッシャァァァン!!
「うわああああっ!?」
足場を失ったユーリ、メリッサ、ルシアンの三人は、大量の瓦礫や土砂とともに、地上から完全に隔離された暗黒の地下深層――最下層の閉鎖坑道へと、真っ逆さまに呑み込まれていくのだった。
第3話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
「不良品は、使い道を変えるべきだ」
プライドに囚われて自滅しかけていた勇者の宝剣を、迷いなく投げ捨てて爆弾代わりに活用するユーリ。
素手でマナの不純物を引き剥がしてゴーレムを沈めたものの……まさかの足元崩落で地下深層へ真っ逆さまに!?
果たして、閉ざされた地下坑道でユーリたちは生き残ることができるのか……?
「宝剣投げ捨てて爆破したの爽快すぎる!」
「ユーリの割り切りと行動力がカッコいい!」
「ここからどうやって脱出するのか気になる!」
と少しでもワクワクしていただけましたら、
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次話【第4話:見捨てられた命と、即席の電磁コイル剣】へ続きます。
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