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【第2話】測定不能の無能と、大賢者の大ばくち

第2話をお読みいただきありがとうございます!


測定ゼロの落ちこぼれ少年と、800年を生きる幼女姿の大賢者。

奇妙な二人の出会いから、運命の歯車が動き出します。


どうぞお楽しみください!

「ちょっと! これどういうことよ!どんなメンテナンスをして貸し出したら、特級拒絶結界を上書き保存されるような深刻な不具合《バグ》を起こすのよ!」


魔導商都グランデール。


 活気あふれる石造りの街並みを一望する暇もなく、ユーリは大賢者メリッサに引きずられ、街の中心にある『魔導登録所』の受付へと叩きつけられていた。


受付の役人は、見た目は愛らしい幼女なのに中身は完全な「怒れる大人の女性」であるメリッサの怒号に、顔を真っ青にしてガタガタと震えている。


「こ、これは大賢者様……しかし、古代魔導具のレンタル契約書第十二条の免責事項にもあります通り、想定外の魔力干渉による作動不具合《バグ》は……」


「言い訳は見苦しいわ!あやうく美しい肉体が塵に還るところだったのよ!?これじゃあ、ローンを組むより、一括で買って固定資産税を払った方がマシだったわ!」


「え?肉体って……?」


「ちょっと!いま、私の美しい肉体ってところに引っかかったわねっ」


幼女の姿のメリッサが役人の襟首をつかむ。


役人は目を白黒させている。


 その横で、ユーリは大きなため息をついた。


(この世界のこともまだ何もわからないのに、こんなところで何をやっているんだろう)


「おやおや。何事かと思えば、大賢者メリッサ様ではありませんか。公の場でみっともない大声を上げるのは、どうかお控えいただきたい」


その時、背後から底意地の悪い、気取った声が響いた。


振り返ると、そこにいたのは、仕立ての良い白銀の軽鎧を身に纏った若者だった。


 腰には、魔力を流し込んで刀身を形成するための精密な『剣』をこれ見よがしに下げている。


エリートの雰囲気を全身から漂わせる、街の王都管轄の衛兵傭兵団の団員だ。


「……何よ、ルシアンの部下たちじゃない。たしか、メバルだっけ?」


メリッサが不機嫌そうに目を細める。


「メンフィスですっ!魚みたいな名前で呼ばないでください!!」


(こっちの世界にもメバルって魚いるんだ)


「あ、違った?ごめん、ごめん。ほら、久しぶりに会ったから、ついうっかりしちゃって」


「先週、『酔っ払い亭』で一緒になったばかりじゃないですか!っていうか、うっかり間違えるような名前じゃないんですよね!」


メンフィスと名乗った衛兵の顔は怒りで引きつっている。


 そこでようやくユーリの存在に気づいたのか、遠慮なしに着ている学生服をじろじろと見つめ、小馬鹿にしたような目を向けた。


「メリッサ様、そちらの珍妙な衣服を着た、ひょろひょろとした男は?まさか、あなたの新しいお弟子さん、なんて言いませんよね?」


「まーね。この子は今から魔力測定をして、滞在許可の登録をするところよ」


「魔力測定? そいつの?」


メンフィスは直後に、こらえることもせずに吹き出した。


「ハハハ! 魔力測定器に乗せるまでもありませんよ!どう見たってただの凡人。いや、それ以下の『無能』だ!」


「いいえ。この子はあなたたちみたいな中身空っぽの騎士が束になっても届かない、世界の因果を調律する力を持っているわ。言葉を慎みなさい」


メリッサが毅然と言い放つ。


しかし、メンフィスはさらに嘲笑を深めた。


「因果の調律、ですか。 相変わらず、未だに古代の術式にばかりしがみついている時代遅れの『昔の魔導士』様は、言うことのスケールだけは大きい。 身の程知らずの子供がお似合いだ」


「……なんですって?」


メリッサの額に、ぴきっと青筋が浮かんだ。


 見た目は少女だが、彼女は八百年もの時を生きる大賢者だ。


そのプライドを「時代遅れ」と足蹴にされたことが、彼女の怒りに完全に油を注いだ。


「この子が、あなたたちより優れた能力を持っていたら、どうするのよ!」


「ん? そーですね、その日の夜の『酔っ払い亭』に来た客全員分、奢りますよ」


メリッサはメンフィスを睨みつける。


 彼女が何かを言う前に、メンフィスは不敵に人差し指を立て、高らかに宣言した。


「その代わり、能力を試すのはこの後、我々の部隊が合流する建築現場のゴーレムを鎮める作業。

それでいいですね?」


「ず、ずいぶん用意周到じゃない」


「もともと、あなたに依頼しようと思って声をかけたわけですから」


「ユーリ、そこに行きなさい!」


メリッサが、ユーリの背中を測定台へと強く押し出す。


「え? いや、別に……」


「いいから! この愚か者たちの節穴な目を丸くさせてあげるわ!」


「その代わり、この少年が私の言った通り平凡なボンクラだった場合、今回の依頼はノーギャラという事で」


「い、言ったわね――。わかったわ、受けて立つわ!私たちが勝ったときには三枚におろしてやるから覚悟しなさいよねっ!」



押し出されるまま、ユーリは円錐形の『魔力測定器』の前に立った。


役人が、早くこの場を収めたいとばかりに、おののきながら測定の起動スイッチを押す。


「いいか、そこの台に両手を乗せて、自分の『魔力』を意識しろ」


魔力、と言われてもユーリにはさっぱりわからない。


 しかし、これ以上揉めるのも面倒だ。


ユーリは言われた通り、半球状の魔導クリスタルに、そっと両手を乗せた。


しん、と静まり返る測定室。


クリスタルは輝くことも、唸ることもない。ただ、冷たい石のまま静止している。


 数十秒が経過した頃、測定器から「ブブー」と、残念なエラー音が響き渡った。


『魔力測定結果:ゼロ』


表示板に浮かび上がった文字を見て、メンフィスと周りの野次馬は大爆笑した。


「ギャハハハハ!本当に測定不能、正真正銘の『魔力ゼロ』じゃないか!」


「路傍の石ころ以下だ!魔力の一滴すら宿っていない魔力なしの子供を『世界の調律師』だって? おい役人、そこの不許可の書類の確認をしろや!」


役人もまた、ユーリを憐れむような、あるいは軽蔑するような目を向けた。


「いい、ユーリ、気にしちゃダメよ! この測定器自体が、ただの魔力の量しか測れない脳筋仕様なだけなんだから!」


メリッサがユーリの前に立ち塞がり、鋭い目で睨みつける。


「あなたたち、後で泣きついても絶対に許してあげないんだからね! この子の異質さが理解できないなんて、本当に哀れな節穴だわ!」


だが、当のユーリは、怒るメリッサの横で実に冷静だった。


 魔力がないなど、現代日本から来たのだから当たり前だ。


ん?この場合、異世界といったほうがいいのだろうか。


それよりも、ユーリの【眼】は、その魔力測定器の「中身」をじっと捉えていた。


(……なんか、この測定器、回路の繋ぎ目が不自然にねじ曲がっているな。表面に取り付けてある機械から、メリッサが言っていたような魔力の輝きが見える)


もちろん、それを今ここでわざわざ教えてやる義理はなかった。

これ以上、目立ちたくもない。


その時だった。

登録所の厚い両開きの扉が、バァン!と乱暴に押し開けられた。


 全身に泥を浴び、息を切らした伝令の衛兵が室内に転がり込んでくる。


「緊急事態です! 北西の第三建設現場にて、大型の建設用ゴーレムたちが一斉暴走を初めました!!」


「なにっ!?」


嘲笑っていたメンフィスが、一瞬で表情をこわばらせた。


「現場は!? ルシアン隊長はどうされている!」


「ルシアン隊長が率いる本隊が現場で包囲し、総力を挙げて抑え込んでいますが、ゴーレムたちの出力が異常に跳ね上がっており、完全に手がつけられません! 一刻も早い増援を!」


それを聞いたメリッサの瞳が、ギラリと好戦的に輝いた。


「ゴーレムの集団暴走不具合《バグ》ね。 ……ふん、ちょうどいいわ! そこのお魚たちに、私たちの実力を見せつけてやる絶好のチャンスよ!」


メリッサは不敵な笑みを浮かべ、ユーリの首根っこをガシッと掴んだ。


「行くわよ、ユーリ!」


「は? ちょっと待って!」


ユーリは襟元を掴む小さな手を、必死に剥がそうとした。


だが、見た目に反して、大賢者の身体能力は恐ろしく高い。びくともしなかった。


「命の危険があるんだろう! そんな危ないところ、絶対に行きたくない!」


「何言ってるのよ! この世界の術式システムを現場で直接学ぶ、これ以上ない絶好の機会じゃない!」


「そんな殺気立った現場で、のんびり勉強なんてできるわけないだろ!」


「大丈夫よ! 死ぬ気になれば何でもできるわ!」


「いやいやいや! 死んだら意味ないから!!」


必死の抗議を、メリッサは「はっはっは!」と大人の余裕の笑い声で完全に聞き流した。


「安心しなさい、私がついているわ! さあ、あの節穴騎士どもの鼻を明かしてあげるわよ!」


「巻き込まないでほしいんだけど――ッ!?」


悲痛な叫び声が登録所に響き渡る中、メリッサはユーリを引きずり、もの凄い速度で外へと飛び出していった。


残された衛兵たちは、呆然とその後ろ姿を見送っていたが、すぐに忌々しげに顔を歪めた。


「あの狂い咲き大賢者め、死ににいくか。 ……行くぞ、我らもルシアン隊長の元へ! あの無能なガキがゴーレムに踏み潰される様を、特等席で見物してやろう!」


こうして、嵐の吹き荒れる建設現場へと、全ての役者が引き寄せられていくのだった。

第2話をお読みいただき、本当にありがとうございました!


魔力ゼロの無能扱いから一転、大賢者メリッサに見出されたユーリの【眼】。

しかし、街ではすでに巨大な「不具合(事件)」が動き始めていました……!


次話、大規模な建設現場でゴーレムが集団暴走!?

街の英雄『風の勇者ルシアン』が登場し、物語は一気に加速していきます!


「先が気になる!」

「テンポが良くて面白い!」

「メリッサとの掛け合いが良い!」


と少しでも思っていただけましたら、

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次話【第3話:暴走する増幅器と、深淵への崩落】へ続きます。

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